05話 後編 魔女の声
町に着くまで二人は元の世界について語り合っていた。どんな物が好きでどんな人生だったか。二人とも語るほどのものではないと言いながら生まれた場所や育った場所のことを話している。
吉塚も日本育ちで、人生は似たり寄ったりなところもあった。
この時に奏楽は思うことがある。異世界転移、つまり異世界誘拐で狙われたのはどんな人々なのか。奏楽は元の世界ではウイングライダーとして有名な選手だった。吉塚の方は特にアスリート経験はなく、どちらかというとお客様の方らしく異世界に巻き込まれた経験はなく、元の世界で亡くなったため転生を受けたらしい。
以前異世界遭難で遭難していた赤子がいた。赤子の時点で無差別としか言いようがない。赤子がアスリートなわけがないのだから。
奏楽は謎だった。一体何のために魔女共は異世界へ人を強引に誘拐するのか。考えられることはこれだ。
――モンスターの餌が欲しいから。
元々異世界で生きている者たちはモンスターから逃げなくてはいけないことを知っていてそれが当たり前になっている。逃げる術をも持って生きている。襲う者現れれば逃れようとするのは当たり前のことだ。捕えやすい獲物は逃げなくちゃいけない理由を知らない者。何が何だか分からないまま襲われるのだ。
奏楽も異世界へ初めて遭難した時、そうだった。
〇
オートグリルへ辿りいた二人は濃い霧に包まれた町の中を探索していた。どこかに死神の見た目をしたモンスターがいるはずだ。町の様子を見るとやはりいつも通り誰もいないようだ。
町を歩き誰もいないパン屋の前を通り過ぎた時、吉塚はまた女の声を聞いた。
「やっぱりいいかも」
同時に耳鳴りがし耳を押さえる吉塚。……いったいなんなんだこれは。
幻聴が聞こえる。そんな最中にも奏楽がモンスターを発見した。
「いた。あそこだ」
牛乳屋の前に怪しげな影が浮かんでいる。死神の見た目をしたモンスターだ。金属が擦れ合うような音が響く。
ギイイイイイイイイ。
吉塚は耳鳴りがしながらも集中する。いつも通りのスキルで己の肉体や剣術の向上を行う。
「――今身体の耐久値を上げよ、エクスタフネス! ――今身体のスピードを上げよ、スピードソルジャー! ――今我が剣の威力を上げよ、スラッシュナイフ!」
そんな中やはり女の声が聞こえてくる。
「やっぱりいいわね」
「……うるさい」
奏楽は様子がおかしい吉塚に「大丈夫か?」と声をかける。
「ああすまん。たまに幻聴がするんだ。心配いらない大丈夫だ」
幻聴という言葉に大丈夫じゃないだろうと思う奏楽は、自分が働こうと詠唱を始める。
「ペガサスの翼!」
真っ白な翼が背中から生えると飛翔する。
「吉塚は無理をしないで! なるべく俺がなんとかするから!」
まっすぐに飛び低空飛行する奏楽。
「一撃で決める!」
死に神のような見た目のモンスター目掛けて飛んでいくも、ゆらりと流れる動作で躱される。
「何?! 当たらない!」
さらに死神のモンスターは手に持つ鎌で狙いを定めようとしている。
再び下降し低空飛行でまっすぐに向かっていく奏楽。だがまたもや躱されてしまう。
吉塚は耳を押さえていた手をどけて剣を手に取り「そういう訳にはいかんだろ」と呟く。
「いくぞ!」
剣を構え走り出す吉塚。一撃で仕留めようとは思わず剣で胴を突こうとするもやはり死神のようなモンスターはゆらりと躱してしまい、続けて下から剣を振り上げる動作を取るもこれも躱される。
「――今攻撃の命中率をあげよ、スコープフォーカス!」
続けて命中率アップのスキルを使う吉塚。
そして、
「シャイニングエキストラソード!」
影が分裂し同じ姿の存在が8体にまで増え、ありとあらゆる角度から死神のようなモンスターを囲んだ。
「これで躱せるものなら躱してみろ!」
黒ひげ危機一髪のように死神のようなモンスターを囲み剣を突き、胴を切り、首を突く。三回は躱されても剣の間に挟まれ次の攻撃は躱せない。
剣を思いっきり振り下ろす吉塚。胴の肌が引き裂かれ黒い血がドバドバ出る。
死神のようなモンスターは鎌を落とし、その場に倒れたのであった。
〇
耳鳴りが強くなり耳を押さえる吉塚。
「やっぱりいいわいいわいいわねえ」
吉塚はどこから聞こえてきているか分からず周りを見回す。飛んでいた奏楽は「さすがです」と言いながら降りてくるも、吉塚の様子がやはりおかしかった。
「幻聴がするんだ。どこからか分からないが声がする。女の声がする……」
奏楽は思った。異世界に遭難する際にも聞こえる女の笑い声。それに似ていることが今吉塚にも起こっていた。




