採決:アトラスの意見
「アトラス」とクロノスが呼んだ。
アトラスは少し間を置いた。
データを確認しているのか、あるいは何かを処理しているのか。結人には区別がつかないが、今日は少し長かった。いつもは名前を呼ばれてから一秒以内に答える。今日は三秒ほどあった。
「……審議継続」とアトラスが言った。
「データに基づく判断と、先ほどの天城さんの主張を考慮した結果です」
「アトラスさんが考慮したんですか」と結人は少し驚いた。
「処理が、通常より遅くなったため」とアトラスは言った。
「それを、考慮と呼ぶことにしました」
「それはどういう状態ですか」
「通常、データが揃えば判断は収束します」とアトラスは言った。「九十五パーセントのデータがあれば、判断は九十五パーセント側に収束するはずです。しかし今回は、収束しませんでした」
「なぜ収束しなかったんですか」
「九十五パーセントの側への収束と、五パーセントの側への収束が、同時に起きようとしていました。どちらかを選ばなければならない、という処理に入ったとき、通常より時間がかかりました」
「五パーセント側へ収束しようとした、というのは」
「そうです。先ほどの天城さんの主張を処理した後、五パーセントの側を支持するデータが増加しました。正確には、データの重み付けが変化しました。同じデータでも、どのくらい重視するかが変わりました」
「何が変えたんですか」
「わかりません」とアトラスは言った。「それが、考慮と呼ぶことにした状態の、正直なところです。わからないけれど、何かがあった。その何かの結果が、審議継続です」
「そうか」と結人は言った。
「ありがとう」
「どういたしまして」
感情のない声で言う「どういたしまして」が、今日は何か違って聞こえた。気のせいかもしれない。でも、確かに何か違った気がした。ほんのわずか、温度が違う。データを確認します、という声と同じトーンで言っているのに、何かが違う。




