28話 前編 忘れられない痛み
朝になり教会の宿から出てきた奏楽はまだ薄く霧が発生している広場で背伸びをした。
これからどうすればいいのか。ノワールにもこれからどうするか聞いてみたいところではある。
近くの飲食店で朝食を摂ることにした奏楽とノワールは、そこで今後の相談もしたのであった。
「俺が思うにあの人は努力家なんだと思う。それ故に結果を求めてしまっているのかなと」
ノワールからは意外な言葉が返ってきた。
「めんどくさい」
「は?」
「だってそうでしょ? 苦労しているのは自分だけじゃない。それをご褒美を求めるように生きて。おこちゃまよ。おこちゃま」
確かに一理あるとは思った。だがだとしても彼女が魔女じゃなくなる方法を考えなくてはならない。
「だとして、ノワールはどうすればいいと思う?」
「面倒くさいけど、ご褒美を与えるとか。それよりもあの集会に集まっていた他の魔女さんたちに声をかけて教会へ連行していった方がいいかもね。早い方から終わらせていった方がいいかも。彼女……誰だっけ? あっハンナだハンナ。彼女も魔女一人になったら気が変わるかもしれないし」
とりあえず集会に集まっていた魔女の浄化から始まるのであった。
〇
今日の集会で集まっていた女の人たちに声をかける。教会に行けば苦しみが無くなりますよと声をかけるのだった。なんだか宗教の布教活動みたいだが、教会の僧侶の力で呪いが解けるのだから仕方がない。
一人、また一人と教会へ行く人たちが増えていく。この町の教会の僧侶はハンナ・スチュワートのため、他の町の教会へ行くこととなった。この町の教会の僧侶が彼女一人ではないにしても邪魔される可能性もある。他の町へ行くのが正解だろう。
〇
教会へたくさんの魔女を連れてくることに成功した。本当の気持ちに嘘はつけない。嫌なことが起こらないに越したことはないのだから。
後の仕事は僧侶に任せ、東の町ヘイルウへと戻った。
ハンナは魔女の集会を開こうとしていたが誰も来ないことに変に思っていた。
奏楽とノワールが来ると誰の仕業か分かったらしい。
ハンナは腕を組んで「あなたたちね」と言ってげんなりしていた。
「だって、皆魔女をやめたいんだ。苦しいのは早く終わらせたい。だろ?」
「だからその苦しみが終わったらどうなるの? 終わりよ。何もない。苦しかったことはなかったことになる。そうじゃない人たちの中で苦しみながら生きていくしかない。誰も同情なんかしない」
ノワールは「だからなんだってのよ」と突っ込む。
「私も元魔女で、それはそれは苦しんできた。一人ぼっちで、なるべく人に迷惑をかけないようにいろんな町を歩き回っていた。この苦しみが終わるならって、いつも思ってた。あなたの気持ちも分からないでもない。でもこの苦しみを免罪符にして、訴えるのは間違っている」
ハンナは声を上げて訴える。
「免罪符じゃないわ! なんでそんな風に受け取るの? いい? 私はただこの苦しみがあった人となかった人が同じ歩幅で歩いて行けるとは思えないのよ。これはどうすればいいの?」
落ち着いた様子でノワールは答えた。
「私のように魔女を救えばいい。一時的かもしれないけど、どうすればいいか分かっているんだから、それを共有するのよ。つらいなら無理しなくていい。辛い思いをしていない人と一緒にいることが怖いなら、別に一緒にいなくてもいい。それでも今よりよくなるはずだから、私は魔女をやめることをすすめる」
〇
ハンナも教会へ行き他の僧侶からの祝福を受けた。つまり魔女をやめたのだ。あっけなかったが、元魔女ノワールの意見もあってすんなりと進んだ。
しかしながらなんだか何か思うところがあるノワールだった。
ノワールは奏楽に言った。
「私、本当は怖い。自分より幸せな人を見るのが怖くてしょうがないの。私だけが取り残された気がして不幸の連鎖があったことが忘れられない時がある。ごまかしようがない。だから本当はあのハンナって女の言っていること分かるのよ」
奏楽は何も言い返すことができず「そっか」とだけ答えたのだった。




