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二人が半日ほどそこにいると、やがて別の冒険者がやってきた。
森の中にある、切り株だらけのこの場所は整備された場所だ。
つまりは、冒険者のために用意された場所だということだ。
ここは、旅に疲れた冒険者が訪れることがよくあった。
夜空には星が煌めいている。
辺りは真っ暗だったが、その冒険者がやってくると松明の明かりでこの辺りがぼんやりと明るくなった。
その冒険者は一人だった。どこか気弱そうな、青髪のその男性の名前はブルック。アルバと同じくらいの年齢の冒険者で、この場所で狩りをしていた。
「ど、どうされたんですか?大丈夫ですか?」
「一応は大丈夫だ。君が来てくれて本当に助かった」
「ちょっと今、魔力が枯渇しちゃってるので、薬草でいいですか?」
「もちろん、助けてくれるならなんでもいい」
アルバはブルックから薬草を手渡される。
薬草はとても苦いので、あまり食べたいとは思えないものだ。
アルバとしてもそうだったが、そんなことなど言っていられないので、ひとまずそれを飲み込むことにした。そうすると、不思議と、数分後には体が動かせるようになった。
もちろん、傷が完全に癒えたわけではない。が、薬草を口にすることで、その傷がかなり癒えているのは確かだった。人間の自己再生能力を加速させる効果がそれにはあった。
「動けますか?」
「まあ、動けるくらいにはなった。ありがとう」
「あの。この子って貴方の馬ですか?」
「そうだ。そうだが、何か?」
「鞍も着いてないので、どういうことなのかなって」
「さっき、仲間にしたんだ。懐いてくれてな」
「そうですか。それなら、ちょっと鞍でも持ってきましょうか?そしたら、町まで移動できるかもしれないです」
「鞍なんて持ってないだろ」
「いや、さっき宝箱の中に入ってて。良く入ってるじゃないですか、鞍」
「確かにそれはそうだな」
この世界の宝箱には良く鞍が入っている。
最初は使えるのだが、徐々に邪魔になるアイテムだ。
それを取りに行ったブルック。
二人で取り残されることになった。
「お前、言語がわかったりしないよな?」
さっきの現実を夢だと思っているアルバ。
そんな彼は、馬である人間にそんな質問をしてみた。
どう答えればいいのかわからなかった彼。
とりあえずは「ヒヒーン」とだけ鳴いてみることにした。
「まさか、本当に夢じゃなかったとかはありえないよな。アレは本当になんだったんだろうか」
さっきの夢を独り言で振り返るアルバだった。
二人でしばらく一緒に居ると、ブルックが帰ってきた。
「あの、鞍ありましたよ。これです」
「本当にありがとう。それでは、お礼にこれを」
そう言って、アルバはブルックにお金を渡した。
しかし、あまり受け取ろうとしないブルック。
そんな彼に押し付けるようにして、お金を渡し、鞍を彼に着け、この場から去ろうとするアルバ。もうこれだけ回復すれば十分移動はできるのだった。
「ここで会ったのも何かの縁だ。本当にありがとう。助かったよ」
「あ、また会いましょう。こちらこそありがとうございました!」
馬に乗ったことで少し視線が高くなったアルバ。
パカラッパカラッ、と馬は動き出す。
町へ向かって、真っ直ぐ進むのだ。
アルバは身長が低かった。同世代の男性の中でもかなり低い方だった。
「もう一度、夢を見てみてもいいのかもしれないな」
と、独り言を言うアルバ。
彼は、馬の名前を考えていた。
これから長い付き合いになるであろう彼の名前を考えていた。
「なぁ、お前の名前はインパだ。それでいいな?」
「ヒヒーン」
「やっぱり言葉がわかってるのか?まあ、そんなわけもないか」
インパ。
それは、この世界で有名な馬の名前。
何で有名なのかと言えば、競馬で有名な馬の名前だった。
アルバの夢は、ジョッキーになる夢だった。
「俺と一緒に、走ってみないか?インパ」
「ヒ、ヒヒーン」
その言葉だけではなんのことだかわからないインパ。
鞍と一緒に口に付けられた紐が邪魔だった。
なんのことだかわからなかったが、何か大変なことに巻き込まれているような気配はしっかりと感じていた。そういう気配がなんとなくあった。
草原の中で、血だらけになりながらも前に進むアルバは時々、止まってしまうことがあった。それに、こんなに真っ暗な夜に、一人で冒険をするのは少し危険だった。
「俺の夢はジョッキーだ。お前だったら、立派な競走馬になれると思うんだ」
ついにインパにそのことを言ったアルバ。
さすがにそれは嫌だ、と思った彼。
競走馬なんて大変に決まっていた。だから、そういうのはやりたくないと思ったが、もはや拒否権もないので、仕方がなく、それに従うことにした。
「俺は冒険者も向いてないみたいだしな」
冒険で死にかけたアルバ。
もう冒険などしたくないのだった。
だから、ジョッキーという夢を追うことにした。
二人はこれからそういう道を歩むことになる。この世界では馬とジョッキーは一心同体だ。だから、離れることなどなく、ずっと一緒にいるのだ。
一旦終了です




