ヤミと少女
掌編二連
「ねえ、私って可笑しいかなあ」
「……十二分にね」
二人掛けのバスの席に、私も友達も一人で座っていた。私は窓際に、ゆあは私の後ろの席の通路側に。ゆあは面倒くさがりなんだ、だから奥まで入ろうとしないの。
ここんとこずっと、私は上の空だ(自分でいうのもナンだけど?)。頭から離れないんだ、あの漆黒の夜空と烏みたいなあの人が。
「だいたい、それは本当にヤミだったわけ」
呆れた口調でゆあが聞いてきた。私は神妙に、間違いないよ、と言った。
「だって自分で言ってたもん」
「それが嘘くさいの。泥棒の苦し紛れの言い訳か、愉快犯なんだって、普通」
“ヤミ”っていうのは全国規模で指名手配されている凶悪犯。前まで刑務所にいたんだけど、脱獄した。なんでも人殺しが趣味で、会う人会う人殺しちゃうんだって。
でも私のところに来たときは違った。テラスに降り立った彼は、私に気付いてもなんにもしてこなかった。
ただ言葉と笑みを、残しただけ。
「ああー、また会いたいなあ…」
「本物だったら死ぬことになるよ」
「いいー」
「……」
ゆあから返事が返ってこなくなった。流石に引かれたかなあ。今の私にはどうだっていい。
「うるわしき、新月のお嬢さん、だって」
「…酷い台詞。砂吐きそう」
「明日殺しに来るから待っててって言ってた」
「…生きてるじゃん」
「その後ずっと、一人で爆笑してたよ」
「……早いうちに引っ越したほうがいいよ、たお」
そんなお金ないもん、って返しとく。
確かにもうほとんどひざまずいた状態で笑い続けていた彼を目の当たりにしたときは、狂ってるなーくらい思ったけど。
だけどね、もう遅いな。
「だって恋しちゃったもん。」
20100527
改題
原題は素材サイト様よりお借りしていました




