表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はい/いいえ勇者、母親が強すぎる。  作者: ぃぃぃぃぃぃ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/24

第15話:母親の手紙、敵幹部より怖い

 その日の街道は、不自然なほど静かだった。

風が止んでいる。 鳥も鳴かない。

「……勇者殿」 ガルドが低く言う。 「来ます」

「……はい?」 (来ないでほしい)

セシルが眼鏡を押し上げる。 「複数の気配。しかも統制が取れている。これは——」

「魔王軍だな」 ケンジが顔をしかめた。

次の瞬間。

ざわり、と木々の影が揺れた。

黒い外套の兵たちが左右から現れる。 その数、十数名。

そして中央から、一人の男が歩み出た。

痩せた体。 鋭い目。 口元に浮かぶ、計算し尽くされた微笑。

「……お会いできて光栄です、勇者ユウ」

静かな声。

「魔王軍幹部、バルガスと申します」

「出たァ!!」 ケンジが思わず叫ぶ。 「絶対ヤバいやつ!! 顔が“計算してます”って顔してる!!」

「買いかぶりですよ」 バルガスは淡々と返す。 「ただの幹部です」

「その“ただの”が一番怖いんだよ!!」

一方。

ユウは。

「……」 (無理) (怖い) (目が合った) (もう帰りたい)

完全に硬直していた。

だがその無表情は——

「……なるほど」 バルガスの目が細くなる。

(来たな) (報告通りの沈黙) (この男、やはり“読む側”だ)

完全に誤解していた。

「単刀直入にいきましょう」 バルガスが片手を上げる。

「あなたに、二択を提示します」

空気が張り詰めた。

「降伏するか」

右手を上げる。

「それとも、この場で戦うか」

左手を上げる。

「どちらかを、お選びいただきたい」

「究極の二択……!」 セシルが息を呑む。 「どちらも罠……!」

「勇者殿……!」 ガルドが拳を握る。 「どう動かれる……!」

「……」 (どっちも嫌だ) (というか選べない) (選択肢が二つある時点で詰んでる) (帰るって選択肢は?)

完全に思考停止。

沈黙。

沈黙。

さらに沈黙。

「……」 「……」

バルガスの額に、わずかに汗が浮いた。

(揺れない) (この二択を前にしても動じない) (やはり……“見えている”のか)

「……急かすつもりはありません」 バルガスが静かに言う。 「じっくり考えて——」

その瞬間。

ぺちん。

乾いた音。

「……?」 全員が止まった。

ユウの額に、一通の手紙が張り付いていた。

「また来た!!」 ケンジが叫ぶ。 「このタイミングで来るのおかしいだろ!!」

ユウは震える手で手紙を剥がす。

見る。

開く。

読む。

「……」

そこには、見慣れた文字。

『ユウへ。 今、選択を迫られているわね。 答えは「いいえ」よ。 理由は裏面に書いておいたわ。 母より』

「……」 「……」 「……」

「今!?」ケンジ。 「今来る!?」

「完璧なタイミングですね」 セシルが冷静にメモを取る。 「もはや予測ではなく“確定事象”です」

「やめろその言い方!!」

ユウは、ゆっくりと手紙を裏返した。

びっしり。

細かい文字。

異常な情報量。

「……」

読む。

読む。

さらに読む。

(なんで) (全部書いてある)

本名。 出身。 癖。 戦術。 心理傾向。

そして——

(昨日の夕食まで書いてある)

「……っ」

ユウの手が震えた。

(なんで昨日の夕食知ってるの) (怖い) (この人より怖い)

バルガスはその様子を見ていた。

(手紙を読んで、震えている) (何かを“知った”反応……)

背筋に冷たいものが走る。

「……勇者よ」 バルガスが低く問う。 「その手紙には、何が書かれている」

「……」 (言えない) (絶対言えない) (言ったら色々終わる)

沈黙。

「……その沈黙は」 バルガスの声がわずかに揺れる。 「“言うまでもない”という意味か」

「……」 (違う) (困ってるだけ)

「……全て、見えているのか」

「……」 (何が)

「答えよ!!」 バルガスが声を上げた。 「降伏か! 戦闘か!」

ユウは手紙を見た。

『答えは「いいえ」よ』

喉が震える。

声を絞り出す。

「……いいえ」

静寂。

次の瞬間。

「——っ!!」

バルガスが大きく後退した。

「『いいえ』……だと……!?」

「両方を否定!?」 「二択そのものを破壊した!?」 「第三の選択肢を持っているのか!?」

魔族兵たちがざわめく。

「そんな選択ある!?」 ケンジが叫ぶ。 「普通どっちか選ぶだろ!!」

「静かに」 セシルが言う。 「効いています」

「理由が違う!!」

バルガスはユウを睨む。

ユウはバルガスを見ている。

(怖い) (でも) (お母さんの方が怖い)

その“揺らがない目”を見て——

バルガスの確信は、完成した。

「……この勇者は」 静かに言う。

「私の予測の外にいる」

空気が凍る。

「……引く」 バルガスが踵を返した。

「全軍、撤退だ」

「えええええ!?」 ケンジ。

「これ以上関われば——」 バルガスは振り返らずに言う。

「全てを読まれる」

「撤退ィィィ!!」

魔王軍、即時撤収。

戦闘、未発生。

「……」

静寂が戻る。

「勇者殿!!」 ガルドが振り向く。 「見事な判断でした!!」

「二択を否定し、相手の論理を破壊するとは……!」 セシルが感動する。

「違う!!」 ケンジが叫ぶ。 「お母さんの指示だ!!」

レティシアが優しく言う。 「それでも、決断したのは勇者様ですわ」

「いや違——」

「……はい」

全員、感動。

「納得するな!!」 ケンジだけ崩壊。

ユウは手紙を見ていた。

(お母さん) (なんでここまで知ってるの)

沈黙。

そして、小さく。

「……はい」

ケンジが肩に手を置く。

「ユウ」

「……はい」

「お前、どっちが怖い」

一瞬の間。

ユウは、迷わず。

「……はい」

「だよな!!」 ケンジ即理解。

夜。

焚き火の前。

「ミツキ……」 ケンジが呟く。

「……はい」

「お前の母さん、何者なんだ」

「……はい」

「答えになってねえよ!!」

セシルが静かに言う。 「少なくとも」

全員が見る。

「バルガスより上です」

「やめろその比較!!」

「……はい」

火が揺れる。

この日。

魔王軍幹部を退けた勇者は——

敵ではなく、母に震えていた。

第15話 了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