38 日本代表
明けましておめでとうございます
今年ものこのこと投稿していきますので今後ともよろしくお願いします!
東京ラビッツの食堂にて
『甘く入ったぁぁぁ!!!ライトスタンド中段に、叩き込みました!!なんと今年の浪川、前半戦だけで30号!!ホームランダービー独走です!』
テレビを見ていた堺はテーブルを指でトントンと叩きながら独り言を発する。
「はー、まぁどうでもいいんだけどなぁ!あいつのことなんかよぉ!」
「独り言でけーな。つーかお前この前浪川に1試合で2本打たれてたやろ」
ツッコミを入れたキャプテンの坂木がリモコンを使ってチャンネルを変える。
「え、なんで変えるんですか。結構いい試合だったのに」
「ははは!どうでもいいくせにずいぶんと真面目に見てたんだな。まぁそれはいいとして最近監督が浪川見るとやけに苛立ってるからいるときに見るの止めろ」
まずいと思ったのか少し声を小さくして話す。
「あー、確かに...なんでですかね?」
「知らん。お前含むうちの投手が打たれまくってるからじゃね?」
「な、なんかさーせん」
坂木の言う通り特に堺は対シーレックス戦での防御率が非常に悪い。7月中旬現在防御率が3.44 6勝 4敗なのに対しシーレックス戦では6.21 0勝 2敗と、露骨に数字を落とし、浪川には4本もの本塁打を献上している。
しかし原山の苛立ちの本当の理由はそれではなく二階堂の思惑通り浪川のフォームにあった。彼が殺した浪川の父、泰知の現役時代のフォームに酷似していてまるでその敵討ちをされたような気分を味わいとても屈辱的に思い怒りが沸いてくるのだ。
その理由を知らない二人は球団からの報告をある受ける。
「あ、俺と岡と仲川が召集かかったわ。WBT」
「え!俺は!俺は!」
「かかってるわけないだろ」
WBTとは四年に一度行われる野球の世界一を決める大会。
今回はオールスター明けに開催し、日本の代表が今日決まり各球団の召集予定の選手に参加不参加の用紙を配布した。
シーレックスからは今永、平、和人、浪川の四人の召集がかけられ三人は喜んで参加すると答えたが、浪川だけが参加に否定的だった。
「え、浪川くん参加しないの?」
「そんなん参加して怪我したらどうすんだよ。優勝街道突っ走ってる時に」
「だってさ、日本の代表だよ?国中が僕らのプレーに注目するんだよ?やる気湧かないの?」
「んなもん正直、どうでもいい」
和人がスマホで調べたある情報を見てニヤッと笑って浪川に問いかける
「大物メジャーリーガーも参加するって言っても?」
「...誰が参加予定なんだ?」
「アメリカ代表だとヤングスの主砲のジャッシュとかオランダ代表だとエンジェルズの守備職人のシモネスとかプエルトリコ代表だとカジナルズの正捕手のモーリナーとか」
「...俺も参加するか。勘違いすんなよ。俺はMLBで活躍してる選手相手とプレーしたいだけで日本を優勝に導くとかどうとかいうことは一切考えてないからな。MLBで活躍する選手の技を間近で見て...」
浪川のくどい話がめんどくさかった和人は「はいはい、参加ね」と紙に勝手に浪川のバックから印鑑を取り出して押して球団に提出した。
20××年WBT日本代表メンバー28人
投手
西宮【兵庫】 小野雄大【名古屋】 今永【横浜】 大瀬戸【広島】 山形【大阪】 平【横浜】 高原礼【福岡】 佐々城【横浜】 仲川【東京】 盛原【東北】 枡田【千葉】 増渕【埼玉】 志水【東海】
捕手
浪川【横浜】 甲斐谷【福岡】 梅林【兵庫】
内野手
岡【東京】 山本【東海】 菊田【広島】 浅井【東北】 源【埼玉】 坂木【東京】 高柳【名古屋】
外野手
近堂【北海道】 須々木【広島】 吉岡【大阪】 柳井【福岡】 三角【ロサンゼルス傘下AAA】
この表を見た和人はうんうんと頷く。
「まぁ妥当だよね...ん?誰だこれ?さん...かく?AAAの選手なのか。にしても何者?」
和人の疑問に浪川が答える。
「あぁ、三角葵のことか。無名校だからか全く話題にならなかったがそいつは高校中退して渡米して飛び入り入団したロサンゼルスドラゴンズの有望株だ。まさかあいつも召集されるとはな。ちなみに俺らと同世代でこの前MLBデビューしたっぽいな」
「へぇ、すごいな。MLBに上がったような怪物が僕らと同い年にいるのか...どんなやつか早く会ってみたいね!」
そう言うと好奇心に満ち溢れた笑顔で右手をグッと握りしめる。
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日本代表合同練習一日目...
