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11話 原始の魔女

 霧が出ている町でエクスマキナの少女が駆け回っている。

腕が左右三本ずつ生えている人型のモンスターは建物に這いつくばりトカゲのようにすばしっこく動き回り少女から逃げている。

 少女は建物の間をステップして壁を蹴り、這って逃げるモンスターを追跡する。

 拳銃を引き抜こうとも狙いが定まらず撃つことができない。

 ノワール・セブーンが魔法陣を展開し召喚魔法で攻撃する。

「ローズウィップ」

 バラのモンスターが召喚され、バラのモンスターがつるで攻撃する。

 人型のモンスターはつるをかわしながら建物の壁を這いまわる。

 ゴーグルを着用し背中から生える真っ白い翼で空を飛んでいた豊餅奏楽(とよもち そら)が急下降し攻撃する。

「翼で打つ!」

 上空を警戒していなかった人型のモンスターは上空からの急な翼での打撃攻撃に為す術なく直撃し地べたを転がっていく。

 奏楽はゴーグルの位置を額にまであげ深く息を吐くのだった。

「任務完了」


      〇


 モンスターを倒しても霧が出たまま。おそらくは魔女の呪いがかかった者がこの町にいるということになる。そうなればその者を救出しなければならない。

 ここから捜索を続けることを少女に伝えた。

「任務了解。保護対象の捜索を続ける」

 どこにいるのか分からない。町の建物一軒一軒入って確認するのも現実的ではない。実際、家の中で隠れてでもいたとしたら探すのは困難となる。

 しかし探していくしかない。

 近くの家に入って捜索しようとした時、一匹のテントウムシがノワールへと飛んできた。彼女は左手を差し出すとテントウムシは左手の中指に停まった。

 ノワールがテントウムシを凝視すると頷いた。

「行きましょう」

 どうやら虫の声が聞こえる彼女は魔女がどこにいるか教えてもらったらしい。


      〇


 部屋の中のクローゼットに隠れて縮こまる髪の短い十代かそこらの少女。

 家の扉が開く音がしビクッと肩を震わせる。足音がどんどん近づいてくる。少女は両手で自分を抱きしめて震える体を落ち着かせようとする。

 クローゼットの外で足音が止まり、女性の優しい声が聞こえてきた。

「怖いでしょう? 分かるわ。私も同じだったから。教会へ行きましょう。きっと治るから」

 それでもクローゼット内で震えうずくまる少女。

 声の主のノワールは優しく声をかけ続ける。

「じゃあ、開けるわよ」

 クローゼットの扉が開かれ手を差し伸べるのだった。

「さあ、もう魔女の役割は終わりの時間よ。行きましょう」

 世界は魔女が救われる時代を迎えた。魔女は教会で救われることが明確化されたのだ。霧が発生する町はその事実により霧の発生を終えることとなる。


      〇


 奏楽は元の世界へ戻ると焼肉屋に入り協力関係となる大島輝幸(おおしま てるゆき)警部と佐々木和則(ささき かずのり)警部補と共に生肉を焼くのだった。

 大島警部は肉を焼きながら微笑んで問うた。

「どうだ? もうすぐどっちの世界も霧の悪影響から解放されて平和になるんじゃないか?」

「さあ、どうなるんだろう」

 奏楽は素直に返答できなかった。

 本当にそうだろうか。もし協会に行くだけで解決するのであればこんな厄介なことにはなってなかったのではないだろうか。

 奏楽は霧の町を作り出している意図をもつ何かの存在が気になっていた。

「まだ人を呪い続ける発端となる魔女が見つかっていない」

 始まりの魔女となる存在が見つからない限り霧の町は発生し続ける。

 佐々木警部補はビールを飲みながら気分よく発言する。

「大丈夫だよ。すぐ見つかる。なんせ魔女は減少し続けているのだから」

 なぜか奏楽も佐々木警部補の言うようにすぐに見つかると思うのだった。


      〇


 冒険者大木吉塚(おおき よしつか)はショートヘアの女性ナナ・アルファスと共にドラゴンの討伐へと向かっていた。ナナは吉塚を気に入っているようで腕に絡まるように抱き付き歩いている。ナナも魔女の呪いから解放された一人だった。今では魔女ではなく役職が魔法使いとなる一人の女性だ。

