灰色の意地、その先へ
「コナル……」
シャナが、静かにその名を呟いた。涙を拭い、彼女はゆっくりと立ち上がった。
「行こう。ここで終わらせる」
その声には、深い悲しみと、それを上回る強い決意が宿っていた。フェリクも、眷属を退け終え、こちらへ駆け寄ってきた。
「ロナン、行けるか」
「はい」
僕は、母の形見の短剣を握りしめた。誓の光が、これまでにない強さで、手のひらに灯っている。
*
核の塊が、僕らの接近を察知したように、大きくうねった。
「戦友を、奪ったな」
低く重なった声が、洞窟中に響いた。
「奪ったのは、お前だ。コナルの意志も、母の命も、全部」
僕は、剣を構えながら、そう言い放った。
「終わらせに来た。誓の民の末裔として」
核の表面から、無数の触手のようなものが伸びてきた。フェリクとシャナが、それぞれの方向からそれを斬り払う。僕は、その隙をついて、核の中心目掛けて踏み込んだ。
「その誓い、見せてみろ」
核の声に応えるように、僕は誓の力を、これまでの限界を超えて引き出した。手のひらの銀の光が、腕全体を包み込むように広がっていく。
*
「二度と、目の前で誰も見捨てない」
それが、九年前の後悔から生まれた、僕の誓いだった。だが、今、その言葉の意味が、少しずつ変わっていくのを感じた。
見捨てない、というのは、ただ守るということだけじゃない。守れなかった過去を抱えたまま、それでも前へ進もうとする者たちと、共に立つということだ。母が命をかけて守った未来を、シャナが守り抜こうとした約束を、フェリクが選び取った譲れないものを――僕は、その全てを受け継いで、ここに立っている。
「僕の誓いは、僕一人のものじゃない」
剣を握る手に、これまでにない力が満ちた。核の触手を斬り払い、まっすぐに、その中心へと剣を突き立てる。
核が、断末魔のような咆哮を上げた。洞窟全体が、大きく震動する。
「終わ……ら……」
核の声が、次第に力を失っていく。黒い結晶の塊が、内側から崩れ始めた。かつて誰かのために立てられた誓いの残骸が、ようやく、その役目を終えようとしていた。
*
「フェリク、シャナ殿、離れて!」
僕はそう叫び、最後の一撃を、渾身の力で叩き込んだ。
閃光が、洞窟全体を白く染めた。
しばらくの静寂の後、僕が目を開けると、そこにあった黒い結晶の塊は、跡形もなく消え去っていた。ただ、粉々に砕けた欠片だけが、雪のように、静かに床へと降り積もっていた。
「終わった……のか」
フェリクが、呆然とした声で呟いた。
僕は、手のひらの光を見つめた。銀の光は、まだ穏やかに灯り続けている。九年前の後悔から始まった旅が、ようやく、一つの終わりを迎えていた。
シャナが、静かに僕の肩に手を置いた。
「よくやった」
その一言に、これまでのすべてが報われるような気がした。




