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はい/いいえ勇者、母親が強すぎる。  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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19/24

第19話:魔王城突入、でも母の方が先に待ってる気がする

――ギィィィィ……

重厚な音を立てて、魔王城の門が開いた。

禍々しい瘴気。 圧倒的な威圧感。 普通なら「いよいよ最終決戦だ」と胸が高鳴る場面――のはずだった。

「……で、次どうするんだっけ」 ケンジが、遠足のしおりを確認する父親みたいなテンションで言った。

「はい。ミツキ様のメモによれば」 セシルが即座に紙を広げる。 「『玄関入ってすぐのガーゴイル像は、左の角を捻ると自爆。無視して三歩右、そのままスキップで通過』とあります」

「なんでスキップ指定なんだよ」

「リズムが大事とのことです」

「何の」

「不明です」

「不明かよ!!」

「……はい」

ユウは、完全に感情を失った目でスキップした。

トン、トン、トン。

背後――

ドゴォォォォォン!!!

ガーゴイルが爆発した。

「見事!!」 ガルドが感涙する。 「罠の起動タイミングを読み切り、最小動作で回避するとは!!」

「違う!!」 ケンジが即座に否定する。 「母親の言う通りにスキップしただけだ!!」

「……はい」

(もう否定する気力もない)

一行は城内へ進む。

広い。 暗い。 長い。

そして――全部わかっている。

「次は床抜けです」 セシルが淡々と指示する。 「右側三歩分だけ安全です」

全員が右を歩く。

何も起きない。

「……当たった」 ガルドが呟く。

「当たりましたね」 セシルが記録する。

「もう“当たる”って言い方やめろ」 ケンジが頭を抱える。 「試験じゃねえんだぞ」

「……はい」

(試験だよこれ)

次。

「三歩目で伏せてください」

全員伏せる。

ヒュンッ!!

矢が頭上を通過。

「……当たった」 「当たりましたね」 「怖いくらい当たるな」

「……はい」

(全部当たる)

(全部正解)

(全部お母さん)

ユウの足取りが、わずかに重くなる。

だが進むしかない。

「次は隠し扉です」 セシルが壁をコンコン叩く。 「三回叩くと開きます」

ゴゴゴゴ……

扉が開く。

「……当たった」 「当たりましたね」 「もはや恐怖だな」

「……はい」

(恐怖です)

(全面的に同意です)

さらに進む。

回転床、毒霧、落とし穴――

すべて回避。

すべて正解。

すべて母。

「……これさ」 ケンジがぽつりと呟いた。 「攻略してるっていうか……」

「はい」 セシルが言った。 「答え合わせです」

「言い切るなよ!!」

「事実です」

「……はい」

(否定できない)

食堂に差し掛かる。

「ここが食堂です」 セシルが確認する。 「西側。地図通りです」

「……当たった」

「昼飯食う余裕ねえな」

「……いいえ」

ユウが小さく首を振る。

(ちょっと食べたい)

(でもそれどころじゃない)

そのとき。

ユウの足が止まった。

「……?」

「どうされました、ユウ様?」 レティシアが覗き込む。

ユウは、無言でメモを指差した。

『食堂の三番目のテーブルの裏に、あんパンを貼り付けておいたわ。賞味期限は今日まで。母より』

「……」

「……」

「……嫌な予感しかしない」

ケンジが言った。

ユウが、ゆっくりテーブルの裏に手を伸ばす。

ぺり。

「あった」

温かい。

ラップに包まれた、出来立てのあんパン。

「「「なんでだよぉぉぉぉ!!!」」」

城内に絶叫が響いた。

「なんで魔王城に出来立てのあんパンがあるんだ!!」 「ミツキ殿、いつ侵入したのだ!?」 「衛生管理どうなってるんだここ!!」

「……はい」

ユウは静かに食べた。

もぐ。

(うまい)

(いつもの味)

(安心する)

(……なんで?)

(ここ魔王城だよな?)

ユウの中で、何かがズレていく。

その横顔を、レティシアがじっと見ていた。

「……勇者様」

声が、少しだけ違った。

いつもの崇拝ではない。

「……はい」

「表情が、硬いですわ」

「……」

「怖いのですか?」

「……はい」

(怖い)

「でも、それだけではない顔をしています」

ユウは止まる。

初めて。

完全に止まる。

「勇者様は……」

レティシアは、ほんの少し迷ってから言った。

「本当に、これを望んでいるのですか?」

空気が変わる。

ガルドも、ケンジも、セシルも。 誰も口を挟まない。

ユウの手が止まる。

(望んでるか)

(俺は)

(これを)

(魔王を倒すこと?)

(この道を進むこと?)

(お母さんの用意した正解をなぞること?)

長い沈黙。

そして――

「……いいえ」

小さな声。

今までの否定とは違う。

ただの、本音。

「……」

レティシアは、ゆっくり頷いた。

「そう、ですわよね」

少しだけ、悲しそうに。

「私たちは……勇者様に“正解”ばかりを求めすぎていたのかもしれません」

「しんみりするな!!」

ケンジがぶった切る。

「ほら次だ次!! 『エレベーターは三回叩くと来る。ただしお母さんの愚痴を言いながら』だそうだ!!」

「なんでそんな条件なんだ!!」

「知らん!!」

「……いいえ」

ユウが即答した。

(それは無理)

「沈黙拒否!! つまり母への敬意!!」

「違う!! 恐怖だよ!!」

結局、無言で三回叩いたら普通に来た。

「条件なんだったんだよ!!」

「検証不能です」

「するなそんな検証!!」

エレベーターで上へ。

最上階。

静まり返る廊下。

セシルが、最後のページをめくる。

「……」

「どうした」

「……ここから先は」

全員が覗き込む。

『この先は地図では案内できないわ。でも大丈夫。ユウならちゃんとできるから。母より』

「……」

「……」

「……最後だけ書いてないのか」

ケンジが呟く。

「はい」 セシルが言う。 「意図的です」

「なんでだよ」

「推測ですが」

セシルは静かに言った。

「ここから先は、“ユウ殿が自分で決める場所”だからでは」

沈黙。

ユウは、扉を見る。

(ここから先)

(地図がない)

(正解がない)

(……怖い)

でも同時に――

(少しだけ)

(楽な気もする)

「……はい」

小さく、頷く。

「行くぞ」 ケンジが言う。

「一人じゃない」 ガルドが言う。

「支援は万全です」 セシルが言う。

「……無理しないでくださいね」 レティシアが言う。

「……はい」

ユウは扉に手をかけた。

(俺は)

(俺の意思で)

(ここに来たのか)

答えはまだ出ない。

でも――

足は、前に出た。

「……はい」

誰に向けたわけでもない、その一言とともに。

物語は、世界の中心へ進む。

第19話 了

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