20話 前編 石化の呪い
奏楽は罪悪感に苛まれていた。犠牲者である妖怪をライフルで撃ってしまった。一体目は知らず、二体目は沙織に教わりながらも襲われている者を助けるために撃ってしまった。
妖怪の正体は町に捨てられた者が女神によって変異させられた姿。復讐心で人を襲うことがある。その背景には、それは救いを求めながらもその救いがないがため。心が壊れてしまったからなのだ。
奏楽は後悔していた。何のための力か。ペガサスの翼などと聖なる名前がついた翼を女神から頂戴し、誰も傷つけないと誓いながらライフルを手にした。だが、実際はうまくいかなかった。襲っていた妖怪も、忍たちに襲われていた妖怪も本当は助けを求めている。
今宵も夜はやってくる。忍たちと妖怪たちの戦いの時間がやってくる。
奏楽はどちらも守らなくてはならない。助けなければ、何のために異世界へきて転生したのか分からない。
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夜になり、草原の草が夜風によってざわざわと揺れる。満月が輝き蝙蝠の恰好をした忍たちが空を飛び、草原を駆け、森の中へと入っていく。
森の中に妖怪はいる。牛の頭をした蜘蛛の身体をした化け物。
きっと人に見捨てられ生きているだけでも辛いだろう。なのにも関わらず妖怪にまで堕とされたその身体。誰かが救わないとならない。
〇
忍が駆け回り、牛鬼が辺りを警戒している。紛れもなくこれは忍の妖怪狩りだ。
忍によって手裏剣が投げられ奏楽は牛鬼の盾になるように立ち詠唱し防御の体勢をとる。
「ペガサスの翼!」
大きな白い翼で手裏剣を弾く。
「みんな何をやっているんだ! 君たちのやっていることは自らの恐れによる逃避だ! やっていることがあまりにも酷すぎる!」
忍の一人が叫ぶ。
「君こそ何をしている相手は妖魔だぞ! 正気か君は!」
「正気だからこそだ!」
正気だからこそ救いのない者の盾になっている。それが奏楽の言い分だった。
忍の中の声に義経の声が混じっている。彼も奏楽の行いには反対らしい。
「おかしいんだよ! これは生きるための戦い。妖魔になる時点で今を生きる人間の敵ということなんだよ! 分かれ!」
「分からない! 救わなきゃいけない人たちだ!」
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結局、忍たちと戦う羽目になってしまった。戦うと言っても忍が牛鬼を狙いそれを防御するという構図だ。
「守るな! 生きるための戦いだ!」
「元は仲間でしょ! 生きるために犠牲を必要とするなよ! 恐がるな! 戦う方向性が間違っているでしょ!」
クナイが投げつけられ白い翼で防御する。
「こんな戦い続けていたら、絶対に自分を許せなくなる!」
義経が蝙蝠のような翼を畳み近づいてくる。
「君は妖怪を倒しに、我々を救いにやってきてくれた勇者だったんじゃないのか!?」
「救いに来たさ! 何もかもを! みんなが後悔しない選択をできる世界にするために!」
奏楽の背後から手裏剣が再び投げられ防御できずに牛鬼が悲鳴を上げる。
ギャアアアアアアア!
女のような叫び声だった。
「やめろ! みんな! 恐がるな!」
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日は上がり、一旦忍たちは帰ることに。義経は言葉を残したのだった。
――また次に邪魔するようであれば容赦なく打ち取るかもしれない。覚悟しておいてくれ。
牛鬼と二人、森の中取り残された奏楽は牛鬼の蜘蛛のような体を撫でた。
「大丈夫だよ」
「よいのか人間。我は貴様を食らうかもしれんのだぞ?」
奏楽は微笑を浮かべた。
「それが、あなたたちの復讐だから。ですよね?」
牛鬼は理解されていたことに感謝するような言葉を伝えた。
「今宵は守ってくれてありがとう。だが、我らが人間と敵対する理由は消えはしない。もう守ろうとしないでほしい。人間の狩りも終わらず、我らが人間を襲うことも終わらない」
「そんなことって。人間を襲うのを止めてみようよ!」
「それはできない」
牛鬼は身体を丸くし縮こまると人間の姿に擬態した。その姿はかつての人間の姿だった。きっと誰もが認めるような美しい女性。
「私の姿を見たあなたもこれで石になります」
そんな馬鹿なと思いながらも奏楽の体は石になることはなかった。
「君は美しいと思う。でも俺は石にはならない」
「いえ、石にするのは私ではなく女神様です」




