第27話「色が消える」
封鎖は、緩みながらも続いていた。
帝国は段階的緩和。
共和国は条件付き再開。
北方同盟は様子見。
市場は揺れながら、なんとか立っている。
だがその均衡は、紙一重だった。
「共和国の地方銀行が破綻寸前です!」
エルマの声が会議室に響く。
「連鎖します!」
ゴルドが顔を青くする。
「またかよ!」
セレネがレオンを見る。
「最短は?」
問われる前に、見えている。
共和国債務を救済するか、
逆に不安を加速させて封鎖を崩すか。
どちらも三手以内。
どちらも可能。
視界が、急速に白む。
色が、抜け落ちる。
会議室の壁も、旗も、顔も、灰色を越えて白に近い。
「……六割から、八割へ」
小さく呟く。
「何がです!」
エルマが叫ぶ。
「削れ率です」
静まり返る。
アルドが一歩前に出る。
「使うな」
「使いません」
だが線は、勝手に浮かぶ。
共和国を救えば、帝国が不満を持つ。
帝国を優先すれば、共和国が揺らぐ。
最短は、どちらかを削る。
白い世界が、強くなる。
音が遠い。
「レオン!」
セレネの声が、かすかに届く。
彼女の瞳の色が分からない。
何色だったか。
思い出せない。
「……判断します」
声が遅れる。
「共和国を救済」
会議室がざわめく。
「封鎖側だぞ!」
「短期救済で信用を回復」
「帝国は?」
「説明します」
立ち上がる。
足元の感覚が薄い。
◆
その夜。
共和国代表リディアとの会談。
「救ってくださるのですか」
「短期保証枠を設けます」
「なぜ」
「連鎖防止」
リディアは疲れた目で言う。
「あなたは帝国を潰せた」
「はい」
「なぜしないのです」
「世界が白くなります」
彼女は意味を理解できない顔をする。
当然だ。
だがレオンの視界は、すでに半分白だ。
◆
帰路。
廊下で足が止まる。
視界が完全に白に近づく。
音が消える。
市場の喧騒も、風も、足音も。
無音。
無色。
完全安定。
完全静止。
そこに、値札はない。
芋も剣も区別がない。
帝国も共和国もない。
均質。
それが最短の先。
「……違う」
かすかな声。
白の中に、小さな色が混じる。
セレネの声。
「レオン!」
肩を掴まれる感触。
色が、わずかに戻る。
彼女の髪の色。
瞳の色。
はっきりしないが、白ではない。
「戻ってください」
「……戻っています」
息が荒い。
「今、消えかけました」
「承知しています」
「承知するな」
珍しく、怒気を含んだ声。
「あなたは合理に使われています」
「使われていません」
「嘘です」
彼女は真っ直ぐ見る。
「最短を見続ければ、あなたは白くなる」
沈黙。
白い世界の残滓が、まだ視界に残る。
「……制限します」
「何を」
「最短探索」
「可能ですか」
「分かりません」
だがやるしかない。
◆
翌朝。
市場はまだ揺れている。
だが崩壊していない。
共和国銀行は救済され、
帝国は不満を表明しながらも封鎖を緩める。
均衡。
不完全な均衡。
レオンの視界は、淡い。
完全な色ではない。
だが白でもない。
「削れ率、七割」
小さく呟く。
アルドが横で言う。
「それ、戻るのか」
「不明」
セレネが静かに言う。
「あなたが選び続ければ」
「何を」
「最短以外を」
遠くで、ゴルドが叫ぶ。
「誰だ俺の剣を共和国保証枠に入れたのは!」
エルマが叫ぶ。
「市場安定策です!」
小さな笑い。
揺らぎ。
完全ではない。
だが色は、まだある。
合理は暴力になり得る。
最短は世界を白くする。
総務は今、初めて限界に触れた。
それでも、壊さない。
白の先にあるものを、拒むために。
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