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お菓子を食べたら子豚になった  作者: はにか えむ


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7/12

7.甘いお菓子の贈り物

 ダンスの試験が終わって、キャトリーとロットと城のラウンジでお茶を飲んでいる。学園を訪問するときに持参するペンや紙などの消耗品を、どの学園にどれだけ寄付するかを話し合っていた。

 すでに学園に手紙を送ったので、返答があり次第日時の調整もしなければならない。

 

「見てください。旬のフルーツのタルトだそうですよ。休憩にしませんか?」


 ケーキ屋から戻ってきたロットが三人分のタルトをテーブルに置く。飴を絡めているのか、つやつやのベリーや柑橘の乗ったタルトは美味しそうだ。


「くーん……」


 ロットの足元から可愛らしい鳴き声が聞こえ、見ると一匹のタヌキがいた。白いリボンを着けたタヌキは、魔女の浮遊島からのお客様だろう。


「白いリボンということは、知性化されたタヌキか。下界に遊びに来たのかい?」


 魔女の浮遊島からのお客様には手出し無用。それが城の決まりだ。だから観光がてら城に遊びに来る知性化生物がたまにいる。


「タルトが食べたいのですか? あなたの分も買ってきますね」


 それぞれの前にケーキを置いたロットは、再び店まで走ってゆく。キャトリーが、タヌキを持ち上げて膝に乗せた。


「可愛いお客様。タルトをどうぞ」


 タルトにフォークを突き刺してタヌキの口元へ持ってゆくキャトリーは幸せそうだ。キューンと鳴いたタヌキは美味しそうにタルトを頬張っている。夢中になっているうちにそっと艶のある毛並みを撫でて堪能するキャトリーの姿に笑いがこみあげた。キャトリーが飼っているのは猫だけど、タヌキも守備範囲内らしい。

 私もタルトを口に運ぶと、強い甘さに驚いた。果物の上にさらに砂糖がかかっているようだ。紅茶に砂糖を入れなくてよかった。


「紅茶はいかがですか? 可愛いお客様」


 甘すぎるから、タヌキにも紅茶をすすめる。飲みやすいようにソーサーに紅茶を注ぐと、ケーキと交互に飲んでいた。


「こんなに可愛らしいお客様は久しぶりだな。トリスタン様の護衛のクマとオオカミはよく見るが、観光で下界に降りてくる動物はほとんどいないからな」


「そうね。人間にいい感情を持っていない子がほとんどだろうし……」


 彼らはこの国がトランプ王国と名を変えるまで、王の命令で生物兵器の開発実験の材料にされていた動物の子孫だ。知性化実験により言語を解する頭脳を持っているから、自分たちの先祖に人間が何をしたのかを知っているはずだ。

 それでもこの子は怯えるそぶりもない。もしかしたら幼く知能が低いのか、それとも過去は過去だと思っているのか。知性化しても言語を話すことはできないから、聞いたところで答えなど返ってこないだろう。

 ロットがタルトを買って戻ってくると、タヌキはまたきゅーんと鳴いた。


「もう一個食べるかい?」


 キャトリーはもうタヌキにメロメロだ。口の周りについたカスタードを拭ってあげたりと、かいがいしく世話を焼いている。

 しかしタヌキはケーキを二つ平らげると、キャトリーの膝の上から飛び降りてどこかへ行ってしまった。キャトリーは残念そうにしている。愛猫を家に置いてきたと言っていたから、毛皮が恋しいのかもしれない。


「ああ、ふられてしまった。あわよくば部屋に連れ込もうと思ってたのに」


「誤解を招きそうなことを言わないでちょうだい」


 それからしばらく今後の予定をたてると、早めの夕食をとって部屋へ戻る。今日はもう何もない。着替えてお茶会の招待状でも書こう。

 部屋へ戻ると、テーブルの上に綺麗な紙に包まれた箱が置かれていた。ここでは貴重品は金庫に入れておくようになっている。部屋の合鍵は、部屋の掃除をしてくれる人や荷物を届けてくれる人も持っているからだ。


「贈り物かしら?」


 箱の上には封蝋が押された手紙が置いてある。一瞬トリスタン様かと期待したけど、押されていたのは第二王子の印章だった。がっかりしながら手紙を読むと、お近づきのしるしに参加者全員にお菓子を配ってますという内容だった。


「あら、魔女の菓子屋じゃない」


 魔女の菓子屋はゲリラオープンだ。いつ店が開くのかは魔女の気分次第なうえに、どれくらい在庫を用意しているかも、売る物すら気まぐれだ。しかし天上の菓子と呼ばれるくらい美味しい。人間のパティシエいわく製法が全くわからないから再現不可能な物がほとんどで、店が開くと一瞬で行列ができる。

 魔女の中には未来視や異世界視の権能を持つものもいるから、恐らくは未来の技術か異世界の技術で作られた物だろう。


「ガブリエル様にしては気が利くわね」


 私はピンクの焼き菓子を手に取った。高価だからか一つしか入っていなかったけど、花を模した飾りがついていて可愛らしい。

 それを無警戒で口に入れる。もともと生物兵器という名目で作られたトランプカードには、ほとんどの毒や魔法が効かない。催淫剤や睡眠薬の類もそうだ。だから毒殺を怖いと思ったことがなかった。今回はガブリエル様の手紙がついていたから、なおさら警戒しなかったのだ。


「んー、美味しい。見た目も綺麗だし、最高だわ」


 箱の中に入ったカードを見ると、マカロンと書いてある。極彩色だけど食べたことのない食感で楽しい。

 もっと食べたいと思ったけど、魔女の菓子を買うために菓子屋を監視する使用人を雇うほどの情熱はない。実際に専用の人材を雇っている貴族家はあるけれど、公爵家がそんな卑しいまねをすると白い目で見られそうだ。


「さて、お茶会の招待状を書こうかしら」


 箱と手紙をテーブルに放り出して、手を上にあげて伸びをする。その瞬間、心臓がドクリと脈動した。呼吸が苦しくなって、立っていられなくなる。高いヒールを踏み外し、その場に倒れこんだ。

 体が焼けるように熱い。激痛に耐えながら考える。私たちトランプカードに唯一効く薬物。それはただの魔法ではなく、魔女の権能で作られた特殊な魔法薬。やられた。

 魔法薬がガブリエル様の手の内にあるのなら、トリスタン様も危険だ。


「ト……リスタンっ様に、伝え……」


 懸命に体を動かそうとしたけれど、あまりの痛みに耐えきれず、私は気を失った。

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