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はい/いいえ勇者、母親が強すぎる。  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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17/24

第17話:魔王城の地図が、なぜか母にある

 最前線の砦。

魔王城を目前にした王国軍の拠点は、異様な緊張感に包まれていた。

巨大な作戦卓の上には、いくつもの地図、駒、資料。

騎士団、魔術師団、軍師たちが一堂に会し、議論は完全に行き詰まっていた。

「……不可能だ」

騎士団長が低く言い放つ。

「魔王城の内部構造は流動的。昨日の情報が今日には通用せん。罠の配置も巡回ルートも不明。突入すれば全滅は避けられん」

「魔術的に構造が変化している可能性が高いです」

セシルが静かに言う。

「通常の攻略は、前提から破綻しています」

「ではどうする!!」

副団長が机を叩く。

「正面突破など論外だ!!」

「裏口の存在も確認されていません!」

「潜入経路が存在する保証もない!!」

会議は完全に煮詰まっていた。

――その隅っこ。

ユウは、壁際で気配を消していた。

(……怖い)

(空気が怖い)

(みんな怒ってる)

(机叩く音が怖い)

(帰りたい)

ガルドがちらりと振り向く。

「勇者殿。何か妙案は——」

「……」

(ない)

(あるわけない)

(俺は今、帰りたい案しか持ってない)

ユウは、ただ小さく立っていた。

その時。

――ペチン。

「……」

全員の視線が集まる。

ユウの額に、封筒が貼り付いていた。

「来たァ!!」

ケンジが即座に回収した。

「タイミングが毎回神がかってるんだよなこれ!!」

「もはや現象として観測されています」

セシルが真顔でメモを取る。

「“母現象”と命名しましょう」

「やめろ論文化するな」

ケンジは封を切った。

「読むぞ」

一枚目。

いつもの手紙。

『ユウへ。

そろそろ魔王城に入る頃ね。

内部の地図を同封しておいたわ。

罠は×印、巡回ルートは青線、隠し通路は赤線で書いてあります。

食料は三日分持っていきなさい。

母より』

「……」

「……」

「……」

「もう一枚あるな」

折りたたまれた紙。

セシルが受け取り、ゆっくりと広げる。

広げる。

さらに広げる。

まだ広がる。

「……でかい」

ケンジが呟いた。

完全に開かれたそれは——

魔王城の、完全内部構造図だった。

「な……何だこれはぁぁぁ!!」

軍師が絶叫する。

「罠の位置が全て記されている!? 巡回ルートも完全一致!!」

「隠し通路まで……!」

「この赤線……魔王の間への最短ルートです!!」

セシルの声が震える。

「……国家機密どころではありません。これは“世界の裏側の設計図”です」

騎士団長がゆっくりとユウを見る。

「勇者よ」

「……」

「この地図……説明してもらえるか」

(無理です)

(俺も初見です)

(というか聞きたい側です)

ユウは黙る。

「……そうか」

騎士団長が深く頷いた。

「語る必要もない、ということだな」

「違う!!」

ケンジが即ツッコミ。

「知らないだけです!! この子も今知りました!!」

「父として息子を守る姿勢……見事です」

セシルが頷く。

「守ってない!事実言ってるだけ!!」

ガルドが地図を覗き込み、震えた。

「勇者殿のご母堂……いったい何者なのですか……」

「……」

(俺が一番知りたい)

その時。

魔術師団長が一点を指差した。

「ここを見てください」

「台所区域……?」

「はい。そしてこの注釈」

全員が覗き込む。

『冷蔵庫の裏に隠し通路あり』

「……」

「……」

「……冷蔵庫?」

ケンジが繰り返す。

「の裏?」

「はい。明確に書いてあります」

「なんで知ってんの」

「しかも補足があります」

セシルが読み上げる。

『冷蔵庫は少し重いから二人で動かしなさい』

「生活アドバイスまで入ってる!!」

さらに別の箇所。

「ここ……罠の説明が……」

『ここは床が抜けるけど、右側に体重かければ大丈夫』

「攻略というか体験済みのコメントだぞこれ!!」

「レビューサイトじゃないんだぞ!!」

ガルドが震える声で言う。

「勇者殿……この『魔王の間』ですが……」

「はい」

「最短ルートが……完全に確立されています……!」

「……はい」

(そうなんだ)

(すごいな)

(怖いな)

ケンジが頭を抱える。

「なあセシル」

「はい」

「これ、使うの?」

「使います」

即答だった。

「即答かよ!!」

「最も合理的です」

セシルは淡々と言う。

「罠を回避し、最短距離で魔王へ到達可能。成功率が飛躍的に向上します」

「情報源が“母親”ってこと以外はな!!」

「その点は確かに不明ですが」

「一番重要だろそこ!!」

レティシアが、うっとりとユウを見る。

「勇者様……」

「……」

「お母様は、世界そのものを整えておられるのですね」

(整えないでほしい)

(自然に任せてほしい)

(怖い)

ユウは震える手で地図を見た。

見慣れた字。

丁寧な字。

毎日見ていた字。

(……お母さんの字だ)

(なんで魔王城にあるの)

(なんで全部知ってるの)

(なんで)

沈黙。

騎士団長が、静かに宣言する。

「——決まったな」

「この地図を基に、作戦を再構築する!!」

「「「おおおおお!!!」」」

「待て待て待て!!」

ケンジが叫ぶ。

「それ完全にミツキの掌の上だぞ!!」

「それでも構わん」

騎士団長は断言した。

「勝てるならばな」

「合理的すぎる!!」

セシルが静かに頷く。

「勇者様の沈黙が、それを肯定しています」

「してない!!」

全員がユウを見る。

「……」

(してない)

(けど否定もできない)

(というかもう流れ止められない)

「……はい」

「「「おおおおお!!!」」」

「肯定扱いされた!!」

作戦は決定した。

母公認ルート。

冷蔵庫裏スタート。

誰も止まらない。

出発前。

ケンジが空を見上げる。

「……ミツキ」

当然、返事はない。

「お前さ」

沈黙。

「魔王城の中、見たことあるだろ」

沈黙。

「……いや、もういい」

ケンジは息を吐いた。

「どうせ“なんとなく分かるでしょう?”とか言うんだろ」

ユウは地図を握りしめる。

(言いそう)

(すごく言いそう)

ガルドが声を上げる。

「勇者殿!! 準備はよろしいですか!!」

「……」

(よくない)

(全然よくない)

(でも行くしかない)

「……はい」

「進軍開始!!」

軍勢が動き出す。

魔王城へ向かって。

ユウは一歩踏み出した。

手の中には——

母の字で書かれた、魔王城のすべて。

(……これ)

(俺の冒険なのかな)

(それとも)

(お母さんの段取り通りに進むイベントなのかな)

誰にも聞けない疑問を抱えたまま。

ユウはただ、前に進む。

第17話 了

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