 吉塚は気に入られたナナという女性が夢に出てきた女性と同じ見た目をしており運命の出会いと疑わなかった。

 上空では二体のドラゴンが争い合っていた。炎を吐き爪で相手の鱗を剥ぎ、攻撃し合っている。

そんな様子を望遠鏡で眺める吉塚。

「さて、いったいどっちを狩ることになるのかね俺は」

 そんな独り言を吐いているとナナに鎧を叩かれ「どうしたんだ?」と問う。

「あそこ」

 指をさす先にいたのは血だらけになったドラゴン。傷だらけの様子で地を這って歩いていた。どうやら領土争いで負けたドラゴンだ。

「あれは手をかけるまでもない。弱り切っている。それよりも……」

 望遠鏡を再び構える。

「二体同時に狩るか」

 だが突然前触れもなく急に背筋が凍り、背後に視線を向け剣を抜いた。

 背後にいたのは黒いローブに身を包んだ老婆であった。か細い指をナナへ向けている。

「解放されたんだね。諦めない導く者が現れたということ。あなたたちにとっては喜べること」

 吉塚は「誰だ貴様!」と声を上げる。

「魔女はこの世から消えないんだよ」

冒険者たる吉塚は魔女から守るべくナナの盾になるように立った。

「貴様が魔女なら話を聞くんだ。このまま教会へ共に行こう。そうすれば呪いは解かれる」


      〇


 教会が炎に包まれモンスターが集まり協会に集った人々は襲われてしまった。ナナは怯えて吉塚の手を握る。

 目を見開いてこの世の現象とは思えない光景に息を飲む吉塚。

「馬鹿な。魔女は教会の浄化で祝福され呪いが解けるはずじゃ」

 僧侶は老婆に足踏みされ倒れている。

「言ったさね。魔女はこの世から消えない。私は消えない。消えないならば魔女は増えるだけ」

 老婆は詠唱し召喚魔法を唱える。

「いでよ古の悪魔。アスモデウス!」

 教会を信じる者たちの悲鳴がこだます。

 黒い翼を生やしたボロボロな絹に身を包んだ悪魔が召喚される。

 吉塚はナナの手を振りほどき剣を抜いて悪魔に向かって走り出した。

「みんな逃げろ! ここは俺がなんとかする!」

 ナナが吉塚の名を呼び泣き叫ぶ。

「行かないで吉塚!!」

「ナナもここから離れるんだ!」

 老婆は倒れる僧侶の上に座り込む。

「救われる場所なら、どんな者でも救われるようにしないとね、じゃないと……」

 吉塚と悪魔アスモデウスがぶつかり合う。剣を振りかざす吉塚と剣を握るアスモデウス。

「悪魔が栄える理由になってしまうよ?」

 ローブが脱げ老婆の姿が露わになる。ボロボロな絹で覆われた体は栄養を取っていないようでか細く骨が浮き出ている。

「すべてが救われるようにしないとね」

 剣に力を入れ吉塚は詠唱をし自身を強化する。

「――今身体の耐久値を上げよ、エクスタフネス! ――今身体のスピードを上げよ、スピードソルジャー! ――今我が剣の威力を上げよ、スラッシュナイフ!」

 悪魔アスモデウスは刀身を握ったまま吉塚を睨みつける。

「人々を守ることが使命! そのために俺はこの世界に転生したのだ! そのために呼ばれたのだ!」


      〇


 協会が焼かれたという風の噂で駆けつけた奏楽はまさかの事態に驚愕したのだった。

 吉塚が担架で運ばれ煙を出しながら全焼する協会。教会の上には悪魔が座りこんで人々を見下している。

 ナナが奏楽の元まで駆け寄り手を握った。

「原始の魔女が現れたの」

 原子の魔女。呪いの類での感染ではなく自然発生した魔女。存在そのものが呪われているといっても過言ではない存在。

「馬鹿な。魔女は協会で救われるはず。なのになんで」

 なんで悪魔が全焼している協会の真上に座っているのか。

 白い翼を展開し奏楽は空を飛んで悪魔と対峙する。

「何をしているんだお前」

 悪魔アスモデウスは首を鳴らし、指でこいこいと挑発する。

 挑発にはのらず上から辺りを見回した。どこかに悪魔を召喚した魔女がいるはずだと考えたのだが、どこにも姿が見当たらない。

 奏楽は唾を飲みこみ再び人間を否定する悪魔という存在と対峙した。


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