放置プレイは良くないと思います。
「バカシンジっ!いい加減にしなさいっ!」
突然目の前に現れた女の子が、そう叫びながら俺の前に来て殴りかかってくる。
手には水晶のようなものを持っている……それがわかるくらいには余裕があったが、それを避けると余計面倒な事になる気がした。
何故、そう思ったかは分からない……分からないが、あえてそのままの流れに身を任せる。
そして彼女の手にした水晶が俺の額に押し付けられ……光が弾けた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
辺り一面、真っ白い闇……ここは以前来た事がある。
さっきまでクリスがいて、リディアとアイリスとお茶をしながら今後の事について話していて……ウン、直前の事はハッキリしている。
……ここはどこなんですかねぇ?
のんびりとした感じの意識を感じる……リディアだ。
すると、リディアも一緒にここへ?
(乱暴な手段で呼び出して申し訳ありません。緊急事態なのでご容赦願います。)
……やっぱり女神様?シンジはどうなってるの?
(様々な諸事情で、シンジ様には戻っていただきたいのですが、記憶を封じた弊害か、本人に戻る気がなくて……困ったものです。)
困りましたわ、とため息をつくイメージが伝わってくる。
……戻る気が無いって、どういう事よっ!
(今の生活がよほど気に入っているみたいですね。)
……シンジさんらしいですぅ。
……でも、私達を放っておくのは許せないわ。
(そこでお二人にお願いがあるのです。シンジさんを連れ戻してもらえませんか?)
女神様から流れてきたイメージで、私達がやる事がわかる。
シンジのいる世界に行って、シンジの記憶を戻し、期間のトリガーであるクエストをさっさと終わらす……それでこっちの世界に戻ってこられるらしい。
(あなた方が訪ねた雪原まで移動してから、これに魔力を通してくださいね。)
女神様から何かが手渡されるイメージ……。
(では、後はお願いしますね。)
その言葉を最後に私の意識が真っ白い闇に飲み込まれる。
◇
「目が覚めましたか?」
アイリスが心配そうに見つめている。
「ん……リディアは?」
「あ、横に……目を覚ましたようですわ。」
アイリスはリディアに声をかけている。
その間に、私は今起きた事をまとめる。
シンジを連れ戻すために、山脈まで移動。
そこでこれを使う……と。
私は手に握り込んでいた魔石を見る。
半透明の水晶みたいで、中に魔法陣らしきものが見え隠れしている。
「ん、エル……ちゃん……シンジさんの事……。」
まだ意識がはっきりしないのか、少しふらついているリディアを支えながら声をかける。
「ウン、少し休んだら迎えに行こうね。」
「待たせ……たんだから……お仕置き……だね。」
「ウン、お仕置きだよ、だから今はゆっくり休んでね。」
私はアイリスに手伝ってもらって、リディアを奥の寝室へ運ぶ。
ここはシンジの部屋だけど、今は使わせてもらうね。
「アイリス、ゴメン。私も少し休むからあとお願いね。」
アイリスにそう伝えて、私もリディアの横に寝転がる。
あっという間に睡魔に襲われていく。
「ゆっくり休んでくださいね。」
遠くでアイリスがそんな事を言ったような気がした……。
◇
……ん?……何か柔らかいものが唇に触れる。
シンジかな?
シンジは最初優しくて次第に激しく……。
……って、シンジ!?
私は慌てて目を覚ます。
目の前にはリディアの顔が間近にあった。
「あ、エルちゃん、おはよ。」
「おはよ……って、いま、なにをっ!」
私は手で口元を覆う。
「何って……エルちゃんが求めてきて、それで私も目が覚めたんだけど、エルちゃん激しくて……まぁエルちゃんならいっかって。」
……どうやら寝ぼけたのは私の方だったらしい……なんか、昔同じ様な事があった気もするけど……。
「ゴメンねっ!それと忘れなさいっ!今すぐ忘れなさいっ!」
「えぇー、別にいいじゃない。エルちゃん可愛かったしぃ……何なら、このままする?」
リディアが甘い声で囁いてくる……ダメ、この子ヤバいわ。
「しないわよっ!」
私はベットから跳ね起きて身支度をする。
あのままだったら、リディアを押し倒すか押し倒されるかしてたかもしれない……それほど魅惑的な表情だった……アレをやられても理性を保てるシンジって、かなりの大物?
