もう一人の戦友
「もう一人の仲間について、話しておかなければならない」
夜も更けた頃、シャナは再び口を開いた。父も僕も、まだ話の続きがあることを、その声の重さから悟った。
「あの夜、モイラを守り切れなかった後――私たちは、核を深追いした。仇を討つためではない。もう二度と、同じことを繰り返させないためだった」
「それで、どうなったんですか」
「私は、途中で退いた。お前を、一人にするわけにはいかなかったからだ。だが、あの仲間は、一人で核の懐深くまで踏み込んでいった」
シャナの声に、深い後悔の色が滲んだ。
「戻ってこなかった。生きているのか、死んだのかすら、長い間分からなかった」
「まさか」
僕の脳裏に、あの平坦な声と、灰色の布に覆われた姿が浮かんだ。
「使徒が――」
「おそらく、そうだ。あの者の気配、戦い方の癖。何より、お前を見た時の反応。あれは、ただの偶然じゃない」
シャナは、拳を強く握りしめた。
「核に敗れ、取り込まれた。生きた屍のように、核の意志のまま動かされている。そう考えるのが、一番筋が通る」
*
父が、静かに口を挟んだ。
「シャナ殿。その仲間を、救う手立てはあるのか」
「分からない。だが、可能性がないとは言い切れない。誓が歪んで残り続けているのなら、その芯にあるものは、まだ完全に消えていないかもしれない」
シャナは、僕の方を見た。
「ロナン、お前に頼みがある」
「なんでしょうか」
「もう一度、核と対峙する時が来る。その時、あの仲間を、ただの敵として斬り捨てないでほしい。可能な限り、救う道を探ってほしい」
「約束します」
僕は、迷わずそう答えた。使徒が見せた、あの不気味なほどの静けさの奥に、確かに何か――哀しみのようなものが滲んでいたことを、僕は覚えていた。
*
その夜、僕は一人、道場に足を運んだ。かつて何百回、何千回と型をさらった、慣れ親しんだ場所だ。手のひらを開くと、迷いのない銀の光が灯った。
母は、誓の民の末裔だった。その血を、僕は受け継いでいる。灰色の器は、無能の証ではなく、母から託された何かの証だった。
九年前の後悔は、まだ消えない。それでも、その後悔の意味が、今はもう違って見えた。
「明日には、発つ」
背後から、シャナの声がした。振り返ると、フェリクも一緒だった。
「核の本拠へ、真っ直ぐに向かう。今度こそ、決着をつける」
「はい」
僕は、手のひらの銀の光を、もう一度見つめた。灰色から始まった僕の旅は、今、ようやく本当の意味での終着点へと向かい始めていた。




