まだ、続く
三ヶ月が過ぎた。
あの全会一致の日から、三ヶ月が経った。
その間に、会議は二回あった。
一回目は十一月の終わり。夕方に召喚されて、議題は技術発展と倫理のギャップについてだった。AIが人間の仕事を奪う速度と、社会が対応できる速度の差について、アトラスがデータを出した。ベルフェゴールは相変わらず「人間はまた自分で自分を追い詰めている」と言った。でも今回は、最後に「まあ、まだ見ていたいが」とつけ加えた。誰も突っ込まなかった。
でも、ラファエルの翼が少し動いていた。
二回目は年明けの一月。今度は環境問題。数字は厳しかった。アトラスが出したデータは、前回よりさらに暗い内容だった。でも結人は、その日の朝に見たものを話した。近所の川で、十年ぶりにサギが戻ってきたというニュースを見た、という話だ。それだけのことだった。大した話じゃない。でも、ベルフェゴールがそのサギの映像を少し長く見ていた。
保留が続いた。
世界は、続いている。
二月の終わり。
結人はいつものように電車に乗っていた。
窓の外を見ながら、川を渡った。朝の光の中で、川が銀色に光っていた。
サギはいなかった。今日は。
でも、いる日がある。いない日もある。
それでいい、と思うようになっていた。
スマートフォンをポケットに入れたまま、電車の中を眺めた。三ヶ月前と、ほとんど変わらない風景だ。眠そうな顔で立っている人がいる。資料を確認している人がいる。ヘッドフォンをして目を閉じている人がいる。
でも、同じ人たちじゃない。全員が、別の日常を持っている。この月曜日は、この人たちにとって、それぞれ別の月曜日だ。窓に、自分の顔が映った。普通の顔をしていた。
三ヶ月前と、たぶん変わっていない。中田には「声が丸くなった」と言われたが、顔は変わっていないと思う。でも、何かが変わったような気もする。うまく言葉にできないが。
会社に着いて、デスクに座った。
「天城さん」
木村が声をかけてきた。
「何?」
「この前のプレゼン、クライアントにすごく好評だったらしくて。部長が天城さんの名前、出してましたよ」
「そうか」
「嬉しくないんですか」
「嬉しいよ。ありがとう」
「なんか、嬉しそうに見えない顔ですね」と木村は言った。
「考えてたんだ、ちょっと」
「何を」
「人間って、なんで続くんだろうって」
木村は少し間を置いた。
「哲学ですね」と言った。
「天城さん、最近そういうこと考えてること多いですよね」
「多いかな」
「多いです。でも、なんか、前より話しかけやすくなったし、まあいいかと思ってます」
「前は話しかけにくかったのか」
「少し」
「……すまない」
「いいですよ、別に。今は話しかけやすいので」と木村は言った。「それで、人間がなんで続くか、答えは出ましたか」
「出てないけど、何となくわかってきた気はする」
「どんな気ですか」
「うまく言えないけど」と結人は言った。
「続いてることに、意味があるんじゃないかな。なぜ続くかより、続いてることそのものが、何かだと思って」
「深いですね」と木村は言った。
「俺にはちょっとわかんないですけど」
「俺にもちょっとわかんない」
ふたりで、少し笑った。
わかんないけど笑える、というのが、なんとなく好きだった。




