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反響する声
掌編
僕が住んでいるこのマンション、その五階にあたる場所からいくらか下りた階段の途中で座って塞ぎ込んでいると、下の方から声が聞こえてくる。
凭れかかった柵状の手すりは鉄で冷たい。僕が座り込んでいるここも、砂埃ばかりでそんなにきれいじゃない。薄暗い階段は彼女(おそらく、“彼女”)の声を反響させる。ねえきみ。
「きみ、こわいの?」
僕はいつもこの声に返事を返さない。もちろんはじめはその声が僕に宛てたものではないと思っていたからだった。僕に声を掛けているのだと気付いてしばらくは、怖くて無視していた。今は、ただ心地いい風の音みたいにその声を聞いている。
彼女の声が聞こえると一人じゃない気がする。僕はここにいても、ここに生きていてもいいのだと感じたりできる。
「ねえ、きみ。」
「——」
君は、きっと僕が返事を返さないのだと知っている。知っているからこそ、声を掛けているんだよね。
たとえば僕が好奇心でこの声に応えたなら、あるいはもう少し階段を下りて君を探したなら、彼女は僕を恐れてもうここには来ないだろう。
「きみ、」
冷たい階段。反響する声。僕と彼女の、どれほどかも知らない距離。
20100516
改題
原題はお題バトンよりお借りしていました




