19話 後編 妖怪が出る世界
夕方になり義経がそろそろ起床すると感じ、奏楽は彼の自宅へと向かった。
義経には聞きたいことがたくさんある。口減らしの結果が妖怪の発生とはどういうことなのか、そして人型の石像は何なのかということだ。
また彼の自宅にやってきた奏楽は玄関まで出てきた眠そうな義経を前に一礼した。
「やあおはよう。悪いね。昼夜逆転してて」
「おはようございます。今日は聞きたいことがあってやってきました」
起きたばかりの義経は食事を摂るらしく、席を一緒にしないかと提案される。
奏楽はその提案に答え共に食事をすることにした。
〇
ご飯と焼き魚とみそ汁と漬物。やはりどこか奏楽の世界の食事文化を感じさせるメニューだ。テーブルの座布団に座らせてもらい料理を前にお礼を言う奏楽。
「ありがとうございます。いただきます」
用意してくれた義経の妻は「ごゆっくりどうぞ」と返す。
義経は「いただきまーす」と言って箸を手に取り食事をはじめる。奏楽も箸を手に取りみそ汁からいただく。
「……美味しい」
味は沙織の家のものと似ている。当たり前だが、使う味噌もだしも同じならば似た味になるのも当然のところだ。
それよりも聞かなくてはならないことがある。
「義経さん。今日はあなたに聞きたいことがあって来ました」
「そうだと思っていたよ。で、用件は?」
「この町の、いや国なのかもしれない。口減らしで犠牲者が妖怪化するとはどういうことなのでしょうか?」
義経は食事を摂りながら答える。
「この国か……。この国なのかはどうかは分からないな、だけど、口減らしの犠牲者が妖怪化というのは本当だ。人間に化けることがあるが、それは人間だった頃の姿とされる。襲うために化ける。身を守ろうとして化ける。いずれも卑怯な技さ」
奏楽は箸を動かしながら次の問いをする。
「もう一つ聞きたいことがあります。草原の人型の石像はなんなんですか? あれはどうしてあんなに草原に置いてあるのですか?」
義経はみそ汁をすすりご飯を食らい咀嚼する。奏楽も焼き魚を食らい答えを待つ。
「そうだな。人型の石像は女神に変えられた姿とされている。女神メドゥル。彼女が罰として人を石に変えたのさ」
「罰ってなんですか?」
その質問に食を終え答える。
「不純な異性への思いを感知された場合だ。俺のように妻以外の者に異性としての魅力を感じた場合、石にされる」
「そんな、感じただけで?」
「感じただけでさ」
奏楽の眉間に皺が寄せられる。
「そんな。無謀な」
「無謀か。そうかもな。男も女も無理な話さ。だから殆どの人たちが顔を合わせないようにしている。だから君みたいな客人は珍しいんだ」
さらに感が働き次の質問に移る。
「ちょっと聞きたいんですが、もしかして妖怪化した犠牲者というのは、人が魅力を感じやすい人ではありませんか?」
義経は腕を組んで「そうだ。勘が鋭いな」と返す。
「では妖怪化させているのは?」
「そうだ……それはだな」
〇
この世界を統べる一人の女神の名はメドゥル。メドゥルはとある神に恋し、その恋は叶わなかったとされている。叶わなかったその身は呪いによって無数の蛇が生える体へと変貌させられた。
そんなメドゥルは叶わない恋をした者を裁くことにした。叶わない恋は罪としたのだ。それは単純に魅力を感じただけでも罪とされた。
罪人とされた者は石に変えられた。
罪人を出さないようにする術として、多数から魅力を感じやすい者を口減らしという強引な方法で町から追い出した。だが、ここで犠牲となった彼ら彼女らを可哀そうだとして妖怪に転生させた神がまたもや女神メドゥルであった。
魅力ある者が人間の群れから捨てられることを人間の勝手だとして復讐する術として妖怪化させたのだった。
メドゥルも妖怪のような蛇が無数に生えるモンスターのような姿となっている。救う者が同じような化け物の姿にさせるのも捻じ曲がった善意であった。
人間に捨てられし可哀そうな魅力ある者たち。その者たちは女神メドゥルの意により人間やめるという救いが与えられたのであった。




