05話 魔女の声
魔女はどこにいるのか。異世界のとある町のカフェにて休憩していた奏楽は謎な魔女のことを考えていた。元の世界の者たちを異世界へ誘い遭難させる魔女。モンスターに襲わせる理由。全てが謎である。
注文した珈琲を飲みながら考えに耽る奏楽。だが考えてもキリがない。
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クエストの依頼が終了しギルドの窓口で依頼金を受け取る大木吉塚。吉塚も吉塚で考え事に耽っていた。飛竜の討伐中に確かに聞こえたのだ。女の声が。
――この人、いいかも。その声を聞き、後ろを向いても誰もいなかった。
「疲れすぎかねえ。少し休むか」
幻聴を覚える自分を労りカフェに入ると、そこにいたのはいつかのモンスター討伐の際に転生した豊餅奏楽がいた。
「よう、元気か?」
久々の仲間の顔を見て嬉しくなる吉塚。奏楽の方もまた出会えるとは思っていなかったようで笑みを浮かべる。
「そっちこそ。いやーまた出会えるとは思わなかった」
「こちらこそだぞそれは」
せっかくなので奏楽のいたテーブルに同席することにした。
〇
奏楽は情報収集するために吉塚に質問する。
「魔女って知っている?」
「なんだ? 役職が魔法使いの女を探しているのか?」
「違くて、いや、違くないのか? 違うのか?」
自分でもわけが分からなくなる奏楽。魔女を探すとは役職が魔法使いの女を探すということなのか? 魔女ってなんだ?
改めて魔女とは何なのかを考えてしまう状況となった。
「どうしたんだよ? 魔法使い探しているならギルドで探してもらえばいいんじゃないか?」
「確かに魔法使いが役職の女の人を探すのであればそういう手もあると思う。……それでいいのかなあ」
異世界へ誘拐しモンスターに襲わせる者を探しているのだ。
そんなことを考えている間にも吉塚は飲み物を注文している。カフェラテを注文した。
「まあ、いろいろ悩んでいるようだがな。ゆっくり考えればいいさ」
吉塚に元の世界の者を異世界へと遭難させているのが魔女たちだと伝えると、難しい顔つきで「そうなのか」と呟く。
カフェラテが届くと吉塚はごくごくと喉を鳴らしながら体の中へと流し込んでいく。
「あーっうまい」
〇
少し話の内容をまとめたくなった奏楽はペンと紙を取り出す。異世界転生は女神によって叶えられ、遭難つまり言い方を変えれば乱暴な異世界転移が魔女たちの仕業となる。つまり悪癖のある女神の仕事の真似事をしているのが魔女ということになる。
紙に書いてまとめているところ吉塚が口をはさむ。
「ちなみに俺は女神の異世界転生を受けたんだぞ? 現実で交通事故に合い死んだからな」
「こっちは最初から魔女に狙われて強制的に異世界転移させられた」
異世界へ誘われる狙われやすい者の特徴も何かあれば探った方がよいかもしれない。
〇
久しぶりに一緒に仕事をしようとなった。吉塚はすでに幻聴のことなど忘れていた。
ギルドへ行き掲示板を覗く二人。そこにはモンスター討伐のクエストがあった。死神のような見た目で人の首を狩るモンスターらしい。
「これに決めた」
吉塚は「いいよな?」と奏楽に確認して許可をもらうとすぐさまギルドの窓口へ持っていき手続きを行った。
場所は近くの町らしくそこまで距離はない。半日もかからない距離だ。町の名はオートグリル。元々は鶏肉の料理で有名な地域らしい。
〇
町に着くまで二人は元の世界について語り合っていた。どんな物が好きでどんな人生だったか。二人とも語るほどのものではないと言いながら生まれた場所や育った場所のことを話している。
吉塚も日本育ちで、人生は似たり寄ったりなところもあった。
この時に奏楽は思うことがある。異世界転移、つまり異世界誘拐で狙われたのはどんな人々なのか。奏楽は元の世界ではウイングライダーとして有名な選手だった。吉塚の方は特にアスリート経験はなく、どちらかというとお客様の方らしく異世界に巻き込まれた経験はなく、元の世界で亡くなったため転生を受けたらしい。
