29話 前編 最強の三頭の飛竜
王林は魔王としての立場から降りたくないらしい。それならばと吉塚は剣を手にし前に出る。
「やんちゃしたいお年頃ってか!」
剣の相手は雷獣ライオウ。剣を振るうと防御するように刃を噛んで受け止める。
王林は玉座に座り直し戦いを見物している。
「僕だって、魔王になりたくてなっているんじゃない。魔王と言う立場でしか僕らのような獣人に人権なんてないのさ」
奏楽は「どうして魔王という立場に拘るんだい?」と問う。
「僕は転生者なのさ。獣人としての命で新しい人生を歩むこととなった。だがこの世界で見た景色はあまりにも惨たらしいものだった」
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王林が転生してからのこと。自らもきっとこれから勇者としての役割を全うしていくのだろうなと思っていた。
獣人が人間によって奴隷にさせられているのが現実。獣人を奴隷にするために捕獲する人間たち。王林は人間たちから守ろうとして捕まったことがあり、そこで救ってくれたのが魔王軍であった。
救ってくれたといっても魔王軍が襲ったのがたまたま奴隷狩りの人間たちであり、そのおかげで解放されたのだった。
王林は思った。この世は力によって支配されている。そして力とは権力よりも強い何かであると。王林から見たらそれは立場であった。魔王は権力を恐れない。人間文化の当たり前の犠牲など関係なく思ったように力を振るう。全も悪も関係なく。まるで自然災害のように。そしてそれで助かる命もある。
つまり自分が助けたいと思うのも、襲おうとするのも、魔王自身の意思によって決まる。助けたい者がいたり不幸になってほしくない者を救うのも自分次第。悪魔王という立場を捨てるわけにはいかないのだ。
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吉塚はライオウと戦いながら、奏楽もノワールもナナも戦闘の邪魔にならないように後ろに下がりながら話を聞いていた。
戦う気がない奏楽は問う。
「つまり君は、奴隷たちを救うために魔王になったというのか?」
王林は首を横に振るう。
「それをするのも僕次第ということだ」
吉塚はライオウと距離をとると語り出す。
「奴隷を救うも自分次第。誰を敵にするかも自分次第。だから魔王という立場が大事だってことだろ? お前は自由であるための手段としているんだな」
王林は首を縦に振るう。
「一番近い解釈かな。転生したって最強ではない。立場で負ける。勇者だって王の命令やギルドの依頼でしか動けない。もっと自由に、もっと幅広く動けるようになるにはこんな立場しかないんだ。全部が自分次第の立場なら、もっと助けられるはずなんだ」
ノワールが口を挟んだ。
「でも、そんなあなたが危険だからギルドに依頼が届いている」
「どこの王様の依頼かは分からないけど、誰かの迷惑になるようなことはしない」
「でもあなたはモンスターを仲間にする以外に奴隷狩りを襲うこともあったんじゃなくて?」
「……だったらどうした? 僕は間違ったことをしていない。モンスターも獣人も心があって自由に生きる権利はあるはずだ」
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吉塚は剣を構えながら後ろに下がっている皆に声をかける。
「どうする? まだ戦闘を続けるか?」
王林は魔王から降りることはしない。話していると分かる。彼は魔王という立場を信じている。悪行も善行も魔王という立場じゃないと許されないと思っているのだ。
奏楽はそれでも「下がらない」と言った。
「俺たちが帰ったところで、また誰かが魔王狩りにやってくる。次に来た人が話ができる人とも限らない。だから今、俺たちがあの魔王を玉座から降ろさないといけない」
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王林は召喚板にカードを一枚配置する。
「こい! 僕のフェイバリット! 三頭の飛竜!」
翼を生やした頭が三つあるドラゴンが召喚される。
「このドラゴンを倒せれば、僕はこの玉座から降りるしかない」
吉塚が「来るぞ」と声を上げる。
奏楽はペガサスの翼を広げて宙を飛びライフルを取り出す。だが三頭の飛竜が奏楽に目掛けて飛んできた。
「ん?!」
速いスピードで三頭の飛竜の手で弾かれ墜落していく奏楽。そして次にはノワールとナナに向かって飛んでくる。
吉塚は二人の盾になるように立ち剣で三頭の飛竜のはたく手を受け止めた。
王林は笑いながら三頭の飛竜を引かせた。
彼の近くへと舞い戻る三頭の飛竜。
「君たちには勝てないんじゃないかな。いや、君たちじゃなくても勝てない。だから心配しなくてもいいよ。安心して大人しく帰ってほしい」
倒れている奏楽の肩を担ぐノワールとナナ。このまま四人は撤退することにしたのであった。




