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はい/いいえ勇者、母親が強すぎる。  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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22/24

第22話:凱旋、世界が『勇者の人生』を完成させようとする

――王都。

その日、街は「祝祭」という言葉を物理的に叩きつけたような熱気に包まれていた。

「勇者様ぁぁぁぁぁ!!」 「世界の救世主!!」 「沈黙で魔王を滅ぼした伝説の男!!」

紙吹雪! 花びら! 謎の鳩まで飛んでいる!!

「鳩は誰が用意したんだよ!!」ケンジが叫ぶ。 「知らん! でも雰囲気は出てる!!」ガルドが泣きながら叫ぶ。

馬車の上。

その中心で、ユウは完全に固まっていた。

「……はい」 (……怖い。人多い。音デカい。なんで鳩いるの)

「見てください、あの堂々たる佇まい!」 「一切動じぬ精神力……!」 「違う!! 動けないだけだ!!」ケンジが即ツッコミ。

ユウの手は震えている。 だが民衆には「神の余裕」にしか見えていない。

「勇者様が微動だにしないぞ!!」 「これは敵意を完全に無視する高等戦術だ!!」

「敵いねーよ!! 味方しかいねーよ!!」

――王城。

長い廊下。 豪華すぎて足音が吸われるカーペット。

(……前にも歩いた) (あの時も緊張してた) (今も緊張してる) (何も変わってない)

「勇者ユウ・アサギリよ」

玉座の前、国王が立ち上がる。

「汝は魔王を討ち果たし、世界を救った」

「……はい」 (……討ち果たしてない。勝手に倒れた)

「よって余はここに宣言する! 汝をこの国の――」

「ええ」

割り込む声。

「承りますわ」

ミツキである。

「早い!!」ケンジが叫ぶ。 「今のまだ途中だろ!! 『守護神』って言う前だろ!!」

「だって分かるもの」ミツキが微笑む。 「この子、断らないから」

「決めつけるな!!」

国王は一瞬止まったが、すぐに満足げに頷いた。

「うむ。では勇者よ、この国の“永久守護神”となれ」

拍手!!!!!!!!

貴族A「これで安泰だ!!」 貴族B「三十年は働いてもらおう!!」

「ブラックすぎるだろ!!」ケンジが叫ぶ。

セシルが手帳を開く。

「すでにスケジュールを作成済みです。守護神業務、各地巡礼、伝説再演、後進育成、記念像除幕式――」

「除幕式多すぎるだろ!!」

「……はい」 (……三十年って何)

レティシアがそっと寄り添う。

「ユウ様……これからは、ずっと共に歩めますわね」

「……はい」 (……いい人。でも、俺、布団でゴロゴロしたい)

「尊い!!」 「勇者様の無言のプロポーズ!!」

「違うからな!?」ケンジが崩れる。

――さらに地獄は続く。

貴族たちが殺到。

「勇者様! 我が領地に!」 「……はい」 「娘との縁談を!」 「……はい」 「この屋敷を!」 「……はい」 「このドラゴンを!」 「……はい」

「ドラゴン受け取るな!!」

セシルが淡々と記録。

「現在、確定案件は五十八件です」

「増えてる!!」

「……はい」 「今のも承諾扱いで五十九件です」

「カウント止めろォォォ!!」

――そして民衆演説。

「勇者様! 一言お願いします!!」

マイクが差し出される。

「……」

(……無理) (言いたい) (全部言いたい) (何もしてないって言いたい) (帰りたいって言いたい)

「……はい」

「「「おおおおおお!!!」」」

「出た!! 全肯定!!」 「世界を受け入れる神の言葉!!」

「違う!! 何も言えてないだけだ!!」

歓声は止まらない。

(……違う) (違う) (俺じゃない)

――夜。

城の一室。

広すぎる部屋。 豪華すぎるベッド。

ユウは端に座っていた。

「……はい」 (……落ち着かない)

ノック。

「ユウ、入るぞ」

ケンジが入ってくる。

「……広いな」 「……はい」 「豪華だな」 「……はい」 「……落ち着かないな」 「……はい」

沈黙。

ケンジがふっと笑う。

「今日さ、お前『はい』何回言ったと思う?」

「……はい?」

「百三十七回だ」

「……いいえ」

「否定するのそこかよ」

「でもな」

ケンジの声が少しだけ真面目になる。

「その百三十七回、一回も“お前の意思”じゃなかった」

「……」

ユウは俯く。

(……そうかもしれない)

「……いいえ」

小さく。

ケンジが顔を上げる。

「今のは?」

「……」

(……どっかに一回くらい) (あったかもしれない)

「……はい」

ケンジは頷いた。

「そっか」

静かな時間。

「明日、式典だ」 「……はい」 「ミツキも来る」 「……はい」 「お前の人生、完成するぞ」

「……はい」

窓の外。 王都の灯りがきらめく。

(……完成) (誰の?)

胸の奥が、少しだけざわつく。

ずっと流されてきた何かが、 ほんの少しだけ、 引っかかった。

「……はい」

その「はい」は、

これまでで一番、 重かった。

ケンジは何も言わない。

ただ、小さく頷いた。

――そして。

廊下の向こうから、 規則正しい足音が近づいてくる。

カツ、カツ、カツ。

完璧に整えられた未来が、 すぐそこまで来ていた。

第22話 了

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