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魔力なしと捨てられた令嬢は、死神辺境伯の唯一の花嫁になる  作者: ひめの撫子


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第六話 仕組まれたパーティー

(気が重いわ……)


 絢爛豪華なパーティーを前に、セリスティアはため息しか出ない。

 いつもそうしていたように、なるべく目立たないよう会場に入り、早々に壁の花に徹する。

 来たからにはヴィクトールたちに挨拶をしなければならないが、中々足が向かずにいた。


「よう、久しぶり」

「あら、ルークじゃない」


 この社交界でセリスティアに気さくに話しかける変わり者といえば、バルフレア辺境伯令息くらいだ。

 領土が辺境すぎて王都にもあまり来ないため、田舎者とそしられている。

 いわば「浮いてるもの」同士だった。


「最近は魔法の研究はしてるのか?」

「あまりできていないわね……」

「なんだよ、半年ぶりに王都にきて、君の研究報告を楽しみにしてたってのに」


 セリスティアは自分が魔法を使えない原因を解明したくて、独学で何かと魔法を研究していた。

 ルークは王立学園時代の同級生であり、彼も重度魔法研究マニアなため、いつもその話で盛り上がっていたのだ。


「そうだ。あなたに見てもらいたい薬草があったのよ。あぁなんで持ってこなかったのかしら」


 ルークは特に魔法に関する薬草や、古代の魔法道具などの研究に熱心だ。

 そんな彼なら、エリアスがくれた薬草の正体も分るかもしれないのに、とセリスティアは歯がゆく思った。


「気になるな。絵に描いてみたらどうだ?」

「えっ!? い、いや、私絵は得意じゃないのよ」

「植物を描くくらい関係ないだろ、図みたいなもんだ」


 ルークはすぐさま使用人を呼び紙とペンを用意させる。

 その二つをセリスティアに渡し、描いてみろ、とばかりに促す。


 セリスティアは少しの間迷い、そして意を決して筆を走らせた。


「……こんな感じね」

「……ごめん、僕が悪かった」


 ルークは少し間を置いてから、こらえきれないとばかりに笑いだす。


「あっはははは! いや、まさか君がこんなに絵が下手だとは! 死に悶えるミミズを描いているのかと思った!」

「悪かったわね。それに、私だって実物をよく見ながらだったら描けるわ!」

「はーおかしい、久々にこんなに笑った。よし、記念にこれは持って帰ろう、元気のない時に見させてもらうから」

「だめよ返して!」


 つい騒がしくなってしまった二人。それを見逃さないとばかりに、背後からわざとらしい咳払いが聞こえる。


「あらあら、魔力詐欺で婚約破棄されて追放された人がずいぶん元気そうだこと」

「相手は誰かと思えばまたあの田舎者じゃないの、変人同士つるんでいるのね」


 あえて聞こえるように話しているのだろう、ヴィクトールの取り巻きの貴族たちが吐き捨てるように言って去っていく。

 二人は顔を見合わせ、やれやれと肩をすくめた。


(懐かしいわ、この感じ)


