第12話:勇者、町おこしに利用される
――宿場町「ウォルム」。
ミツキの“旅のしおり(完全版)”に記されていた通りの時間、通りの角度、太陽の傾きまで一致した状態で、ユウ一行はその町に到着した。
そして。
一歩、踏み入れた瞬間。
――パァァァァン!!
爆竹。 ――パパパァァン!! さらに爆竹。 ――ファァァァァァンファーレ!! なぜか楽団。
「「「勇者様ぁぁぁぁぁ!!!」」」
横断幕がはためいた。 【勇者様歓迎祭 開催中!!】
「……」
ユウ、硬直。
(……帰りたい) (まだ門だよ?) (町に入っただけだよ?) (なんで祭りになってるの)
「いやちょっと待てええええ!!」 ケンジが即座にツッコむ。 「なんで初手フェスなんだ!? RPGでももう少し段階踏むだろ!!」
「情報の伝達速度を侮ってはいけません」 セシルが冷静に眼鏡を押し上げる。 「王都からの報告、各地の噂、そして勇者様の“実績”……総合すれば、この規模の歓迎は合理的です」
「合理的で片付けるな!!」
「勇者殿!!」 ガルドが胸を張る。 「これは当然の待遇ですな!!」
(当然じゃない) (怖い)
ユウ、後ずさり。 だが人の波が逃がさない。
「勇者様ぁぁぁ!!」 町長(丸い)が突撃してきた。 「お待ちしておりました!! 我が町ウォルム、総力を挙げて歓迎いたします!!」
(総力いらない) (半分でいい) (いや三分の一でも多い)
「さあ! まずは一言! 民衆へのお言葉を!!」
「やめろぉ!!」 ケンジが即座に割り込む。 「この流れ危険だぞ!! うちの息子は人前で喋るとフリーズするタイプ――」
「広場へ!!」
「聞け!!」
――連行。
広場。
人、人、人。
推定数千人。
ステージ。 マイク型拡声魔導具。 完全に“スピーチしてください”の配置。
「勇者様ぁぁ!!」 「一言を!!」 「ありがたいお言葉を!!」
「……」
ユウ、前に立つ。
(無理) (無理です) (喉が消えた) (存在しない)
口、ぱくぱく。
音、出ない。
沈黙。
10秒。
20秒。
ざわざわ。
「……っ」
その時。
すっと、一歩前に出る影。
「皆様」
レティシアだった。
鈴のような声が、広場を包む。
「どうかご覧ください」
(やめて) (何か始まる)
「勇者様は今――皆様一人一人の“想い”を、その身に受け止めておられるのです」
「……っ!?」
どよめき。
「軽々しく言葉にするのではなく、その重みを、沈黙という形で抱きしめておられる……」
「おおおおお……!」
「違うううう!!」 ケンジ絶叫。 「喋れないだけだ!! シンプルに機能停止してるだけだ!!」
「お父上の謙遜……」 ガルドが頷く。
「謙遜じゃない!!」
セシル、追撃。
「勇者様は一貫して“言葉に頼らない伝達”を選択されています。これは極めて高度な意思疎通――」
「違う!! 不具合だ!!」
町長、号泣。
「なんという包容力……!!」 「喋らないことでここまで語るとは……!!」
「語ってない!!」
ユウ、完全にフリーズしたまま。
(もうダメだ) (全部違う方向に行ってる)
「……」
沈黙。
「……っ!!」
歓声、爆発。
「勇者様ぁぁぁぁ!!!」
スピーチ、終了。
その後。
屋台通り。
「勇者様! こちらの串焼きをぜひ!!」
差し出される、赤く輝く謎の肉。
ミツキメモ: 【三番目の串は食べないこと】
「……」
ユウ、小さく首を横に振る。
「……いいえ」
静寂。
「……っ!!」
屋台主、蒼白。
「勇者様が……否定を……!?」
町民ざわざわ。
「これは……」 セシルが低く呟く。 「“民に譲れ”という意思表示……!」
「違う!!」 ケンジが叫ぶ。 「ただの食の好み!!」
「勇者様は見抜いたのか……?」 「この串の“裏”を……」
「裏なんてない!!……よな?」
屋台主、汗だらだら。
「じ、実はその……仕入れ先がちょっと……」
「ほらああああ!!」 群衆、爆発。
「見抜いておられた!!」 「さすが勇者様!!」
「偶然だって!!」
次。
四番目の屋台。
レティシアがにこやかに差し出す。
「こちらはいかがですか?」
ユウ、こくりと頷く。
「……はい」
「来たぁぁぁぁ!!」
「勇者様の“はい”!!」
「並べええええ!!」
瞬時に大行列。
屋台主、号泣。
「人生で一番売れてるぅぅぅ!!」
「経済動かすな!!」 ケンジ絶叫。
さらに。
パン屋。
ユウ、普通のパンを指差す。
(これがいい)
「……はい」
町長、震える。
「それは……選ばれしパン……!」
翌日。
【聖なるパン 価格5倍】
「ぼったくりだろ!!」
「違います!! 価値が上がったのです!!」
「市場操作だ!!」
午後。
町長が再びやってくる。
「勇者様! 都市計画についてご意見を!!」
「やめろ」
「この噴水、どこに移設すべきか――」
ユウ、足元を見る。
(右、通りにくいな)
ちょん、と右を指す。
「右!!」
町長、覚醒。
「神殿を建てろという神託だ!!」
「違う!!ただの導線の問題!!」
「工事開始ぃぃぃ!!」
「止めろぉぉぉ!!」
夕方。
広場。
町長、涙。
「勇者様のおかげで、本日の売上は過去最高!!」
「おおおおお!!」
「“はい”と“いいえ”で町が救われた!!」
「おおおおお!!」
「そんなRPGあるか!!」
夜。
宿。
「賑やかな町でしたな!」 ガルド満足。
「……」
ユウ、ぐったり。
(HPゼロ) (精神力もゼロ)
「勇者殿の影響力は戦闘以外にも及ぶ……興味深いですね」 セシル、記録中。
「分析するな!!」
「発言の経済効果を数値化すれば――」
「するな!!」
レティシア、微笑む。
「素晴らしかったですわ。何も語らず、人々を導くその姿……まさに理想の王」
「違う方向に王にするな!!」
ケンジ、頭抱える。
「もうユウは喋るな!! 頷くな!! 指差すな!! 呼吸も制限しろ!!」
「それ生存条件アウトだろ!!」
窓の外。
まだ続く祭りの灯り。
笑い声。
賑わい。
「……」
ユウ、静かにそれを見る。
(俺、何もしてない) (ほんとに)
でも。
町は楽しそうだった。
(……まあ)
少しだけ、肩の力が抜ける。
その瞬間。
「勇者様!! 明日は下水道改革について――!!」
「やめろぉぉぉぉ!!」
ユウ、再び硬直。
沈黙。
「……っ!!」
「下水道に沈黙!?」 「なんという深遠なテーマ設定!!」
「違うって言ってるだろぉぉぉ!!」
――こうして。
勇者ユウの“沈黙”は、
ついに戦場を越え、
経済を動かし、
都市計画に影響を与え、
町おこしの神として崇められるに至った。
本人はただ、
串焼きの当たり外れを避けただけである。
第12話 了




