何気ない
昼休みに、いつもの公園に行った。
今日は日差しがあって、少し暖かかった。二月末の、春を少し感じる日だ。
ベンチに座った。
老人が新聞を読んでいた。いつもの老人だろうか。顔を見たことがないが、いつもこの時間に来ている気がする。
鳩が数羽、地面を歩いていた。
子供が遠くで走っていた。声が聞こえた。
何でもない風景だ。
でも今日は、何でもなくない気もした。
三ヶ月前も同じことを思った。同じ公園で、同じ鳩を見て、変な感じだと言った。
今日も変な感じだ。でも、三ヶ月前とは少し違う変な感じだ。
あの頃は、宇宙のどこかで自分たちの命運が議論されていることを知って、この日常の無防備さが切なかった。知らないまま、鳩に餌をやって、犬を散歩させている人たちを見ながら、愛おしいと思いながら、でもどこかせつなかった。
今は、せつなくない。
ただ、続いている、という感じがある。
会議が続いている。保留が続いている。だから世界が続いている。そして世界が続いているから、この公園がある。この老人がいる。この鳩がいる。この子供の声がある。
それが、繋がっている。
「続いてる」
鳩に向かって言った。
鳩は気にしなかった。右を向いて、左を向いた。変わらない。
「お前は三ヶ月前も同じだったな」
三ヶ月前も同じ鳩かどうかはわからない。でも、同じように気にしない鳩がいた。それで十分だ。
午後の会議で、上司が新しいプロジェクトの説明をした。
規模が大きい案件だった。今まで担当してきたものより、関わる人数も、期間も、予算も、全部大きかった。
「天城には、このプロジェクトの中心を担ってほしい」と上司は言った。「クライアントからも、名指しで要望が来てる」
「わかりました」と結人は言った。
「プレッシャーかけたくないが、かなり重要な案件で」
「大丈夫です」
「本当に?」
「大丈夫です」と繰り返した。
「やってみます」
会議が終わって、デスクに戻った。
資料を開いた。規模の大きさを、改めて実感した。
重い。正直に言えば、重い。
でも、そうか、という感じもした。
重いことと、できないことは、違う。重いけど、やれる可能性がある。それなら、やってみるしかない。
「やってみます」
さっき上司に言ったことを、今度は自分に向けて言った。
夕方、仕事の帰り道に召喚された。
「今日も夕方ですね」
「安定しています」とクロノスが言った。得意そうに。
「精度が上がりましたね」
「この時間帯は特に安定しています」
「それはよかった。今日は、新しいプロジェクトを任されて」
「そうですか」とクロノスは言った。
「大変そうですか」
「重いですが、まあ、やってみます」
「人間代表らしい言い方ですね」
「どういう意味ですか」
「準備が整う前に、やってみると言える」
「整う前かどうかはわかりませんが」と結人は言った。
「少なくとも、やれない理由がまだ見つかっていない、という段階です」
クロノスは少し笑った。




