09話 2人目の魔女
ノワールはギルドで寝泊りすることとなった。ここにいれば常に戦える者がいて守ってくれる。
奏楽は一度元の世界へ戻って自宅のベッドで眠り出直すことにした。
次の日の朝、警察の異世界研究捜査部へ顔を出す奏楽。警部である大島輝幸と警部補の佐々木和則に今の現状について伝えた。異世界の住人の中に魔女に呪われた女性がいること。
エクスマキナの少女を通じて大体の現状は把握していた異世界研究捜査部の二人。
これからどうしたらいいか会議をすることとなった。
椅子に座って向かい合う奏楽と警察官二人。
「では会議を始める」
大島警部が会議の始めを告げると議事録のようなプリントを配るのだった。これからの課題やどうしていくべきかの方針など書かれている。一旦はエクスマキナの少女と奏楽で異世界の住人である呪われた女性ノワール・セブーンを警護しながら、魔女探しを続行することとなる。
そしてあまり重要視されていなかったが、魔王のこともある。魔王は冒険者とモンスターの戦いは魔女を倒さなければ終わらないと言っていたが本当にそうだろうか。何せ相手は魔王なのだ。魔女がいなくなり魔法が使えない呪いが解かれた瞬間に異世界を征服しようと企むのではないだろうか。そうなればやはりモンスターが人を襲うことになるだろう。そして魔王自身が言っていたように統治されていなくとも自らの意思でモンスターは人を襲うものだ。
魔王に関しては魔女に比べて重要とされていなかったが、考えなくてはいけない問題であることは確かだ。
〇
エクスマキナの少女が異世界のモンスターの気配に反応して起動した。
「任務了解。これより異世界へ移動する」
段ボールの中で体育座りしていた状態から一人で立ち上がり右手を外して右脇に抱え右腕を構えると光の輪が発生。この光の輪を通って異世界へといくのだ。
奏楽と少女はこの光の輪の通路を通って異世界へと移動する。
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光の輪から出た場所は相変わらず霧に囲まれた町だった。人は一人も見当たらない。奏楽は首を左右に振り体を伸ばしストレッチをする。
「さあ、じゃあ見てきますか!」
奏楽が「ペガサスの翼!」と詠唱すると背中から白鳥のような真っ白い翼が生える。そのまま空へ飛翔すると町の様子を遠望した。
「どこに何がいるか分からないからな。ん?」
不思議な光景を発見した。パン屋の明かりがついていたのだ。奏楽はパン屋まで飛んでいくとパン屋の中を一見した。
地面に足が着き翼を畳む奏楽。そこにいたのはショートヘアでカチューシャを付けた十代後半くらいの黒い服を着た女性。その女性がピーナッツクリームを挟んだフランスパンをテーブル席で美味しそうに食べているのである。
奏楽は不思議に思いながらパン屋に入り声をかける。
「やあ、君はこんなところでなにやっているの? 霧がこんなに出ているから外は危ないんじゃないかな?」
ショートヘアの女性は首を横に振った。
「この霧は私がいるから出ている霧なの」
「なんだって?」
二人目の似たような体質の女性に出会った。
「私は呪われている。つまり魔女なの。だから霧が出るのよ」
奏楽の眉間に皺が寄る。
「魔女って言ったな?」
「呪われている女の子は大体魔女なんですよ?」
話している間にもエクスマキナの少女が到着する。
「危険分子を発見。これより対処に移る」
奏楽は少女とショートヘアの女性の間に割って入り「ノワール・セブーンと同じだ」と説明する。
「呪われた対象。了解。対処法を変更する。警護対象へ移行する」
〇
奏楽は同じような存在であるノワール・セブーン会わせるためギルドへと向かった。
ショートヘアの女性の名はナナ・アルファス。ナナが言うには呪われている女性は大抵魔女らしい。
ノワールとナナを会わせるとナナはノワールは嘘つきだと言った。魔女に呪われているというのは本当だが、羽虫のモンスターが寄ってくるのは魔女のフェロモンが原因らしいのだ。
ナナの説明にケラケラ笑い出すノワール。
「あらもうバレちゃった? 早い早い」
ナナ・アルファスはノワール・セブーンよりも正直な魔女らしい。
奏楽はノワールに詰め寄る。
「じゃあ、魔女だったんだな?」
ノワールは「あったりい!」と叫んで笑い出す。
「フフフ、フハハハハハハ」
呆れた奏楽は腕を組んで深く息を吐く。
「とんだ演技派だな」
ノワールはその場で手を広げてくるくる回りながら笑い踊る。
「呪いを受ければみんな魔女! 霧が出てモンスターが湧いて出てくる。フェロモンで羽虫が湧いてくる!」
そんなことを言いながらも目からは涙が流れ落ちていた。
〇
魔女は何をもって魔女というのか。魔法を使う女性はただの魔法使いらしく魔女とは少し違うらしい。魔女とは呪いが関係しているのかもしれない。
呪われた魔法使いが魔女。そうなると呪いの発生源はどこなのか。
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こうしている間にもギルドに羽虫のモンスターが集まってきている。様々な冒険者が対応に追われている。奏楽も何もしないわけにはいかない。
ギルドの建物から出るとペガサスの翼を唱え翼を生やし飛翔する。
エクスマキナの少女も背中のホルスターから拳銃を取り出し戦闘に参加する。
兵隊のように数多くの羽虫のモンスターがギルドを囲んでいる。魔女の影響により羽虫のモンスターが集まるためギルドの周りの家々に住む人々はとっくに避難していた。自分のせいで多大な迷惑が掛かる。そんなプレッシャーを感じながらも高笑いするノワール。一見いかれているようにも思えるが、そんなプレッシャーに耐え切れずトイレに行って嘔吐していた。
ノワールは魔女の呪いで精神が壊れているのである。
様々な冒険者、ただ住んでいるだけの人々、ありとあらゆる人々に迷惑をかけている。それだけではなく異世界とは関係ない人々が巻き込まれ遭難したりモンスターに襲われたりするのだ。異世界に無関係な人たちを呼び込んでしまい迷惑がかかる。場合によっては死ぬ。
自分のせいで多大なる迷惑がかかるこの事実がノワール・セブーンの心を追い込み壊していったのだった。
霧も魔女のフェロモンもコントロールできないものらしい。
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戦闘が終わり奏楽は嘔吐し続けるノワールの背中を撫でた。
今の問題は何をすれば正解なのかが分からないことだ。どうすればいいか誰にも分からない。魔王は魔女を倒さねば終わらないという。霧自体が召喚魔術になっているらしく、そのコントロールをすることが難しいのだから殺して終わりにしたらいいと魔王は言いたいのだろう。コントロールができないことで異世界への遭難者が出てしまったりモンスターが召喚されたりする。
だが魔王が言うように倒すわけにはいかない。倒さなければ続くと言っていたが、倒せるわけがない。魔女と言われているがどう考えても呪われた魔法がコントロールできないだけの被害者だ。
霧の町に魔女あり。だがモンスターを倒すこと以外対処のしようがない。
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ノワールに「魔王に呪いをかけたのはあなたなのか?」と聞く。彼女は首を縦に振った。
「そうよ。危ない人だったんだもの」
そして「私も危ない人なんだけどね」と付け加えケラケラ笑う。
魔王は世界を征服しようと目論んでいた。その妨害をノワールも彼女以外の魔女たちも行ってきたのだという。できることがそれくらいしかなかったからだという。
だがその呪いも他の魔女によってかけられたもの。皮肉なものだ。
奏楽は頭を抱える。
「訳わかんなくなってきた」
まとめると魔女は世界征服を企む魔王の邪魔をしていて、魔女たちは己の呪いで霧を発生させモンスターや他の世界の人間を召喚してしまう。さらにその呪いは他の魔女からかけられたものだという。
魔女と言われている彼女たちを救うには呪いを解除しなければならない。
呪いを与える能力そのものが呪いで、しかも分布していくといった厄介さ。
まるでホラー映画のような実態だ。
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深夜に吉塚は病院のベッドから起き上がると、忘れられない夢で出会った女性を想う。
「また逢えたらいいな」
その外見はショートヘアでカチューシャを付けた十代後半くらいの黒い服を着た女性。つまりナナ・アルファスのことだった。




