第18話:魔王軍四天王、だいたい自滅する
魔王城へと続く街道は、霧に包まれていた。
視界は悪い。空気は重い。
普通の冒険者なら足が止まる場所だ。
だが——
「……この辺りですな」
セシルが、例の地図を広げた。
ミツキの字で、丁寧に書かれている。
『この先、順番に来ます。大きいの→頭いいの→キラキラしたの→様子見の人』
「雑な分類だな!!」 ケンジが叫ぶ。
「しかし的確です」 セシルは真顔で頷いた。
「……はい」 ユウも頷いた。
(来るのは知ってた) (知ってたけど) (来てほしくはなかった)
その時だった。
ドゴォォォォン!!
地面が割れた。
霧を押しのけて現れたのは——
三メートル級の巨体。
筋肉。斧。圧。
「ガァァァァァッ!!!」
「来たぞ!!」ガルドが構える。
「我こそは四天王、豪腕のガルザム!!」
「一番わかりやすいの来たな!!」ケンジ。
「順番通りです」セシル。
「……はい」
(でかい) (無理) (帰りたい)
ユウは固まった。
「……」
「……なんだ、その態度は」
ガルザムが目を細める。
「構えない……? 喋らない……?」
「……」
(できないだけです)
「この沈黙……!!」
ガルザムの肩が震えた。
「俺を“敵として認識していない”ということか!!」
「違う違う違う!!」 ケンジが叫ぶ。
「うちの息子は人見知りなんです!!」
「ほざけェェェ!!」
ガルザムが突撃した。
その瞬間——
ユウは、反射で一歩横にズレた。
ただそれだけだった。
カチッ。
足元のタイルが沈む。
次の瞬間。
ガルザムの足元の床が——跳ね上がった。
「ぬわああああああ!?」
巨体が宙を舞う。
シャンデリア直撃。
斧が絡まる。
自重で落下。
ズドォォォォン!!
「……」
「……」
「……」
「……はい」
「見事!! 重量差を利用したカウンター!!」 ガルド大興奮。
「罠だよ!!」 ケンジ即ツッコミ。
「偶発的罠誘導」 セシルが記録。
「書くな!!」
ガルザムはピクピクしていた。
終了。
霧が、さらに濃くなる。
「……やれやれ」
細い影が現れた。
「四天王、策謀のリグドールです」
「二人目だな」ケンジ。
「頭いいやつです」セシル。
「……はい」
(怖さの種類が違う)
「勇者殿」
リグドールが微笑む。
「一つ質問を」
「この先に進みますか?」
「……」
(進みたくない) (でも進むしかない)
「……はい」
「……なるほど」
リグドールの目が光る。
(この“はい”……) (罠への誘導だな?)
(つまりこの先に進ませたい……) (ならば私は——逆を行く!!)
「私は進まん!!」
くるりと振り返る。
一歩、後ろへ。
ドゴォォォォン!!
「ぐぁぁぁぁ!?」
爆発。
「……あ」
「後ろに罠あったな」 ケンジ。
「前方はミツキ様が解除済みです」 セシル。
「後ろは?」 「そのままです」
「なんで前だけ優しいんだよ!!」
煙の中からリグドールがよろめく。
「なぜ……私の罠を……」
「……いいえ」
ユウが小さく首を振る。
「——っ!!」
「全否定……!!」 リグドールが崩れる。
「違う!! 普通の否定!!」 ケンジ。
「……完敗だ……」
勝手に納得して気絶。
「自己策略自爆」 セシル記録。
「だから書くな!!」
ふわり、と花びらが舞った。
「……来ましたね」
現れたのは、美しすぎる存在。
「四天王、美の探求者ルシアード」
「ジャンル変わったな」 ケンジ。
「最も危険なタイプです」 セシル。
「……はい」
(まぶしい)
「勇者よ」
ルシアードが静かに言う。
「私の美を——どう思う?」
「……」
(困る) (すごく困る)
視線が逸れた。
ほんの少し。
「——っ!!」
「え」 ケンジ。
「否定された……!!」
「してない!!」
「この私より……石ころを選ぶとは……!!」
「選んでない!! 目が疲れただけ!!」
ルシアードが震える。
「……なるほど」
「私の美は……未完成か」
「違う方向に解釈した!!」
「勇者よ」
ルシアードが問う。
「私は……美しいか」
「……」
(どっちも地雷)
「……はい」
「……っ」
涙。
「認められた……」
スッと道を開ける。
「行け、勇者よ」
「え、戦わないの!?」ガルド。
「不要だ」
「なんでだ!!」
「答えは得た」
「何の!?」
そのまま退場。
「……」
「……」
「……終わったな」 ケンジ。
物陰から、最後の影。
四天王・バルガス。
(……無理だろ)
(あいつ何もしてないのに三人消えたぞ)
(絶対関わったら終わる)
その時。
ユウが、そちらを見た。
「……はい」
軽く頷いただけ。
「ひぃぃぃぃ!! 全部バレてる!!」
バルガス、即逃走。
「四人目が一番判断早いな」 ケンジ。
静寂。
敵、全滅。
「……」
ユウは自分の手を見た。
(剣、抜いてない)
(歩いた) (頷いた) (ちょっと動いた)
(それだけ)
「勇者殿!!」 ガルド大興奮。
「四天王を瞬殺とは!!」
「……はい」
(違う)
「伝説確定です!!」 レティシア。
「記録更新」 セシル。
「だから違うって!!」
ケンジが叫ぶ。
「こいつ何もしてないからな!!」
「……はい」
(本当に何もしてない)
歩きながら。
(なのに)
(全部終わった)
(俺がやったことになってる)
(世界が勝手に進んでる)
(……これ)
(ちょっと怖い)
「勇者殿!! 見えましたぞ!!」
ガルドが指差す。
霧の向こう。
巨大な門。
魔王城。
「……はい」
(来てしまった)
「いよいよですな!!」
「……はい」
(いよいよ)
(でも)
(魔王より)
(お母さんの方が怖い気がする)
ケンジがぼそっと呟く。
「……なあ」
「これさ」
「もう勇者いらなくね?」
「いるわ!!」
誰も否定しきれなかった。
第18話 了




