第21話「経済侵略認定」
王都の空気が、変わった。
市場は相変わらず騒がしい。
芋は売れ、剣はそこそこ売れ、冒険者は文句を言いながら働いている。
だが、城の上空には、三色の旗が翻っていた。
帝国。
共和国。
北方同盟。
同時に来訪。
「……同時ですか」
レオンは城の窓から旗を見る。
「圧力ですね」
セレネが静かに言う。
「外交的包囲網」
城内会議室。
三国代表が並ぶ。
中央に立つのは、帝国宰相ヴァルケン・ロドス。
灰色の髪。
鋭い瞳。
感情の揺れがほとんどない。
「王都と魔王領の共同市場は、周辺諸国に深刻な影響を与えている」
低く、よく通る声。
「資本流出。価格破壊。雇用喪失」
共和国代表リディアが続ける。
「我が国の若者が王都へ流れています」
北方同盟代表は短く言う。
「経済侵略だ」
沈黙。
レオンは淡々と答える。
「侵略の意図はありません」
「結果が侵略だ」
ヴァルケンの視線が突き刺さる。
「合理は国境を越える」
レオンはわずかに目を細める。
「合理は損失を減らす手段です」
「誰の損失だ?」
空気が凍る。
勇者アルドが腕を組む。
「戦争はしていない」
「経済は戦争の延長だ」
ヴァルケンは一歩前に出る。
「王都は市場を武器にした」
セレネが冷静に言う。
「自由取引です」
「自由は強者の言葉だ」
その言葉に、レオンの視界に線が走る。
最短。
帝国通貨信用崩壊ルート。
共和国債務圧迫ルート。
北方同盟資源依存切断。
三手。
帝国は一年以内に破綻する。
共和国は王都依存。
同盟は内部崩壊。
「……可能です」
小さく呟く。
セレネが横を見る。
「何がですか」
「最短で包囲網を解体できます」
ヴァルケンが微笑む。
「ほう」
彼は気づいている。
「見えるのだな」
レオンの視界が、一瞬だけ白くなる。
彩度低下。
音が遠い。
「帝国通貨を売り、信用を削り、物流を遮断すれば」
会議室がざわめく。
「一年で破綻します」
ヴァルケンの目が細くなる。
「合理的だ」
「だが実行しません」
レオンは静かに言う。
視界がさらに白くなる。
声が遠い。
「なぜだ?」
「損失が大きすぎる」
「誰の?」
再び問われる。
レオンの視界に、三国の民衆の線が走る。
失業。
飢餓。
暴動。
最短は、確かに可能。
だが。
「……世界の損失です」
音が一瞬途切れる。
白い。
会議室の色が薄い。
セレネが小さく呟く。
「レオン」
ヴァルケンがゆっくりと笑う。
「君は危険だ」
「承知しています」
「君は世界を壊せる」
沈黙。
勇者が低く言う。
「壊さない」
「壊さないと、壊されるぞ」
ヴァルケンは告げる。
「我々は経済封鎖を検討している」
空気が張り詰める。
「物流停止。通貨連合離脱。関税倍増」
王都がざわめく。
市場が止まる。
レオンの視界に、封鎖後の線が広がる。
税収減。
価格高騰。
失業再燃。
最短はある。
だが。
白い。
世界が白に近づく。
「……問題ありません」
声がわずかに遅れる。
セレネが強く言う。
「問題があります」
彼女の声だけが、はっきりと聞こえる。
「あなた、色が」
レオンは瞬きをする。
視界は薄い。
だが線は、鮮明だ。
ヴァルケンが言う。
「合理は暴力だ。使えば使うほど、君は削れる」
沈黙。
レオンは初めて、少しだけ呼吸を乱す。
「……外交解決を優先します」
ヴァルケンは頷く。
「それでいい」
彼は静かに告げる。
「我々は敵ではない。だが対等でもない」
旗が揺れる。
包囲網はまだ解けない。
だが、戦争も始まっていない。
レオンは会議室を出る。
廊下で壁に手をつく。
色が、戻らない。
「……負荷、上昇」
セレネが隣に立つ。
「あなた、今、帝国を潰せたでしょう」
「はい」
「なぜ止めたのです」
「世界が白くなります」
初めて、はっきりと言った。
セレネは一瞬だけ目を見開く。
「それが副作用ですか」
「恐らく」
窓の外。
王都の市場はまだ騒がしい。
だがその向こうで、世界規模の揺らぎが動き出している。
合理は国境を越える。
だが世界は、それを許さない。
総務は初めて、自分の力の重さを自覚する。
壊せる。
だから壊さない。
だが、いつまで持つのか。
白い世界が、夢の中で広がり始めていた。
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