20話 後編 石化の呪い
ふと背に冷たい感覚が過った。なんだこれはと思いながらも後ろを振り向くとそこには一人の女性が立っていた。
「……まさか」
牛鬼の姿を解いた女性はその正体を言う。
「女神メドゥル」
複数の髪の束が蛇の姿を成し、蛇は舌を出してシュルシュルと音を立てている。メドゥルは奏楽に声をかける。
「あなたは人を好きになった。でもそれは一時的なもの。叶わぬ恋は不誠実。あなたを罰さないとならない」
奏楽は慌てて撤回する。
「この人は綺麗だけど、会ったばかりだよ! 何がどうとかないって!」
メドゥルは首を横に振るう。
「では、会ったことの不運を呪うがいい」
何を言っているんだこいつはと思いながらも奏楽はどう動くのが正解かを考える。
女性は奏楽に「逃げて」と声をかける。
〇
走って逃げる奏楽の背後から蛇のシュルシュルする音が聞こえる。
「飛べばいいんじゃないのか」
奏楽は突如思いついた提案を飲み真っ白な翼を生やした。
「ペガサスの翼!」
その言葉にメドゥルは息を吞む。
「ペガサスの翼だと?」
白い翼を羽ばたかせ飛翔する奏楽を見上げる。メドゥルは聖獣の名を借りた翼を前にして硬直した。
「聖獣を罰するなどありえない……だが、恋をした。罰するしかない」
翼もなしに飛翔するメドゥル。彼女は白い翼で羽ばたき逃げる彼の後ろ姿を追う。
後ろから追ってくるメドゥルに問いかける奏楽。
「あなたの行いがこの世に悲しみを広げている。何故手当たり次第に石化なんてことをするんだ!」
「ペガサスの翼をもつあなたには分かるでしょう。叶わない恋は許されない。求めてはいけないのです。それを犯せば罪に問わなくてはならない。つまり、あの女性にときめいたあなたも罰さられないとならない」
「そんなめちゃくちゃな! 恋とときめきをごっちゃにするなんて」
〇
空中で追いかけっこを続けることに疲れた奏楽は逃げるのを止め空中で静止した。
静止した彼と相対するように空中で留まるメドゥル。
「罰せられる覚悟はできましたか?」
「そんな覚悟は持ち合わせていない。俺はあなたがしてきた負の連鎖を止めにやってきたんだ」
「私の行いが負の連鎖? 誰がそんなことを決めたの? この世界は私の決めたルールで人間はそこに適応し皆満足に生きている」
奏楽はその正気とは思えない言葉に反論する。
「どこが満足なんだ! 石化されたくないあまり美人美男は追い出され孤立し、あなたの勝手な力の行使により妖怪となり、妖怪の復讐を恐れて狩りをする忍たち。これのどこが皆満足なんだよ! 血みどろの戦いの日常じゃないか! 誰がこんな生活を求めているんだ!」
メドゥルは首をかしげる。
「だから、適応できているではないか。我のルール、作った世界の理に反さず、適応している。これは人間たちを評価するべきところではある」
会話が成り立たない。伝えたいことがこの女神には通用しない。
〇
奏楽は怒りを覚えていた。これだけ人が苦しんでそれを適応という女神。人の生活を豊かに幸福度を増すような世界にしない。いやする気がない。暴力や悲しみが蔓延る世界を適応できていると評価している。この女神をこのままにしてはおけない。
奏楽はライフルバックからライフル銃を取り出しメドゥルへ銃口を向けた。
「あなたは、世界を、人間を愛してはいない」
するとメドゥルは一瞬の間に移動し銃口を掴み、それを外側へ向け自分には当たらないようにした。
「お主は分かっていないようだ。私は女神だ。神なのだ。神の作った世界に適応するべく努力するのが人間なのだ」
メドゥルは額に第三の目を持ちそれが開かれた。第三の目に見られた奏楽は化石化し体が動かなくなっていくのを感じる。
空から地へと落下し、そのまま全身石となり動かなくなった。