「...なんでお前がいる?この名簿にはお前の名前は書かれてないはずだが」
ベンチで座りながら浪川が心底嫌そうな顔で話しかけたのは堺だった。
「仲川さんが怪我したからな!その代わりとして俺が召集されたってわけよ」
「お前なんかを日本代表って...稲田監督見る目あんのか?」
浪川がふっ、と鼻で笑うとそれにムカついた堺は浪川の足をガッと蹴る。
「うるせぇ!俺はこの大会で絶対MVP取ってやるからな!」
やれやれ、とあしらうともう一人名簿に書かれていない選手を見つけ、その人物に話しかける。数年前までチームメイトだった知り合いだ。
「お、久しぶりだな。お前も緊急召集されたのか?比留川」
「ああ、浪川さん。お久しぶりですね。山形さんが怪我で出場取り止めになったんで代わりに同チームの私がということになりまして...それにしても、今年の活躍ぶりには脱帽ですよ。流石ですね。大学の時のシートバッティングじゃあ抑えた記憶ないですもん」
好青年のような爽やかな笑みで浪川を褒めると別の方に視線をやり
「ぶっちゃけ浪川さんから見てこの投手陣の中で一番すごいの誰ですか?」
と、質問を投げ掛ける。浪川は少しためてから口を開く。
「小野さん」
その答えに比留川がやっぱりと言わんばかりに即反応する。その目には光がなく恐怖をも覚えさせられる。
「嘘ですよね?浪川さん大抵こういう質問は嘘つきますもの」
舌打ちをしてめんどくせぇ後輩だと呟くと
「...佐々城だな」
と、本音を言う。
「なんでですか?」
「単純にあいつの球捕っててもし自分がこの打席立ってたら...と考えると打てるビジョンが見えない...お前は?」
「まぁ佐々城さんでしょうかね。誰もが求めるような理想の真っ直ぐに一番近いものを持っていると思います」
「ほぉ、よく言うな...そう言えばお前佐々城のシニア時代の後輩らしいが当時から真っ直ぐはずば抜けてたのか?」
それを聞いた比留川は一瞬目を見開く感情が読み取れない奇妙な微笑をする。
「失礼...いえ、人違いでしょう。私は佐々城さんの後輩どころか面識すらないですよ?比留川って珍しいから同じだと思ったのかなぁ...」
「比留川雄太っていう同姓同名の人間が他にも居るって言いたいのか?お前も嘘つくの下手くそだな。それじゃあ単刀直入に聞こう。...201X年のシニアの神奈川県大会決勝でマウンドに深い穴を掘ってたのは何故だ?」
「...まぁ僕が佐々城さんの後輩だということは認めましょう。嘘ついてすみません。でも、穴を掘ったという証拠はあるんですか?そしてもしそれをやったとして私になんのメリットがあると?」
「まぁちょうどお前の中学時代の映像がネットに投稿されてたもんでな。その映像に少しずつバレないようにマウンドを掘ってるところが何度も写ってた。しかもお前も、相手投手の踏み込む所でもない別の所を、な」
比留川は眉をぴくっと動かして浪川はさらに続ける。
「で、妙なことにその掘ったところは次に投げる佐々城の踏み込む場所だ。佐々城はパニクってて気づいてないがそれが原因で明らかにピッチングが崩れてそのまま逆転サヨナラ。これが原因で佐々城は投球イップスになって高校は野手転向を余儀なくされた...お前佐々城を潰そうとしてたよな?絶対的エースの佐々城のせいで自分がエースになれない腹いせにな...黙ってねぇで答えろ」
浪川の問い詰めにも比留川は変わらず微笑しながら応答する。
「いやぁ、ここまで証拠揃ってちゃ反論のしようがないですよね。えぇ、そうです。私は佐々城さんを潰そうとしてました。いろいろ嫌いだったんで。でもまさかここまでの投手になるとは思いもしなかったんで高校で投手やってたらどうなってたのかなってちょっと後悔してます」
「ちょっと...か。俺だったら死ぬほど後悔するけどな。あそこで潰してなけりゃもしかしたらもうプロで日本最速を更新してたんじゃないか...とかな」
「はは、そんな深いこと考えませんよ。所詮は他人の記録なんで...でもこの事実、佐々城さんには言わないでくださいよ?下手したら私右腕引きちぎられるんで」
光がなく死んだような目でそう捨て台詞を残すと鼻唄を歌いながらグラウンドに出てチームメイトの吉岡と軽いキャッチボールを始める。
「ああいうのを本物のサイコパスって言うんだろうな...」
そう呟くと帽子にサングラスをかけて浪川もベンチから出て和人とキャッチボールを始めた。
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シートバッティングの投手を買って出た和人は日本を代表する打者達と対戦し、その打者の特性や癖を見抜いていた。
(これシーズン中にも使えるかも...!今はチームメイトだけど終わったら相手だもんね)
そして残る打者は浪川と三角、無論二人とも公式戦での和人との対戦経験は無い。
浪川は打たせるのではなく全力でかかってこいと和人に伝えたためお互いに闘志むき出しで勝負する。
10球勝負で和人は3度空振りを奪ったがヒット性の当たりを2本、ホームランと一発浴びるなど、軍配は浪川に挙がった。
「いやー、すごいね。ほんとに。シーズン中浪川くんとは絶対対戦したくないよ。チームメイトでよかった」
「...俺も同意見だ」
「お?お?デレが出ましたねぇ」
にやにやとする和人に見向きもせず守備に戻る浪川を見送るとよいしょ、と右肩を回す。
「最後は君か。三角葵くん」
「初めましてだな...女?」
「どう見ても男だろ!全く...僕は佐々城。よろしく」
「あー、お前が噂の佐々城か。アメリカでも活躍は聞いてたぜ」
和人からすると191cm対168cmという身長の問題で見下される体勢になるのが尺だが褒められて少し照れる。
「そりゃどーも。皆みたいに打たせる感じでいい?」
「いや、浪川と同じで全力勝負してくれないか?」
「マジで?いいよいいよ!」
三角が左打席に立つと和人がマウンド上でぴょんぴょんと跳ねるルーティーンを行って、まず初球の真っ直ぐを投げる。
真ん中付近だったがフルスイングで空振り。
(AAAでの今シーズンの成績が.258 27本 63打点 OPS.934、パワーはあるけど確実性が悪くて三振率は四割くらいある...今のスイング見ても身体能力で野球やってる感がすごい。でも捉えたらハマスタのセンター場外とか打ちそう)
二球目はカーブでこれも空振り。かなりの変化に驚いたような表情をしていた。
その顔ににやっと笑って投じた三球目のストレートも空振り。
内心なぜ選出されたのかと思いながらもう一度ストレートを投じると完璧に芯で捉えられ、ボール拾いのために外野にいた選手たちは打った瞬間にボールを追うのをやめて見送った。新設のウィング席の中段に打ち込む大飛球に打たれた和人も爆笑する。
「ははは!エグすぎだろ!150くらい飛んでた?」
結局ヒット性の当たりはこれだけだったが見事なホームランに和人は感銘を受けた。
「物凄いパワーだね!マジでビビったよ!」
「いやぁ俺もお前のピッチングには驚いた。こんなピッチングできるやつメジャーでも少ないんじゃないか?」
「いやぁそれは過言でしょ」
へらへらとしている和人とは対照的に三角は真剣な面持ちで和人に話を持ちかける。
「...なぁ、佐々城。お前ってメジャー行きたい気持ちってあるか?」
「え?...いや、そんなでもないけど」
「メジャーには俺以上の化け物がごろごろといる。そいつらと対戦したいと思わないか?」
「...」
口をぽかんと開けた和人の頭にはMLBを代表とする打者達と対峙する自身の姿が浮かんでいた。
「ま、まぁ、今はそんなこと考えてる余裕無いよな!ごめん。気にしないでくれ」
そう言うと三角はロッカーから出て誰もいないことを確認してからこっそり電話を掛ける。
「ボス、ボス!あんたが好きそうな面白いヤツ一人見つけたよ...横浜にいるカズトササキっていう投手...うん。フォーシームもカーブもえげつない。映像送るからちょっと見てくれよ!」
このときの三角はまだ知らない。自分が和人の今後の野球人生に多大な影響を与えたということを...