「ねぇ、リディア?」
「ん?なあに。」
私は同じく身支度を整えているリディアに声をかける。
「あなた『魅了』の魔法使えるんじゃないの?」
「そうかな?考えた事もなかったけど、今度練習してみようかな?」
「使える様になっても、私達には向けないでね。」
私はそう釘を刺しておく。
素であれだけの威力があるのだ、これに魔法が加わったら抵抗出来る気がしない。
『着装』
私は身支度を整え終わると、最期に魔力を流す。
私の身体が光に包まれ、シンジの作ってくれた装備に切り替わる。
隣では同じ様に魔力を流して装備を切り替えたリディアがいる。
「いこうか?」
「うん。」
私達は連れ立って寝室を出て、執務室の横の部屋へと移動する。
ここはシンジが忙しいときに食事がとれるようになっている部屋だ。
そこでは予想通りアイリスが食事を用意してくれていた。
「元気そうで良かったです。すぐ召し上がれますよ。」
そう言ってテーブルにパンとスープ、簡単なオードブルを出してくれる。
私は食事をとりながらアイリスに詳しい事を話す。
「そう言うわけだから、アイリスも早く準備してきなさいよ。」
私がそう言うと、アイリスは静かに首を振る。
「私は行けませんわ。」
「なんで?」
リディアも疑問に思ったのかそう訊ねる。
「今のこの状況ですと全員が留守にするのは好ましくありませんわ。クリスさんのサポートも必要になると思いますし、私が残る方がいいと思いますの。」
アイリスの言う事はもっともだけど……。
「えー……。」
リディアも反論が思い浮かばず押し黙る。
「……ウン、ごめん、そしてありがとう。必ずシンジを連れ戻すからね。」
「はい、お願いします。」
そう言って頭を下げるアイリスの肩が小刻みに震えている。
アイリスだって、本当は行きたいのだ。
だけど、誰かが残らないと、シンジが戻る前にこの街がおかしくなってしまうかもしれない。
だから残って帰りを待つという選択をしたアイリスを、私は素直に尊敬する。
私はアイリスを抱き寄せ、もう一度宣言する。
「必ずシンジを連れ戻して、頭を下げさせてあげるからね。」
私の腕の中でアイリスが、コクリと小さく頷いた。
◇
『集光の矢!』
私が放った光の矢が、ビックボアの額を貫く。
それがトドメとなり、ビックボアの巨体が崩れ落ちる。
「ふぅ……やっぱり二人だときついわね。」
「そうだねぇ……私達か弱いからねぇ。」
そう言いながら辺りを見回すリディア。
周りには、二人が倒した魔獣が山となって折り重なっていた。
「さて、急ぎましょ。目的地はもう直ぐよ。」
私はリディアを促す。
雪原についたらこれに魔力を通す……そうすればシンジの下へたどり着ける。
あと少しだよ。
私達は、邪魔する魔獣を撃ち払いながら歩き続けて、ようやく目的の雪原へとたどり着く。
「ここね……。」
私はリディアを見ると、彼女も頷いてくれる。
それを確認して、私は女神様からもらった魔石に魔力を流し込む。
魔石から光が溢れ出して、周り全体を覆いつくす。
何も見えなくなる……。
真っ白な闇に包まれて、様々なイメージが広がる。
私がやるべきことに関しての助言の様な感じの情報だった。
(その魔石を彼の額に当てれば、記憶が戻るでしょう……後は頼みましたよ。)そして、 最後にそんな言葉を残して、私の意識が放り出される感じがして……気づいたら私は見知らぬ場所に立っていた。
「ここは?」
「シンジさんはどこにいるんですかねぇ。」
隣から声がする……リディアも無事についたみたいでよかった。
「っと、まず現状の確認ね。」
「そうですねぇ、シンジさんも常に情報は把握するべきだって言って言ってたしぃ。」
リディアの同意を得たので、落ち着ける場所を探して座ってから、お互いの得ている情報に差異がないかどうかをすり合わせることにする。
「まずはどこかにいるシンジを探して、この水晶と言うか、魔石を額に当てる……と。」
「ウンウン。それでシンジさんの記憶が戻るんだよね?」
「そうね、そうしたらシンジと一緒にミッションをクリアする。」
「ミッションて何するのかなぁ?」
「あれ?リディアにはイメージ行かなかった?」
「ウン、私の方に流れてきたのは、各属性のドラゴンを倒すイメージだけ?」
得た情報に差異があるのかな?
