ほころび
掌編
(僕は僕の世界を愛さない)
他人がその目を通して見る世界が素晴らしくても、僕にはそれが見えるわけじゃあない。
他人の価値観に興味なんてない。
だけど自分の価値観で見ても美しくなんて映らない。
(僕は僕の世界を愛さない)
僕の目で見た世界が愛しいのなら、それは自分の価値観を愛するという点で限りなく自己愛に似ている。
自己愛など馬鹿な感情はもてない。だから僕の世界は、僕の価値観は美しく輝いたりなどしない。
(僕は僕の世界を愛さない)
自分も他人も所詮薄汚くずる賢く周りを潰して生きてきた下劣な生き物、人間だ。
そんな生き物を中心に回る世界など愛せるはずもない。
すべての観念は泥ほどの価値もない。
(僕は僕の世界を愛さない)
どんなに言葉や情景で飾ったって無駄だ、美しい世界なんてまやかしでしかない。
たとえば君の笑顔でさえ、
(僕は僕の世界を、)
———君は僕の褪せきった世界に突然現れた。
その姿は天使のようで、言葉は甘く、唱える価値観は海よりも広く深く、透き通っているようで、
(僕は…——)
いつから、この世界が輝いているように見え始めたんだろう。
彼女を中心に、蔓が這って花が咲き誇るように
鮮やかに艶やかに色づいて、
いつしか、
この僕の世界は美しく息をしていた。
20100518
改題
原題は素材サイト様よりお借りしていました