「……そういえば君に、まだ言ってなかったな」

「え?」

「君が一人窮地に立たされているとき、友としてそばにいられなくてすまなかった」

「!!」


 いつもおどけているルークが真剣な顔で告げる。

 たった一人でも、こうして自分の味方がいてくれることに、セリスティアの胸はグッと締め付けられた。


「僕がその場にいたところで、できたことは少なかっただろうけど……それでも一人よりはましだっただろ」

「しょうがないのよ、あなたはめったに王都には来ないし。まさかあんなことになるなんて私も思わなかったもの。それに、婚約が破棄になったことは清々しているくらいよ」

「ぷっ、それはそうだな。……問題は新しい嫁ぎ先の方か。どうなんだ? 死神なんてたいそうな噂がついている辺境伯令息様は」

「……」


 セリスティアは何も言えずうつむいた。今まさに、エリアスとのことで悩んでいるから。

 どう切り替えそうか考えていると、ルークが先に口を開く。


「その……君がもし令息と上手くいっていないようなら、なんだけど……」


 珍しく物言いがはっきりしないルークを不思議に思って顔をあげるセリスティア。

 少し赤くなった顔で、ルークは意を決したように彼女を真っ直ぐ見た。


「俺と……」

「──ごきげんよう、セリスティア様」


 無作法にも遮るように声をかけてきたのは、リリアーヌだった。

 ヴィクトールと婚約した彼女は、以前とは比べ物にならないほど高価そうなドレスやアクセサリーを身に着け、元々のあどけなくも妖艶な美貌は一段と輝いていた。

 背後には、複数の取り巻きを従え、わざわざセリスティアの元に出向いたらしい。


 二人は形式的に挨拶を返すが、それも無視してリリアーヌは話しだす。


「私、セリスティア様を心配してました。私の代わりにあんな恐ろしい人の元へ嫁ぐことになってしまって……それで今日もお呼びしたんです」

「ありがとうございます。ご心配には及びません」

「まぁそう邪険にしないでください。そうだ、念の為体に異常がないか見てあげます」


 彼女の言動のすべてが理解できずセリスティアが面食らっているうちに、リリアーヌはサッと距離をつめ、セリスティアの右手を取った。

 途端に取り巻きが表情を変えて焦りだす。


「り、リリアーヌ様! そのものは死神に嫁いだのですよ! 軽率に触れてはいけませんわ、不吉です!」

「平気ですよ、それより脈が少し……」


 その瞬間、リリアーヌが触れている手首が少し熱くなるのを感じる。


(何!?)


 危険を感じてセリスティアはとっさに手を振りほどいた。

 バチン、と音をたて赤い小さな稲妻のようなものがはじける。


「きゃああっ!!」


 リリアーヌは悲鳴を上げてしゃがみ込む。

 さらに、ずるり、と背後で誰かが膝をつく音がした。


「ぐ……」


 セリスティアのすぐ後ろではルークが脂汗をにじませ、眉間にしわを寄せて苦しそうに倒れ込んでいた。


「ルーク!? どうしたの!?」

「セリスティア様! 動かないで!」


 リリアーヌが鋭く言い放つのにつられて、セリスティアはルークの様子を確かめようとした手を思わず止めた。


「今、セリスティア様に触れたら……何かが起きて……!」

「なんですって!? リリアーヌ様、それは本当ですか!?」


 リリアーヌは苦しそうにしながらも震える手でセリスティアを懸命に指さした。

 取り巻きたちの目線が一斉にセリスティアに向く。

 まるで悪魔を見るような目に、セリスティアの心拍数は一気に跳ね上がった。


(違う、私は何もしてないわ、何かしたのは確実に……!)


 セリスティアが口を開こうとした瞬間、別の取り巻きの女性が声を上げる。


「いやぁぁぁ! 呪いだわ……死神の呪いよ!!」

「そうよ、だってその人、触れてもいないのに倒れたわ!」

「いやだ、誰か来て! 助けて!」


 口々に騒ぎ出し、恐怖が電線していく。

 次第に会場中の人々がなんだなんだと集まってきた。


「死神の呪いだって!?」

「なんて不吉なの、人が倒れたって」

「恐ろしい、避難しなくては」

「あの方は捕らえなくてもいいのか!?」


「──リリアーヌ! どうした!」


 騒ぎを聞きつけたヴィクトールが護衛を引き連れてやってくる。

 座り込むリリアーヌを抱きしめ、 何を聞く前から鋭くセリスティアを睨んだ。


「セリスティア、貴様リリアーヌに何をした!」

「私はなにも」

「ヴィクトール様! セリスティア様は悪くありません、ただ、死神に呪われてしまったのですわ」

「なんだと!? それでも君に危害を加えたからには黙っていられない! 誰か、セリスティアを捕らえろ!」


(どうしよう、どうしたら……!)


 弁解の言葉も意味を成しそうにはない。

 それに倒れたルークのことも気がかりだ。対応が遅れるくらいならばいっそ一度捕らえられた方がいいのではないか。セリスティアは数々の選択肢を思い浮かべるが、結局は身を任せるしかなさそうだと判断した。


 覚悟を決めたその時、会場の入り口から人波を割るように誰かがこちらに歩いてくるのが見えた。

 静まり返った会場に、コツコツと規則正しい足音が響き、息を呑むような声が時折聞こえる。


「あの方は、どなたなの……!?」

「あ、あの紋章、まさか……」


 盛装に身を包み、表れたのはエリアスだった。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

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