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お菓子を食べたら子豚になった  作者: はにか えむ


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11/12

11.シスコンの兄

「何がかわいそうなんです? あなたと結婚したら王妃になれるんですよ」


 カレットが呆れたように言う。私はさっぱり意味がわからなくて、困惑した。前足を必死にのばしてトリスタン様の頬に触れる。


「いや……気にするな」


 それ以上語る気がないようで、私を抱き上げたままソファに座ると。またクッキーを割ってくれた。


「うまいか?」


 考え込みながらクッキーを咀嚼する私の頭を、大きな手が撫でる。なんて幸せな時間なのだろう。トリスタン様はもしかしたら動物が好きなのかもしれない。


「言いかけてやめるのは無しでしょ! 気になるんですけど」


 アレットとカレットは二人で頬を膨らませている。ただでさえ灰色の長髪で大人っぽく見えるのに、子供みたいな仕草をすると似合わな過ぎて気持ちが悪い。

 ため息をついたトリスタン様は、口を開こうとする。私がかわいそうだと思う理由を早く教えてほしい。


「ミニカは……」


 その時トリスタン様を呼ぶ声がした。おかげで理由を聞きそびれてしまう。聞き覚えがありすぎるその声の主を呪いたい。


「いた。トリスタン様。楽団のことで相談があるのですが……」


 姿を現したのは私と同じ桃色の髪に赤い瞳の青年だ。名をブライド・ハート、私の実兄である。手に持った書類をトリスタン様に押し付けた兄は、ため息まじりに言った。


「お願いだから捜すのが面倒な場所に隠れるのはおやめください。この後は愛する妹に会いに行く予定なんです。早く仕事を終わらせたい」


 私は兄にたいそう可愛がられている。六歳も離れているからか、昔から甘やかされてきた。僕の宝物と呼ばれるのも悪くはないけれど、少しうっとうしいこともある。

 トリスタン様は私を膝の上に乗せたまま書類を読んだ。覗き込むと、城の楽団に候補生を入れたいとのことだった。城の楽団といっても仕切っているのはハート家だ。信頼されて任されているのである。


「かまわない。すぐにサインする」


 トリスタン様は胸ポケットから万年筆を取り出してサインする。書類を兄に返すと、左手で私を撫でた。


「ありがとうございます。……ところでその豚は?」


 兄が訝し気にトリスタン様の手元を覗き込む。私と目が合って、首をかしげた。


「ミニカに似てるっしょ」


 カレット様の発言に、兄はキレる。


「はあ? ミニカは妖精のように愛らしいんだ。豚と比べるな」


 しょうがないことなのだけど、兄は私の正体に気がつかなかったようだ。兄の発言に腹が立ったので、きゅうと鳴いて前足でトリスタン様の足を叩いてしまう。


「ブライド。客人に失礼だ」


 トリスタン様は不愉快そうにしている私の頭を撫でて落ち着かせる。幸せすぎてずっとこのままでもいいかもしれないと思った。


「う、申し訳ない。悪かった」


 兄は私に謝罪した。少々感情的になりやすい兄は、よく失言する。寡黙なトリスタン様の爪の垢でも煎じて飲ませたい。

 鼻を鳴らして兄を睨む。兄はすっかり小さくなってしまった。


「すまない。許してやってくれ」


 ポンポンと私の背中を叩くトリスタン様にめんじて許してやろう。なんて偉そうなことを思ってしまった。兄に右前足を差し出すと、握り返してくれる。仲直りの握手だ。兄とは喧嘩したことがなかったから、なんだか新鮮だ。


「私はそろそろ戻る。明日も早いのでな」


 トリスタン様は抱いていた私をソファの上に置いて、兄と一緒に出て行ってしまう。双子はまだ飲み足りないのか残るようだ。


「つーか肝心なこと聞いてなくない?」


 カレットがそう言ったことで、私も聞きそびれたことに気がついた。なぜ私がかわいそうなのか、謎のままだ。


「あー、明日絶対聞こう。なんか変なこと考えてそうだったし」


 水のように酒を飲みながら語る双子の話題は、自身の婚約者候補のことに移った。二人とも私がトリスタン様の伴侶になる前提で会話している。それが嬉しかった。……でも、肝心のトリスタン様に受け入れてもらえないのでは意味がない。


「ミニカ。少し休むの。双子が帰ったら僕らも動くの」


 隅の方で丸まっていたカエデに言われ。私もソファの上で丸くなる。正直寝ている場合ではないのだけど、体が疲れ切っていた。目を閉じるとすぐに眠気が襲ってくる。

 何も解決しないまま、私はしばらく眠りについた。




「ミニカ、起きるの」


 カエデに起こされたのは零時を回ってからだった。シルとバンも起きている。


「ひとまずお前の部屋に行こうと思う。手がかりがあるかもしれん」


 シルが乗れと言うので背中に乗って移動する。豚の歩みは遅いからありがたい。


「ガブリエルの部屋の近くで降ろしてほしいの。様子を見るの」


 犯人がガブリエル様なら、何かしら見つかるかもしれない。体の小さいカエデなら、目立たず探索できるだろう。


「ありがとう。カエデ、気を付けて」


「まかせてなの!」


 ひらりとシルの背中から飛び降りたカエデは、王族の居住区の端にある離宮に向かって走っていった。

 現王妃とその子であるガブリエル様は、国王陛下とトリスタン様から少し離れた場所に住んでいる。それどころか二人の部屋がある建物に入ることすら許されていない。亡くなったトリスタン様の母親は国王陛下の部屋の隣に部屋を与えられていたのに、現王妃は違う。それが現王妃には屈辱だったのだろう。ガブリエル様を次期王にしようと躍起になっている。

 私を豚に変えた意味はまだ分からないけど、少しでも情報が掴めると良い。

 カエデを見送って、シルとバンは私の部屋まで走りだした。

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