議題:結人の意見(中編)
「以上だ。余計なことを言うと、ラファエルが喜ぶからな」
「喜びますよ」とラファエルが言った。
微笑みながら。「もうすでに少し喜んでいます」
「だから余計なことを言いたくなかったんだ」
「次、ラファエル」
「私は言うまでもなく、存続を望みます」とラファエルは言った。
「理由は毎回同じですが、今日は少し違うことも言わせてください」
「どうぞ」
「今日、この会議室に天城さんが来ています。今まで多くの人間代表が来ましたが、それぞれが少しずつ、この会議を変えてきたと思います。来るたびに、人間の一面が見えます。データでは見えない面が。天城さんは特に——」とラファエルは微かに笑った。翼が少し広がった。「正直で、考える人です。準備したことをそのまま言わないで、今思っていることを言う人です。この人が人間代表であるということが、私には人類の証明のように感じられます」
「重い役割というのは、そういうことだったんですね」と結人は言った。
「そうです。すみません」
「いえ。光栄です、一応」と結人は言った。
「プレッシャーではありますが」
「プレッシャーを感じながら、でも逃げない。それも、あなたらしいことだと思います」
「最後に、天城さん」とクロノスが言った。
「人間代表として、今回の審議についての意見を述べてください」
結人は、少し時間をかけた。
三百七十八回目の会議で、一人の人間代表として、何を言うか。
準備していたことがあった。電車で見たこと、公園で感じたこと、中田との電話で気づいたこと、それらを整理して、順序立てて話そうと思っていた。起承転結を作ろうとした。でも、どんな順番で並べても、何かが足りない気がした。
きれいに整理された言葉というのは、どこか嘘くさい。整理することで、端っこが削れてしまう。大事な部分が、削れる。でも整理しないと、相手に伝わらない。そのはざまで、いつも言葉は難しい。
正直に言おう、と思った。今この瞬間に、自分の中にあることを、言おう。
「俺は、普通の人間です」と言った。
「はい」
「特別なことは何もできない。すごく賢くも、すごく強くも、すごく優しくもない。会社員で、一人暮らしで、毎週月曜日が嫌いで、コンビニのスイーツが好きで、一人でよく映画を観る。特技は特にない。趣味と言えるほどのものもない。どこにでもいる、普通の人間です」
「はい」
「そんな俺が人間代表として来て、何を言えるかというと、正直、大したことは言えない。人類全体を語れるほどの知識も資格もない。哲学者でも科学者でも政治家でもない。ただの会社員です」
「それでも」とクロノスが言った。
「あなたには言う権利がある。あなたが人間である、それだけで、言う権利がある」
クロノスがそう言ったことが、少し背中を押した。
「言います」と結人は続けた。
「人間は、確かに愚かだと思います。毎日ニュースを見ていると、呆れることばかりです。こんな生き物が宇宙にいていいのか、と思うこともある。正直に言うと、そう思います。ベルフェゴールさんの言っていることは、正しいと思います」
ベルフェゴールが少し頷いた。小さく、でも確かに頷いた。
「でも」と結人は続けた。
「たまにすごく優しい」
「たまに、ですか」とアトラスが聞いた。データとして精度を確認するような聞き方だった。
「たまに。頻繁ではないかもしれない。でも、確かに、たまにすごく優しい。そっちの方が、いつも印象に残る。怒鳴られた記憶より、優しくされた記憶の方が、なぜか鮮明に残る。忘れない。人間ってそういうもので、それが俺には救いに思える」
「具体的に話してください」とクロノスが言った。
「あなたが今まで見た、そういう場面を。ここにいる全員に、あなたの言葉で話してください」




