34話 前編 コンピューターじゃない
赤いコートを着た小柄な男が振るう大鎌と鎧を着た冒険者の吉塚の剣が町中でぶつかり合う。
「だから何度言えば分かるんだ? 俺たちはNPCを殺しているだけだっつうの」
「お前こそ何度聞けば気が済む? 俺は助けを求める人がいたから参上したまでだ」
大鎌が振るわれそれを剣で流し躱す。そんなぶつかり合いが続いた。
「助けに来たって、NPCを助けに来たのか? 大そうお暇なんですね?」
吉塚は剣を振るって大鎌を弾き赤いコートの小柄な男の胸倉を掴む。
「誰かが助けを求めていれば誰だって助けに入るさ」
胸倉を掴まれている小柄な男は振り払って吉塚の手から逃れると大鎌を構える。
「お前みたいな酔狂な男は見ていて気分が悪くなるんだよ。正義の味方ごっこは楽しいですか?」
「人を助けるのは正義の味方だからじゃない。人として普通のことだ」
赤いコートの小柄な男は「それが人に見えますかそうですか」と言いながら、大鎌を振って吉塚の首を狙う。吉塚はしゃがんで躱し大鎌の長い柄を掴み動きを封じた。
「くっ、貴様!」
「話し合いはできないのか? なぜ殺そうとしたのか教えてくれないか? 何か理由があるのか? あるんだったら教えてくれ」
吉塚は長い柄を離さない。攻撃を止めるのは話し合いをするためだ。
「だから何度も言っているだろ。NPCを殺すのに理由なんてない。俺たちがゲームプレイヤーだからだ。強いて言えば、この世界をゲームプレイヤーだけにする」
「ゲームプレイヤー? なんだそれは」
吉塚には理解できなかった。この世界をゲームプレイヤーだけにするとはいったいどういう意味なのか。
「お前もゲームプレイヤーだろうが! ごまかすんじゃねえ!」
〇
己をゲームプレイヤーとして訴える赤いコートの小柄な男。そしてその意味が分からない吉塚。
二人は話を続けたがどうしてもお互いを理解するのは難しかった。
「じゃあなにか? お前はゲームプレイヤーでもないのに鎧に身を包んで剣を握るのか?」
「それはゲームプレイヤーだからじゃない。俺がそうしたいからそうしている」
赤いコートの小柄な男は舌打ちをする。
「だから! そうしたいからそうできるのはお前がゲームプレイヤーだからじゃないか! 本気で分からないのか?」
「いや、俺はゲームプレイヤーじゃない。冒険者だ。言う人によっては……」
赤いコートの小柄な男は「勇者」と言いたいことを先に言う。
「どれもゲームの世界の事情じゃねえか」
吉塚は首を横に振るう。
「違う。ゲームだったらこの異世界の人々の営みは一体何だっていうんだ!」
「だからNPCなんだよ。コンピューターなんだって」
今まで会ってきた人たちが頭に浮かぶ。ナナ・アルファスの笑顔が目に浮かぶ。ノワール・セブーンの悪戯な微笑が目に浮かぶ。そして原始の魔女がどれだけ苦しんできたかも知っている。魔女たちがどれだけ苦労してきたかを知っている。
そんな人たちが、
「コンピューターで動いているはずがないだろ! ふざけるな!」
大鎌を手から放し大鎌の長い柄を剣で真っ二つに切り裂いた。
〇
王都の拘置所にて赤いコートの小柄な男は勾留させられた。捕まえたのは吉塚だった。吉塚は彼が人に危害を加えることに何の疑問も持たないため強引に無理矢理連れてきたのであった。王都が赤いコートの組織レッドコートを討伐する指示を出していたのを彼は知らないでのことであった。
王都の拘留所で出会った奏楽が吉塚に「あと六人いる」と伝えるとげんなりした表情を見せる。
「こんなのがあと六人もいるのか。疲れる話だな」
〇
レッドコートの組織の内一人が捕まったことで、六人は話し合いをしていた。オールバックの男が「なんでだ!」と声を上げる。
「なんでゲームプレイヤーのあいつが捕まるんだよ! おかしいだろ! これもイベントか!?」
ピアスを耳に着けた赤いコートの男が答える。
「そうかもしれない。ゲームでも捕まって勾留させられることはよくある話だ。あいつの脱走イベントがきっと発生することだろう」
オールバックの男が坊主頭の男に問うた。
「脱走イベントねえ。お前もそう思うか?」
「そうに決まっている。私たちはゲームプレイヤーなのだから」