以前異世界遭難で遭難していた赤子がいた。赤子の時点で無差別としか言いようがない。赤子がアスリートなわけがないのだから。
奏楽は謎だった。一体何のために魔女共は異世界へ人を強引に誘拐するのか。考えられることはこれだ。
――モンスターの餌が欲しいから。
元々異世界で生きている者たちはモンスターから逃げなくてはいけないことを知っていてそれが当たり前になっている。逃げる術をも持って生きている。襲う者現れれば逃れようとするのは当たり前のことだ。捕えやすい獲物は逃げなくちゃいけない理由を知らない者。何が何だか分からないまま襲われるのだ。
奏楽も異世界へ初めて遭難した時、そうだった。
〇
オートグリルへ辿りいた二人は濃い霧に包まれた町の中を探索していた。どこかに死神の見た目をしたモンスターがいるはずだ。町の様子を見るとやはりいつも通り誰もいないようだ。
町を歩き誰もいないパン屋の前を通り過ぎた時、吉塚はまた女の声を聞いた。
「やっぱりいいかも」
同時に耳鳴りがし耳を押さえる吉塚。……いったいなんなんだこれは。
幻聴が聞こえる。そんな最中にも奏楽がモンスターを発見した。
「いた。あそこだ」
牛乳屋の前に怪しげな影が浮かんでいる。死神の見た目をしたモンスターだ。金属が擦れ合うような音が響く。
ギイイイイイイイイ。
吉塚は耳鳴りがしながらも集中する。いつも通りのスキルで己の肉体や剣術の向上を行う。
「――今身体の耐久値を上げよ、エクスタフネス! ――今身体のスピードを上げよ、スピードソルジャー! ――今我が剣の威力を上げよ、スラッシュナイフ!」
そんな中やはり女の声が聞こえてくる。
「やっぱりいいわね」
「……うるさい」
奏楽は様子がおかしい吉塚に「大丈夫か?」と声をかける。
「ああすまん。たまに幻聴がするんだ。心配いらない大丈夫だ」
幻聴という言葉に大丈夫じゃないだろうと思う奏楽は、自分が働こうと詠唱を始める。
「ペガサスの翼!」
真っ白な翼が背中から生えると飛翔する。
「吉塚は無理をしないで! なるべく俺がなんとかするから!」
まっすぐに飛び低空飛行する奏楽。
「一撃で決める!」
死に神のような見た目のモンスター目掛けて飛んでいくも、ゆらりと流れる動作で躱される。
「何?! 当たらない!」
さらに死神のモンスターは手に持つ鎌で狙いを定めようとしている。
再び下降し低空飛行でまっすぐに向かっていく奏楽。だがまたもや躱されてしまう。
吉塚は耳を押さえていた手をどけて剣を手に取り「そういう訳にはいかんだろ」と呟く。
「いくぞ!」
剣を構え走り出す吉塚。一撃で仕留めようとは思わず剣で胴を突こうとするもやはり死神のようなモンスターはゆらりと躱してしまい、続けて下から剣を振り上げる動作を取るもこれも躱される。
「――今攻撃の命中率をあげよ、スコープフォーカス!」
続けて命中率アップのスキルを使う吉塚。
そして、
「シャイニングエキストラソード!」
影が分裂し同じ姿の存在が8体にまで増え、ありとあらゆる角度から死神のようなモンスターを囲んだ。
「これで躱せるものなら躱してみろ!」
黒ひげ危機一髪のように死神のようなモンスターを囲み剣を突き、胴を切り、首を突く。三回は躱されても剣の間に挟まれ次の攻撃は躱せない。
剣を思いっきり振り下ろす吉塚。胴の肌が引き裂かれ黒い血がドバドバ出る。
死神のようなモンスターは鎌を落とし、その場に倒れたのであった。
〇
耳鳴りが強くなり耳を押さえる吉塚。
「やっぱりいいわいいわいいわねえ」
吉塚はどこから聞こえてきているか分からず周りを見回す。飛んでいた奏楽は「さすがです」と言いながら降りてくるも、吉塚の様子がやはりおかしかった。
「幻聴がするんだ。どこからか分からないが声がする。女の声がする……」
奏楽は思った。異世界に遭難する際にも聞こえる女の笑い声。それに似ていることが今吉塚にも起こっていた。




