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お菓子を食べたら子豚になった  作者: はにか えむ


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4.猫かぶりの相談

 部屋へ戻る途中、ロットが茶器の置かれたカートを押しているところに遭遇した。


「ミニカ様、お部屋へお戻りですか?」


 私が頷くと、ロットが困った顔をした。


「さきほどミニカ様のお部屋の前を通りがかりましたが、楽器の搬入に時間がかかっているようでした。よろしければキャトリー様のお部屋でお茶をいかがですか? キャトリー様、ミニカ様と作戦会議がしたいとおっしゃっていましたし」


 作戦会議とはなんだろう。次に売り出す歌のことだろうか。

 私は歌を売りたいというキャトリーに、条件をつけた。私の名前を全面的に押し出し、平民にもその名を浸透させること。これは私がトリスタン様の伴侶に選ばれるために必要な事だった。

 トリスタン様は、決して価値のないものを選ばない。だからあらかじめ名を売っておく必要がある。心優しく美しい、妖精のような歌姫。このイメージを崩さないように、私は生きてきた。


「お邪魔するわ。話したいこともあったし」


 ロットと談笑しながらキャトリーの部屋へ行くと、顔を合わせるなり両頬を掴まれた。


「泣いていたの?」


 じっと私の目を覗き込む青い瞳に、先ほどのバラ園での出来事を思い出す。


「……似合わないと言われたわ」


 それきり黙り込んだ私の手を引いて椅子に座らせたキャトリーは、ロットにお茶を入れるように命じた。


「それで、何があったの?」


 私はバラ園での事を思い出す。さっきまではただ悲しかったけれど、冷静になって思い起こせば自分はなんてことをしてしまったのだろうと、恥ずかしくなった。


「しょうがないじゃない、突然すぎたのだもの!」

 

 突然叫び出した私に、キャトリーは肩をすくめた。


「はいはい、また暴走したの? トリスタン様が絡むといつもそうなんだから」


「だって、まさかバラ園にいるなんて思わなかったの。その時の気分で暗い曲を歌っていたら、全部聞かれてた! あー、穴があったら入りたい!」


 キャトリーは私の手にカップを握らせて、あきれ顔でとりあえず飲むように言う。入れたてなのに少し冷めた紅茶を一気に飲み干す。ロットが気を使って冷ましてくれたのだと思う。


「似合わないって言われた……あのバラ園が似合わないって……。しかもトリスタン様に聞かれたの、私の妃になりたいかって! なりたいに決まってるじゃない! でも、私パニックで、ちゃんと返事できなかった!」


 キャトリーは顎に手を当てて何か考えている。早く慰めの言葉をかけてほしい気分なのに、キャトリーの冷静さが恨めしい。


「……まあトリスタン様のことだから、他意はないんじゃない? ミニカの桃色の髪と赤い瞳に、青い花が似合わないのは事実だし。妃になりたいか聞いたのも、ただの確認でしょ?」


「そうかもしれないけど……」


 私は似合わないという言葉に、思いのほか傷ついていたことに気がついた。あのバラ園は王家の象徴。それが似合わないなんて、他ならぬトリスタン様に言われたのだ。バラ園の薄暗さで暗い気分だったことも相まって、受け流すことができなかった。


「どうしよう。感情的な女だって思われたら、トリスタン様に嫌われるかも」


「いやもっと感情的な人間が、トリスタン様の側に居るでしょ。あのエース家の双子が。大人しいふりする必要、ないと思うよ」


 キャトリーは私の暴走をくだらないことだと思い、考えることを止めたらしい。優雅にフィナンシェ片手にお茶を飲んでいる。

 基本的に感情が希薄な者が多いトランプカードの面々だけど、ハート家は別だ。癇癪もちで感情的、執着心が異常に強い者が多い。芸術に特化した人間を作るには、そう設定するしかなかったのだろう。

 でもトリスタン様を好きになったその日から、私は変わろうと決めた。癇癪もちの女なんて、トリスタン様にふさわしくない。

 それからずっと猫をかぶっているのだけど、キャトリーとは幼い頃からよく会っていたから素のまま接している。

 

「私はミニカが羨ましいよ。人間らしくて」


 キャトリーにそう言われると、複雑な気持ちになる。生まれて一度も泣いたことがないというキャトリーは、私が涙を零すたびに不思議そうに首をかしげていた。私がなぜ泣くのかわからないと言いながら、じっと私を見つめていて、最初は少し怖いと思った。

 キャトリーは私に感謝していると言った。私のおかげで感情というものを学ぶことができたと。


「……キャトリーも、恋をすればきっとわかるわ」


 そんなはずがないと思いながらも、私は毎回そう返す。そうであってほしいと、願っているからだ。

 

「そんな自分が想像できないよ」


 キャトリーがこう返すことも含めて、いつものやりとりだ。その後は私のネガティブな発言と、キャトリーの冷静なツッコみが延々と続く。……恐らくキャトリーは、それが一番私を落ち着かせるのに効果的だとわかってやっている。

 それでもいい。私たちは友人だ。たとえキャトリーがそう思っていなかったとしても、私はそう思っている。


「話は変わるけど、試験の自由時間。私と学園を回らないか? 噂の妖精姫が来たとなれば、きっと民の心証も良くなる」


 学園はこの国がトランプ王国になってから作られた施設だ。すべての子供が無償で通うことのできる、簡単な文字の読み書きと計算が学べる場所。トランプ王国に複数存在するこの施設は、最初は周辺諸国に嘲笑されたが、今では多くの国で導入されている。


「いいわ。私も自由時間はどうしようか悩んでいたから、ありがたい提案ね」


 キャトリーは学園でも商売をするつもりのようだ。ガブリエル様と結婚する気がないのだから、自由時間はのんびりしててもいいのに働きたいらしい。


「ただでさえこの無駄な試験に時間を取られてるんだ。仕事が溜まって困るよ」


 なるほどさすがは跡継ぎ。私の一歳上なのに、もう多くの仕事を任されているのか。

 キャトリーのおかげですっかり心が落ち着いた。明日からは、今日の失敗を取り消すように頑張ろう。トリスタン様に妃に選んでもらえるよう、最善を尽くす。今はそれが一番大事だから。

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