37話 後編 でかい犬
森が深くなっていくと、巨大なトカゲが姿を現すようになってくる。トカゲだけではなく、深い森では様々な生き物たちが巨大化していく。
足音がのっそのっそと森に響く。
吉塚は「来たか?」と言って手を剣に当てる。
大きな姿だが、飛竜ではない。でかい柴犬だ。のっそのっそ足音を立てながらやってきては吉塚の顔面に黒い鼻を近づけてにおいを嗅ぐ。
でかい柴犬は「わん」と低い声で鳴き、尻尾をぶんぶん振るう。
吉塚はナナを見て「一体どうすればよいというんだ」と問うも彼女も何も答えることができなかった。
飼い主がいたのか人間に懐くようだった。もしかしたら森に捨てられたのかもしれない。
〇
でかい柴犬を連れながら深い森を進んでいく三人。森を歩くなりでかい柴犬がついてきてしまうのだった。
何かの気配を感じそっと上を見る吉塚。だが、深い森では木漏れ日ばかりで空の様子を見ることが難しい。
吉塚は木を登って空の様子を眺めた。すると……。
「いた」
真上を赤い竜が飛んでいた。
吉塚は木から降りてアイテムを取り出し手にする。
ナナが「それは?」と聞くと吉塚はにやっと笑って答える。
「ドラゴンを呼ぶ笛」
吹込口から思いっきり空気を送り込み音を鳴らす。
――ブオオオオオオオオオオオオ。
飛んでいた赤い竜が真っ先に吉塚へ向かって飛んでくる。
「みんな俺から離れろ!」
森の木がざわざわ揺ればきばきと木の枝が折れる音がすると、上から赤い竜が舞い降りてくる。吉塚は急いで詠唱する。
「くっ、皆下がれ下がれ下がれ! ――今身体の耐久値を上げよ、エクスタフネス! ――今身体のスピードを上げよ、スピードソルジャー! ――今我が剣の威力を上げよ、スラッシュナイフ!」
上から赤い竜が足の爪を伸ばし吉塚が剣で受け止める。
ベッシはこの巨大な竜の一撃を受け止める光景を目にしてやる気がみなぎった。
「やったるやったるやってやるう!」
走り出すベッシ。そして急いで吉塚とベッシに急いで補助魔法をかけるナナ。
ナナが両手を吉塚とベッシへと向ける。
「――彼らを守って、リフレクトバリア!」
ベッシの飛び蹴りが赤い竜へと命中し、赤い竜はごろごろと地上を転がっていく。
吉塚は「何をしている?!」と突っ込む。
「危ないから下がれって言ったろ! ……三回も!」
ベッシはその場で軽くジャンプしながらきぐるみの両ヒレでシャドーボクシングをする。
「危ないのは当たり前じゃない?」
「なんだと?」
起き上がる赤い竜目掛けて突進していくベッシ。
赤い竜が立ち上がって再び飛ぼうとするところで頭突きをくらわすベッシ。再び赤い竜は地上を転がっていく。
「めちゃくちゃだあの人」
佇む吉塚にナナは「あなたも頑張って」と声をかける。
「俺もめちゃくちゃ頑張るか! いくぜ!」
吉塚は剣を握り走り出す。ベッシは彼の横を走って余裕ぶりを露わにする。
「どっちが最初に倒せるか勝負ですね!」
「負けねえぞ!」
立ち上がる赤い竜は向かってくる二人に炎を吐く。二人は躱して左右から接近していく。
吉塚の剣が赤い竜の翼を切り裂き、胴にきぐるみのひれのパンチを浴びせる。
赤い竜は苦しみの雄たけびを上げる。
――ギャアアアアアアア。
〇
赤い竜を狩り終えた後、二人は拳を拳でぶつけ合い思いを伝えあった。
「やるなサメガール」
「そっちもなかなかの剣じゃないか」
ナナは「今日も飲み会の予感」と呟き、二人はそれを聞いて笑い合うのであった。
サメガールことベッシはそれもいいと言わんばかりに笑いまくる。
そしてその夜、奏楽が飲み屋に呼ばれたかと思うと酒を飲みまくる吉塚とベッシを目にするのであった。酒を飲まないがノワールも呼ばれており、じっくりと柑橘系のジュースを飲んでいた。
奏楽は苦笑いしながら席へ着いた。
「一旦お酒はいいじゃん、もう」
奏楽は今日の赤い竜討伐の話をたんまりと聞かされるのであった。
さらにお店の外には、でかい柴犬が何者かを待つ姿があった。




