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はい/いいえ勇者、母親が強すぎる。  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第14話:交渉回、喋らない方が勝つ

 ――国境。 石造りの巨大な門。 左右に並ぶ武装兵。 中央に据えられた検問台。

そして、その前で。

「止まれ」

低く、圧を含んだ声が響いた。

隣国ドルメア王国・国境担当官――バートン。 恰幅のいい体に、鋭い目。 いかにも「面倒くさい上に黒いことやってる顔」である。

「ここを通るには正式な許可と通行税が必要だ」 バートンは椅子にふんぞり返り、鼻で笑った。 「勇者だろうが王族だろうが例外はない。規則は規則だ」

「交渉いたしますわ」 レティシアが一歩前へ出る。 「グランベル王国第一王女として、正式な外交ルートに基づき――」

「聞いていない」

バートンは遮った。

「その横の勇者に聞いている」

全員の視線が、一斉にユウへ。

「……」

(え) (俺?) (なんで俺) (無理)

喉、沈黙。

視線、固定。

ユウはただ――バートンの眉間を見つめて固まった。

(怖い) (近い) (目が強い) (逃げたい)

「……何だ、その目は」

バートンの眉がぴくりと動く。

「何か言いたいことがあるのか?」

「……」

(あるけど言えない) (というか言葉が出ない) (まばたきってどうやるんだっけ)

「……」

沈黙。

風の音だけが通り過ぎる。

「……」

「……」

「……」

沈黙が、伸びる。

その長さに比例して、 バートンの額に――汗が浮いた。

「……まさか」

ぽつりと呟く。

「……知っているのか?」

「……」

(何を) (何も知らない)

「この関所の……帳簿の件を……」

「……」

(帳簿?)

「いや、違う……それだけじゃない……!」

バートンの声が震え始めた。

「地下倉庫……いや……裏金……いや……!!」

「おい待て何を自白し始めてる!!」 ケンジが叫ぶ。

「勇者殿……!」ガルドが震える。 「何という威圧……! 一切動かず、相手の内面を暴き出すとは……!」

「違う!! 固まってるだけだ!!」

セシル、眼鏡を押し上げる。

「沈黙による心理圧迫。相手の発言を誘導し、自壊させる高度な交渉術ですね」

「違うって言ってるだろ!!」

「……っ」

バートンが一歩後ずさる。

(この少年……危険だ) (何も言わないのに……全部見透かされている気がする……!!)

「……何が目的だ」

「……」

(目的?) (帰りたい)

「金か……? 通行か……? それとも――告発か……!?」

「……」

(全部違う) (でも言えない)

「……いいえ」

ぽつり。

ユウの口から、かすれた声が漏れた。

(あ、出た)

「――っ!!」

バートン、絶叫。

「“いいえ”だと!?」

兵士たちがざわめく。

「『それでは足りない』という意味か!?」 「『罪はそれだけではない』という宣告か!?」 「『すべて吐け』ということか!?」

「違うううう!!」 ケンジが頭を抱える。 「ただの反射だ!!」

「……いいえ」

(違うって言いたかっただけ)

「ひぃぃぃぃ!!」

バートン、崩壊。

「分かった!! 全部認める!! 通行税は免除だ!! いや、払わなくていい!! いや、むしろこっちが払う!!」

「何でそうなる!!」

「これでいいか!? これで許してくれるのか!?」

「許すも何もしてない!!」

バートンは震える手で書類に印を押し、 金貨袋をユウに押し付けた。

「通れ!! 今すぐ通ってくれ!!」

「……」

(通れた) (なんで)

レティシア、優雅に頷く。

「見事ですわ、ユウ様」 「沈黙で主導権を完全掌握し、相手の自滅を誘発する……理想的な交渉です」

「だから違うって!!」

セシル、手帳に記録。

「“無言圧迫型交渉術”。再現性あり。今後の戦術に組み込み可能」

「するな!!」

ガルド、感動。

「言葉を使わず勝つとは……まさに勇者!!」

「偶然だ!!」

――関所通過。

全員が歩き出した、その時。

ひらり。

空から紙が舞い落ちる。

「……またか」

ケンジがキャッチする。

封を切る。

「読むぞ」

全員が自然と足を止めた。

『ユウへ。 関所の交渉は、うまくいったかしら。 相手の眉間を見て、黙っていなさい。 言葉数の多い人ほど、自分の中の不安や罪悪感で勝手に崩れるわ。 それと、もらったお金は宿代に使いなさい。 母より』

「……」

「……」

「……」

沈黙。

「……やっぱりか」 ケンジが天を仰ぐ。

「完全に分かって書いてるなこれ」

「未来予測……?」ガルドが震える。

「いえ」セシルが冷静に言う。 「これは予測ではなく――前提です」

「前提って何だよ」

「この状況が起きることが“確定していた”ということです」

「やめろ怖い」

ユウ、手紙を見つめる。

(お母さん) (これ) (全部知ってたの)

背中に寒気が走る。

(俺が固まることも) (相手が勝手に喋ることも) (お金もらうことも)

「……」

「……はい」

小さく頷く。

「どうしたユウ」 ケンジが覗き込む。

「……」

(怖い)

ガルド、拳を握る。

「しかし見事な勝利でしたな!!」

「勝利じゃない!!」

セシルがまとめる。

「本件により、“勇者の沈黙は交渉を制する”という仮説が実証されました」

「だから違うって!!」

レティシアが微笑む。

「ですが、結果は完璧でしたわ」

「結果はな!!」

ユウは前を向いて歩き出した。

(通れた) (何もしてないのに)

少しだけ、息を吐く。

(でも)

(次もあるんだよね)

「勇者殿! 次の関所でもぜひ――」

「やめろぉぉぉ!!」

ケンジ絶叫。

ユウ、再び硬直。

沈黙。

その沈黙が、 また一つ“必勝の戦術”として 世界に刻まれていく。

――本人の意思とは無関係に。

そしてユウは、静かに思った。

(敵より)

(母の方が怖い)

第14話 了

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