魔王。
◆◆◆
帝都マクギリウスに到着した。
ギディオンは、セリーヌを連れ無事にこの地に到着できたことに、まず安堵して。
にしても。だ。
(白猫の大賢者様はともかく、こちらの黒猫殿は……)
出発直前に紹介された黒猫ノワール。
いや、この黒猫がただの猫でないことに驚いたわけじゃない。
ギディオンにしてみれば、白猫のセリーヌ・マギレウス・ラギレスと名乗った彼女のことでもうすでに頭がいっぱいであったのに、その上この神かとさえ思えるほどのマナを内包した黒猫が、普通の猫であるはずがないことくらい、一眼見て理解していたのだから。
セリーヌ・マギレイス・ラギレス。
帝都で調べた古文書にあったその人物は、聖女、とも、大賢者、とも、いや、女神であったとさえ記されていた。
まだ帝国が帝国になる以前。
魔道王国マギレイスの世からは数千年後。
この世界がまだ魔界と繋がっていた時代。
魔王を封じ、魔界とこの世を分かつ封印を施したのが、当時の勇者パーティのメンバーだった大賢者ラギレスだったのだと、古文書には記されていたのだった。
まあそれでも、だ。
ギディオンは喉元まで出かかった疑問を口にすることはなかった。
そもそも、セリーヌが異世界からの転生者だったこと。そしてその魔力には限界が見えないこと。それすらもがギディオンにとって彼女を彼女ごと護らなければと決意するには十分だったのだから。
今更神の一人や二人増えたところで、その決意が揺らぐことはない。
まあ、このノワールが只者ではないことも、どうやらセリーヌにとっては悪くない状況だということであるのなら、これ以上口を挟んでも仕方がない。
そんな心境にいたのだった。
「ふむ。これがマクギリウスか」
「あらあら、ノワールったら、この街に興味があるの?」
「まあね。流石に名前がね、気になるよ」
「そうよねぇ」
ミーシャとノワールのそんな会話に、ついつい耳を傾けてしまうギディオン。
「しかし、以前見た時とは随分と様子が変わったようだな」
「え? 以前って」
「ああ、セリナ殿。私が以前この国の帝都を見た時にはここは随分と荒れ果ててしまっていたからね」
「ああ、そうよね、っていうかこの帝都はその後に場所を少しだけ移して再建されたのだって、あたし学んだ覚えがあるわ」
「ほほう。再建、とな」
「ええ。確かそう」
セリーヌがそう、自然に話していたけれど……。
冗談じゃない。
このノワールは当時の歴史の証言者だというのか!?
「申し訳ない。ノワール殿、その話、もう少し詳しく伺っても?」
「ああ、あれは確かこの国の魔道士、だったか? 魔道庁、だったか? そういった連中が次元の穴を開いてしまったのが原因だったか……」
次元の穴。
そう、魔王が現れたのだと、古文書にはあった。
この世界にもともといた魔王、ではなく、異界の魔王。
魔王クロムウエルという名前の。
「魔王の言い伝え、がありましたが……」
「おうおう。魔王だったな、あやつは。しかし、魔王としてはまだまだ育ちきっていなかったぞ」
「それは……?」
「もともと、魔王という存在は色々あってね。魔界の魔王。この世界のバグを処理する魔王。そして、異界の魔王。クロムウエルのように」
この世界のバグを処理する魔王?
「それは……?」
「『魔王』は、魔の王だ。本来は魔界を統べるものを指す言葉であった。しかし、それも変質していったんだよ。魔界が閉ざされ本当の魔王がこの世界に影響を及ぼすことが無くなってからね」
ノワールはぴょんとその身をギディオンの肩に飛び移らせ、その耳元で声を顰めた。
「お前はどこまで知りたいのだ?」
と。




