第29話「揺らぎの条約」
封鎖は、ゆっくりと解けていった。
共和国は共同保証枠を受け入れ、
北方同盟は港湾検査を通常水準へ戻し、
帝国は関税を段階的に引き下げた。
三国協議は、最終合意へと向かう。
王城・大広間。
旗が並ぶ。
帝国。
共和国。
北方同盟。
王都。
魔王領。
ヴァルケンが静かに言う。
「共同市場への限定参加を認める」
リディアが続く。
「相互信用保証の枠組みを設立」
北方同盟代表が短く言う。
「武力不行使確認」
アルドが頷く。
「剣は抜かない」
セレネがレオンを見る。
「総務、総括を」
レオンは立ち上がる。
視界は淡い。
だが色はある。
「本条約は、完全安定を目指しません」
ざわめき。
「価格変動幅を許容し、各国市場の自律性を尊重します」
ヴァルケンが小さく笑う。
「揺らぎの条約、か」
「はい」
「合理的ではない」
「承知しています」
レオンは続ける。
「だが持続可能です」
沈黙の後、署名が行われる。
ペンが紙を滑る音。
封鎖は、ほぼ解除された。
◆
市場。
芋が戻る。
「帰ってきたぞ!」
ゴルドが叫ぶ。
「剣も売れるぞ!」
エルマが帳簿を振り回す。
「回転率、安定!」
笑いが戻る。
怒号も戻る。
完全ではない。
だが生きている。
◆
夜。
執務室。
レオンは一人、窓の外を見る。
色は薄い。
鮮やかではない。
だが白ではない。
「削れ率……七割固定」
戻らない。
セレネが隣に立つ。
「後遺症ですか」
「恐らく」
「後悔は?」
少し考える。
「ありません」
「最短を使えば、楽だったでしょう」
「はい」
「帝国は崩れ、封鎖は即座に消えた」
「はい」
「なぜ使わなかったのです」
レオンは市場を見る。
笑い声。
値切り交渉。
剣と芋の抱き合わせ。
「白くなるからです」
静かな答え。
セレネは目を細める。
「あなた、少しだけ人間らしくなりましたね」
「誤差です」
だが否定はしない。
◆
帝国大使館。
ヴァルケンが窓から王都を見る。
「彼は使わなかった」
部下が言う。
「危険ではありませんか」
「違う」
ヴァルケンは静かに答える。
「最も危険なのは、使う者だ」
そして小さく呟く。
「彼はまだ均衡を選べる」
◆
王都。
アルドが剣を肩に担ぐ。
「戦わずに終わったな」
「はい」
「つまらんか?」
「少し」
二人は小さく笑う。
揺らぎ。
不完全。
だが世界は回る。
合理は暴力になり得る。
だが制御すれば、均衡になる。
総務は壊せる。
だから壊さない。
封鎖は終わった。
だが能力の代償は残る。
色は薄いまま。
白い世界は、夢の奥に潜んでいる。
均衡は保たれた。
だが物語は、さらに深い層へ進む。
合理の正体は、まだ明かされていない。
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