第28話「最短を見ない」
魔王領・南部交易路。
強硬派は、ついに一線を越えかけた。
「共同市場は裏切りだ!」
「人間との協調など軟弱!」
若い将校たちが武装し、物流拠点を占拠する。
小規模――だが象徴としては十分。
その報は、瞬く間に王都へ届いた。
「交易路一部封鎖!」
「市場に再び影響が!」
エルマが帳簿を抱えて叫ぶ。
「回転率がまた落ちます!」
ゴルドが頭を抱える。
「だから言っただろうが!」
アルドは剣を握る。
「今度こそ行く」
レオンは目を閉じる。
最短が、見える。
強硬派の資金源遮断。
内部情報流布。
指導層孤立化。
二手。
三日で崩せる。
だが。
白が広がる。
視界が霞む。
セレネの声が遠い。
「レオン、見るな」
見るな。
その言葉が、白の中で響く。
最短を見ない。
可能か。
線は勝手に浮かぶ。
消えない。
「……遮断します」
「何を」
「探索」
目を閉じる。
線を追わない。
計算しない。
未来を読まない。
白い世界が強くなる。
だが、そこに踏み込まない。
「アルド」
目を開ける。
色は薄いが、ある。
「局所鎮圧を任せます」
「お前は?」
「外交と対話」
ゴルドが叫ぶ。
「対話で止まるか!」
「止まらなくても、試します」
最短ではない。
だが白ではない。
◆
魔王領拠点。
セレネと共に現地へ向かう。
強硬派の若い将校が睨む。
「裏切り者!」
「市場は魔族を弱くする!」
レオンは静かに言う。
「市場は戦争を減らす」
「弱腰だ!」
「戦争は効率が悪い」
「効率で誇りは測れない!」
揺らぎ。
感情。
怒り。
最短は、指導層排除。
だが見ない。
見るな。
レオンは深く息を吸う。
「あなた方は恐れている」
「何を!」
「消えることを」
沈黙。
「市場が拡大すれば、魔族も変わる」
「それが嫌だ!」
「変わらないことの損失は?」
最短を使わず、問いを投げる。
時間がかかる。
効率は悪い。
だが白くならない。
◆
一方、アルドは剣を振るう。
局所衝突。
だが致命的ではない。
勇者は殺さない。
押し返すだけ。
揺らぎを残す。
◆
夕暮れ。
拠点は解放される。
強硬派は武装解除。
完全解決ではない。
だが内乱には至らなかった。
レオンはその場に立つ。
視界は淡い。
だが白ではない。
「削れ率……七割のまま」
セレネが隣で言う。
「今、最短を見ましたか」
「いいえ」
「苦しかったでしょう」
「はい」
初めて、素直に答える。
「最短を見ないのは、不安です」
「ええ」
「だが白くならない」
セレネは小さく笑う。
「それが答えです」
遠くで、ゴルドが怒鳴る。
「俺の剣を勝手に平和象徴モデルにするな!」
エルマが叫ぶ。
「市場安定策です!」
揺らぎ。
笑い。
怒号。
完全ではない。
だが色はある。
合理は力だ。
だが見ない勇気も力だ。
総務は初めて、“最短を見ない”選択をした。
白い世界は遠ざかった。
だが封鎖も外交も、まだ終わっていない。
均衡は、まだ揺れている。
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