表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
35/40

まだ、続く

 三ヶ月が過ぎた。


 あの全会一致の日から、三ヶ月が経った。

 その間に、会議は二回あった。

 一回目は十一月の終わり。夕方に召喚されて、議題は技術発展と倫理のギャップについてだった。AIが人間の仕事を奪う速度と、社会が対応できる速度の差について、アトラスがデータを出した。ベルフェゴールは相変わらず「人間はまた自分で自分を追い詰めている」と言った。でも今回は、最後に「まあ、まだ見ていたいが」とつけ加えた。誰も突っ込まなかった。


 でも、ラファエルの翼が少し動いていた。


 二回目は年明けの一月。今度は環境問題。数字は厳しかった。アトラスが出したデータは、前回よりさらに暗い内容だった。でも結人は、その日の朝に見たものを話した。近所の川で、十年ぶりにサギが戻ってきたというニュースを見た、という話だ。それだけのことだった。大した話じゃない。でも、ベルフェゴールがそのサギの映像を少し長く見ていた。

 保留が続いた。

 世界は、続いている。


 二月の終わり。

 結人はいつものように電車に乗っていた。

 窓の外を見ながら、川を渡った。朝の光の中で、川が銀色に光っていた。

 サギはいなかった。今日は。


 でも、いる日がある。いない日もある。

 それでいい、と思うようになっていた。

 スマートフォンをポケットに入れたまま、電車の中を眺めた。三ヶ月前と、ほとんど変わらない風景だ。眠そうな顔で立っている人がいる。資料を確認している人がいる。ヘッドフォンをして目を閉じている人がいる。


 でも、同じ人たちじゃない。全員が、別の日常を持っている。この月曜日は、この人たちにとって、それぞれ別の月曜日だ。窓に、自分の顔が映った。普通の顔をしていた。

 三ヶ月前と、たぶん変わっていない。中田には「声が丸くなった」と言われたが、顔は変わっていないと思う。でも、何かが変わったような気もする。うまく言葉にできないが。


 会社に着いて、デスクに座った。

「天城さん」


 木村が声をかけてきた。


「何?」

「この前のプレゼン、クライアントにすごく好評だったらしくて。部長が天城さんの名前、出してましたよ」

「そうか」

「嬉しくないんですか」

「嬉しいよ。ありがとう」

「なんか、嬉しそうに見えない顔ですね」と木村は言った。

「考えてたんだ、ちょっと」

「何を」

「人間って、なんで続くんだろうって」


 木村は少し間を置いた。

「哲学ですね」と言った。


「天城さん、最近そういうこと考えてること多いですよね」

「多いかな」

「多いです。でも、なんか、前より話しかけやすくなったし、まあいいかと思ってます」

「前は話しかけにくかったのか」

「少し」

「……すまない」

「いいですよ、別に。今は話しかけやすいので」と木村は言った。「それで、人間がなんで続くか、答えは出ましたか」

「出てないけど、何となくわかってきた気はする」

「どんな気ですか」

「うまく言えないけど」と結人は言った。


「続いてることに、意味があるんじゃないかな。なぜ続くかより、続いてることそのものが、何かだと思って」

「深いですね」と木村は言った。


「俺にはちょっとわかんないですけど」

「俺にもちょっとわかんない」

 

 ふたりで、少し笑った。

 わかんないけど笑える、というのが、なんとなく好きだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