「私の方には強さに応じた各地のダンジョンを回る、って。」
「そうなんですねぇ……そのダンジョンのボスがドラゴンさんですかねぇ。」
「あーそうかも。」
私とリディアの情報に偏りはありそうだけど、合わせると一つの情報になるみたいな?そんな感じだった。
「……こんな所ね。じゃぁシンジを探すわよ……って言ってもどこにいるのかな?」
女神様に送ってもらったんだから、そんなに離れていないと思うんだけど……。
「シンジさんの事だからぁ、あの辺りで地面掘っていたりしてぇ。」
リディアが、前方に見える鉱山っぽい所を指さす。
「まさかぁ、そんな……。」
そんな事あるわけない、と言おうとして私の言葉が途切れる……。
「……いましたねぇ。」
リディアも冗談のつもりだったみたいで、シンジを見付けて微妙なトーンになっている。
「……ったく、何やってんのよ、バカシンジはっ!……リディア行くわよっ!」
私はリディアを促して、シンジの下へと走っていく。
バカシンジにコレをぶつけてやるっ。
そうしないと気が収まらないと思った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
光が収まると……俺は全てを思い出していた。
と同時に、目の前にいるエルとリディア顔を見て、これはマズいと思った。
「あー、えーと、元気だったか?」
俺が恐る恐る声をかけるも、二人は黙って見あげるだけで何も言わない。
しばらく無言の時間が過ぎ、やがてエルが口を開く。
「記憶……戻ってるよね?」
「あぁ。」
「じゃぁ、現状は分かってる?」
「……分かっている。」
俺は力なくそう答える。
「取りあえず、疲れただろ?近くにホームがあるから、とりあえずそこで……な?」
俺はそう言って二人をホームまで案内する。
歩きながら俺は今の自分のステータスを確認する。
ヤベッ……全然強くなってない。
Lvは38だけど、かかっている日数を考えると、すでにLv70は超えてい手もおかしくはない。
スキルの方も生産系は上級クラスをほぼカンストしているが、戦闘系はようやく中級クラスを取れるぐらいになったばかり……。
……ウーンどうやって誤魔化すか。
おれはホームに二人を招き入れお茶を出して歓待する。
「美味しぃ……けど、誤魔化されないわよ。」
「ですぅ。」
「ハイ……。」
俺は二人に促されるまま、今までの事を残らず話す。
そして、二人がどうして、どうやって来たのかを聞く。
「成程ね、じゃぁ、早く帰らないとな。」
二人からの情報で全ての辻褄が合う。
俺達が戻る為には、マティルの洞窟のアースドラゴン、ファルス草原のスカイドラゴン、ネメシス火山のファイアードラゴン、グリューン氷穴のアイスドラゴンを倒す必要があるって事だ。
推奨Lvは其々、Lv30,Lv40,Lv50,Lv60となっているので順当に攻略していけば、無理なく行ける範囲だが……。
「場所とか内容とか分かる?」
エルが心配そうに聞いてくる。
「あぁ、アースドラゴンはすでに倒しているから、次はファルス草原のスカイドラゴンだな。ゲートを使えばすぐ行けるよ。」
「そうなんだ、すぐ行けるのね……。」
「あぁ、だけどお前達がこっちの世界ではどれくらいの強さなのか、使える魔法とかに制限がかかってないのか、とか検証しておかないといけないからな。」
俺はそう言うと、エルがにっこりと笑う。
「そう言うのは明日でもいいよね?」
「あぁ……。」
エルがにじり寄ってくるので、思わず後ずさる。
「どこ行くんですかぁ?」
後ろからリディアの声がする。
振り向こうとしたが……動けない!?
「一応、魔法は使えるみたいですぅ♪」
……これは拘束系の魔法か?
しかしこれくらいなら……。
『光の拘束』
エルから魔法が放たれる。
重ね掛けだと!?
完全に不意打ちだったために抵抗に失敗する……。
「二か月以上も放置されたんだから、責任取ってもらわないと。」
「ねー。」
俺は二人に引きずられて寝室へと運ばれる。
結局、その日の夜は、二人が満足するまで弄ばれ続けるのだった……。




