04話 後編 いまだ知らぬ魔女
なぜ魔王の城に来てしまったのか。異世界遭難から魔王の城へ出るなど前代未聞だ。
「あなたは魔王というが、魔王とは何をしているのだ?」
老人は「簡単に言うと」と言い続ける。
「魔王は魔族の統領である」
「じゃあお願いがあるんだが」
ここで魔王に会えたのは願ったり叶ったりかもしれない。ここでモンスターが人を襲うのを止めてもらうのだ。
「モンスターが人を襲うのをやめさせてほしいんだ」
魔王は深くため息をついた。
「それはできない」
「なぜ? 魔族の統領でしょ?」
できない理由として魔族の統領であろうと魔族を操っているのは魔王ではないからだ。
「魔族、君体が言うモンスターは皆自分の意思で動いている。命令して襲ってくるものではない。いるとしたらそれは魔女だな。魔女は操るのが得意だ。君をここに連れてきたのも間違いなく魔女の仕業になる。霧が出ていただろ? あれは召喚魔術みたいなものなのさ。悪戯さね」
魔女はいつでもどこからでも見ていて、異世界へ遭難する者の発生も遭難した先にモンスターが待ち受けているのも魔女の仕業らしいのだ。
つまりは魔女を倒さない限りこの負の連鎖は続く。
〇
魔王の城から出る際、奇妙な女の声がどこからか聞こえてきた。
「まだですよ。まだまだ」
そして嘲るように笑うのだった。
――フフフ、フフフフフ。
「なんだ? この声、まるで異世界に遭難する時に聞こえる笑い声のような」
どこから来ているのか分からない正体不明の女の声。
奏楽は不気味さを覚えながらも考え込む。いったい「まだ」とはどういう意味なのだろうか。そしてこの声の正体はなんなのだろう。
魔王城から出てきた奏楽は不気味なモンスターの群れと鉢合ってしまう。だが攻撃する様子もなくただじっとしている。仮面をかぶった裸の大男やら肩に針を無数に刺している女やら魔族と思われるメンツが揃っている。
魔王の城なのだからそんな者たちが城の周辺にいてもおかしくはないだろう。
「それにしてもだ……」
魔王の「魔女共」という言葉からすると魔女は一人じゃないのだろう。
一体魔女はどこにいて元の世界と異世界を繋ぐ悪戯をしているのだろうか。なぜ人を誘拐するような真似をするのか。
「ペガサスの翼!」
白き翼を生やし飛翔する奏楽。空高くから見る景色には魔王城がそびえ立っているのが確認できる。その周りには数あまたのモンスターの群れ。
ここはどうやら人気のない場所のようで人が住む町がある様子はない。
「魔王の城の近くに町があるわけがないか」
そのまま適当な進路を決め羽ばたいていく。どこに向かっているかも自分にも分からない。どうすれば魔女という者に出会えるか分からないが、今はどこかへ行くしかなかった。
〇
冒険者大木吉塚はクエストを受け、飛竜を狩る依頼のため山道を歩いていた。相変わらず一人で行動しているようだ。
突如上空で飛竜が飛びその様子を地上から眺めるもなにやら少々不満そうだ。
「……降りてこないと狩れないんだよこっちは」
どうやら飛竜が飛んでいることで狩ることができずイライラしているようだ。
いっそ狙われてみるのもよいかもしれないとドラゴンを呼ぶ笛を取り出す。
吹込口から思いっきり空気を送り込み音を鳴らす。
――ブオオオオオオオオオオオオ。
飛竜が吉塚に気付き上空から一気に急接近してくる。
「よし、やってやろうじゃないの」
剣を構え、接近に備える吉塚。こんな緊急時にふと背後が気になる。
……なんなんだこんな時に。
何かが後ろにいる。そして女の声が聞こえてくる。
「この人、いいかも」
「なんだ誰だ? こっちはドラゴンを呼ぶ笛を使っている! 危険だぞ! 離れろ!」
吉塚は後ろを振り向くとそこには誰もいない。まさか幻聴かと思い込んでしまう。
飛竜が接近してきている。そんな危険な状況で幻聴のことなどを考えている場合ではない。
「――今身体の耐久値を上げよ、エクスタフネス! ――今身体のスピードを上げよ、スピードソルジャー! ――今我が剣の威力を上げよ、スラッシュナイフ!」
詠唱を終えできる限りの肉体剣術強化を行った。そして真正面まで降りてきた飛竜目掛けて剣を一振り。
「切るっ!」
飛竜は頭から腹までまっすぐに裂かれそのまま倒れこんで転がっていく。
「いっちょあがり!」
吉塚はプロの冒険者として無事依頼を達成したのであった。




