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はい/いいえ勇者、母親が強すぎる。  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第13話:魔王軍、勇者の『沈黙』を誤読する

 ――魔王城。

黒い石で組まれた巨大な謁見の間。 天井は高く、空気は重く、無駄に威圧感がある。

その中央。

一人の男が、静かに報告書を読んでいた。

魔王軍知将――バルガス。

「……」

一枚、めくる。

「……」

もう一枚、めくる。

「……おい」

低い声。

「はっ」

側近が即座に膝をつく。

「この報告書を書いたのは誰だ」

「偵察隊第三班でございます」

「……裏取りは」

「複数の目撃証言、一致しております」

「……」

バルガスは報告書を机に置いた。

そこにはこう書かれている。

――勇者ユウ・アサギリ

・言葉少なき若き勇者

・偽物の聖剣を一目で看破

・術式核を無詠唱で破壊

・沈黙によって民衆と経済を掌握

「……」

沈黙。

「……化け物か」

「そのように」

「懸念は」

「山ほど」

「同意だ」

バルガスは椅子に深く座り直した。

「言葉で動かず、沈黙で世界を動かす人間ほど厄介なものはない」

「……はい」

「監視を強化しろ。日常の些細な行動まで全て拾え」

「はっ!」

――その時。

「バルガス様!!」

別の兵が駆け込んできた。

「最新の目撃情報です!」

「……読む」

水晶球が差し出される。

バルガスは手をかざした。

映像が浮かび上がる。

――宿場町の食堂。

そこにいたのは。

メニュー表を両手で持ち、完全に停止しているユウだった。

「……」

ピクリとも動かない。

呼吸すら静か。

完全停止。

「……」

バルガスの眉が、わずかに動く。

「……何分だ」

「およそ、十分間です」

「……十分」

部屋がざわついた。

「メニューを前に、十分……」

「ただの迷いではないな」

「ええ……」

偵察兵が震える声で言う。

「奴は……全選択肢の未来を同時に演算しているものと思われます」

「なっ……!」

「料理選択に見せかけた戦略演算……!」

「食事ですら戦術……!」

「馬鹿な……!」

一斉にどよめき。

バルガスは、ゆっくりと立ち上がった。

「……なるほど」

静かに呟く。

「食事という日常行動に偽装し、未来分岐を検証する……」

「はい……!」

「この男……常に戦場にいるつもりか」

「ひぃ……!」

その頃。

当のユウ。

(……ハンバーグか、オムライスか)

(どっちだ)

(どっちがいい)

(ケチャップ飛ぶの怖い)

(でもハンバーグは重いかも)

(いやでもお母さんのメモ……)

(……どうしよう)

完全に晩ごはんで詰んでいた。

「……」

固まる。

さらに固まる。

店員が来る。

「ご注文はお決まりでしょうか」

「……」

沈黙。

「……」

沈黙。

「……」

店員、後ずさる。

その様子が水晶に映る。

「見ろ」

バルガスが指を差した。

「周囲が近づけない」

「圧……!」

「精神干渉の領域……!」

「違うただのコミュ障だ!!」と誰かが言いかけてやめた。

怖いから。

やめた。

「……選んだか」

「いえ、まだです」

「……長い」

「長すぎる」

「通常の人間なら耐えられん」

「精神が崩壊する」

「だが奴は平然としている……!」

(全然平然じゃない)

(むしろ限界)

やがて。

ユウが、小さく頷いた。

「……はい」

「――!!」

部屋が凍りついた。

「来たぞ……」

「決断だ……!」

「未来が確定した……!」

「何を選んだ……!?」

水晶の中。

店員が言う。

「日替わり定食でよろしいですか?」

ユウ、小さく頷く。

「……はい」

「……日替わり」

バルガスが呟く。

「最適解か……」

「その日の状況に最も適応した選択……!」

「柔軟性……!」

「恐ろしい……!」

その頃ユウ。

(……おすすめに逃げた)

(もう無理だった)

(助かった)

完全敗北の思考。

だが魔王軍は違った。

「さらに報告です!」

別の兵が叫ぶ。

「勇者は宿場町にて、ある屋台に対し『いいえ』と発言!」

「……それだけか」

「翌日、その屋台の食材に問題が発覚しました!」

「……」

「……」

「……」

全員がゆっくりバルガスを見る。

「……見抜いたのか」

「その可能性が高いかと」

「偶然では?」

「精度が高すぎます」

「……」

バルガスは静かに目を閉じた。

「……報告書にはこう書け」

「はっ」

「『勇者は対象の本質を瞬時に見抜く識別能力を持つ』」

「……了解」

(絶対違う)

誰も言えない。

怖いから。

さらに。

「追加報告!」

「言え」

「勇者は橋の手前で進路を変更!」

「……」

「三十分後、その橋が崩落しました!」

「…………」

沈黙。

重い沈黙。

誰も動かない。

「……」

バルガスの口が、ゆっくり開いた。

「……未来予測」

「……はい」

「……確定未来か」

「……可能性が」

「……」

バルガスは椅子に座った。

深く、沈み込むように。

「……この勇者」

誰も息をしない。

「……放置すると危険だ」

「はっ」

「だが」

視線が鋭くなる。

「不用意に接触すれば、こちらの全てを読まれる」

「……っ」

「監視を続けろ」

「はっ」

「奴の沈黙を――」

低く、重く。

「必ず解読しろ」

「はっ!!」

――その頃。

街道。

ユウは、のんびり歩いていた。

空を見上げる。

(……あの雲)

(犬みたいだな)

平和。

圧倒的に平和。

「勇者殿!」

ガルドが元気に言う。

「次の関所まで半日ですぞ!」

「……」

ユウ、小さく頷く。

(関所)

(人いる)

(怖い)

「ミツキのメモは?」

セシルが聞く。

ケンジが開く。

「……えーと」

読み上げる。

「『関所ではなるべく喋らないこと』」

「いつも通りですね」とガルド。

「そうだな」とケンジ。

「むしろ強化されてるまである」とセシル。

「……」

ユウ、静かに頷く。

(いつも通り)

(助かった)

――魔王城。

バルガスはまだ考えていた。

机の上。

積み上がる報告書。

沈黙。

選択。

否定。

回避。

予測。

「……どういう人間だ」

誰にも分からない。

その答えは。

晩ごはんで詰み、

串焼きを避け、

雲を犬だと思っている青年の中には、

どこにも存在していなかった。

――ただ一つ確かなこと。

勇者ユウの沈黙は。

敵味方問わず、

勝手に世界を動かし始めていた。

第13話 了

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