馬車に乗って。
ぞくり。
そう背筋に冷たいものが走る。
もちろん、ただの可愛らしい見た目通りの黒猫であるなんて、思っていたわけではなかったけれど。
ギディオンは、その黒猫が発する氣に、呑まれかけて。
「いえ、ノワール殿……」
そう答えるのが精一杯だった。
ずしんと肩が重い。
「ふむ。お前からはなんだかとても懐かしい匂いがするな。ハハ、気に入った。今度この世界の酒でも奢ってくれ。そうすればもっと色々教えてやらんでもないぞ」
そう囁いて、ストンと肩から降りるノワール。
そのままミーシャと並んで歩いていく姿は、周囲からはただの子猫にしか見えなかっただろう。
だけれど。
ああ、だめだ。
考えるのはよそう。
そうギディオンはかぶりをふる。
今、彼らのことを考えても何も始まらない。
それよりも、セリーヌを無事に屋敷まで届けよう。
それに。せっかく帝都に着いたのだから、少しくらい帝都を楽しませてあげる時間も取れないか。そちらに心を砕こう。
「セリーヌ。ここから少し北に向かったところに目的地のベルクマール邸があるんだけど、どうする? まっすぐ向かうか、街を見ていくか」
あちらこちらを興味津々といった感じで眺めているセリーヌに、寄り道しないでまっすぐ屋敷に向かおうというのも酷な話かもしれない。
もちろん、馬車で帝都まできたのであれば、まっすぐ屋敷まで向かっただろう。
しかし今は徒歩だ。
帝都の下町は広く、縦横無尽に辻馬車の駅が並んでいた。
もうここから飛んでいくのは人目がありすぎる。
しかし、歩きで行くのも距離がありすぎた。
どこかで辻馬車に乗らなければいけないこんな状況であるのなら……。
「ギディオン様、いいの? 寄り道しても」
上目遣いでこちらを見るセリーヌ。
その姿に心が和む。
さっきまで緊張してしまっていた心も、こうしてセリーヌを見ることで癒される。
「ああ。せっかく帝都に来たのだしね」
「ありがとう。ギディオン様」
満面の笑みでそう答えるセリーヌに、ギデオンは、この笑顔をまもるためならなんでもできる、そう心に誓った。
「じゃぁ、あたし、ミスターマロン2号店を見て行きたいわ。外からだけでいいの。ちゃんと尋ねるのは明日の朝にするから」
「そうだね。明日のためにも今日のうちに下見しておこうか」
ギディオンたちは、帝都中央行きの馬車に乗って。
ミーシャとノワールは、普通の猫のふりをしてセリーヌの上でおとなしくしている。
ノワールを胸の前で抱きしめて、肩にミーシャが乗って。
白と黒の子猫は可愛らしく、にゃぁと鳴いていた。




