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馬、パカラッパカラッ  作者: のた。


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2





しばらく二人は一緒にその場所にいた。そして、二人とも眠っていた。

太陽が沈みかけの夕方。

先に目を覚ましたのは、意外にも冒険者の方だった。

冒険者の名前はアルバと言う。

二十代前半の、冒険者としてはまだ若すぎるほどに若い人物だった。逆に言えばこれだけの若さがなければ、アレだけの傷を受けて生き残ることはできなかった。




好青年といったような見た目のアルバ。

彼は、その体を動かすことすらできなかった。

が、それでも目の前の馬を愛でようと腕を伸ばすのだった。



プルプルと震えながら体を撫でる腕に気が付いた、名前のない彼。

血だらけの冒険者はいつの間にかピタッと体に密着していた。

多少、その血が体に着くことは嫌だった。

それでも、それ以上に彼が生きていたことが嬉しかった。と、同時に(このままここにいると、もしかすると、殺されるかもしれない)とも思うのだった。




しかしながら、彼は立ち上がることをしない。

もう少しだけこうしていようと思った。

またここから逃げ出しても退屈な毎日が待っているだけだ。

それならば、と、人間と触れ合うことを選んだ。




「君の名前はなんて言うんだい?」



返事がないことがわかっていても、彼に話しかけたアルバ。

それを言われた彼は、(名前はまだない)と思った。

返事をしたかったが、彼は「ヒヒーン」としか話せない。

声帯は人間ではないので、言語を話すことはできない。

しかし、言語を理解することはできるので、なんとかしてそれを相手に伝えたいと思った。そうすれば、人間と暮らせるかもしれないからだ。



「ヒヒーン」

「それじゃあ、わからないよ」

「ヒヒーン」



体を揺らしながら、大きな声で鳴いた彼。

それを受けてもまだ、理解しないアルバ。

アルバは当然のように、目の前の馬が言語を理解しているとは思わなかった。思わなかったが、実際には言語を理解しているのだ。





どうすればいいのだろうかと悩む彼は立ち上がることにした。

そして、近くにあった枝を口で拾った。

その枝を使って、瀕死の状態から回復したアルバに「ない」と教えた。

地面に「ない」と書くことによって、それを相手に知らせたのだ。が、それを受けて、アルバは傷口が広がるほどに驚いてしまった。



その「ない」という字はほとんど消えかけているような文字だった。馬が自分の口を使って文字を書くのはあまりにも大変なことだったので、薄い文字だった。



彼は、心臓の鼓動が早まったことで倒れた。

何かの夢を見ていると勘違いしたのだ。

もっと言うと、死んでしまったと勘違いした。

あの世で奇妙な馬と出会ったと思ってしまった。





アルバが倒れてしまったことに困惑する彼。本人も、(さすがに焦りすぎたか)と、自分の行動を反省する。もしかするともう意識を取り戻さないかもしれないと思うと、その感情はさらに強くなる。




せっかく分かり合えような人間がいたのに失敗した。

それによって彼はジタバタするのだった。

すると、その振動はしっかりとアルバに届く。

それによって、彼はまた目を覚ました。覚ましたのはよかったが、さっきの目覚めのことを夢だと思い込んでしまっていた。 



幸か不幸か、彼がジタバタとした時に、元々今にも消えてしまいそうなほどに薄かった「ない」という文字が完全に消えてしまっていた。

なので、アルバはそれを夢だと思い込むことができた。




彼も同じことはしない。

もう意志疎通をしっかりとすることはしないつもりだった。

が、どうしても一緒に人間の村、町へ行きたいのだった。

せっかく目の前に訪れたチャンスを無駄にするつもりはなかった。



「ヒヒーン」

「どうしたんだ?」



彼はアルバに近寄る。

そして、自らの体を撫でさせた。

それを求めていると思ったのでそうした。

そんなことをしていると、アルバの心は安らいでいく。そうすることによって、さっきの驚きが多少はマシになっていく。




「あれは、夢だったんだよな」

「ヒヒーン」

「まあ、いいか。馬に言語がわかるはずがないもんな」




(それでいい)と、彼は思う。

このまま一緒に居ればそれでいい。

そうすればやがて、一緒に暮らしたくなるはずだ。

そんなことを思っていた。 





馬と一緒に生活をしている冒険者は少なくない。馬は荷物を運ぶ時だったり、移動の時に使えたりするので、中には遠征を馬としている者もいた。草原で何度もそういう冒険者を見たことがある彼はそれに憧れを抱いていた。




普通に考えればそれは大変なことだ。

重たい荷物を持つことも、人を背中に乗せることも大変だ。

しかし、そんなことを気にしなくなってしまうくらいには、退屈なのだった。どうしても自然の中だけで生きていくことはできないのだった。



「一緒に来るか?」

「ヒヒーン!!」

「いい返事だな。でも、とりあえず、生きて帰る必要がある」




彼の思惑通り、アルバは馬と一緒に帰ることを決めた。

こうして、二人は仲間になった。

もしかすると家族のような関係性になるかもしれない。

とにかく、彼はこれからの人生に希望を見出だしていた。それはとんでもなく大変な道なのに、喜んでしまっていた。





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