16話 前編 異世界の神話
とある手術室、異世界で大学の講師をしているアラモード博士と助手をしている女性ナニカ・ナンデモはとある昔話をしていた。二人とも手術する際の青い衣服を身に着けている。
ナニカが子どもの頃の話。母親と一緒にとある野原へ出かけた時のこと。野原から犬の鼻が突き出ていた。母親は「綺麗なお鼻畑」と言いナニカはこの光景を不思議に思いながらも受け入れていた。
気に入ったお鼻を掴み、地面から引っこ抜くとまんま犬であった。
アラモード博士はその光景を「異世界だからこそだね」と言う。
ナニカはアラモード博士の故郷の世界にはお鼻畑はないのかと問うとアラモード博士は首を縦に振った。
「さて、そんなことよりも一つ仕事を終わらせてしまおう」
モンスターの死体の解剖が仕事。クエストなどでモンスターが狩られると解剖し検視をする必要が発生することがある。狩られたモンスターが新種であったり人を襲っていた場合、その証拠が必要になることがある。
アラモード博士はメスを置き手袋を外すと手術帽子とマスクとを外して笑顔で言った。
「それに今日はピラミッドやら神話を聞きたいお客さんが来るからね」
アラモード博士の目は茶色く、髪は真っ黒い日本人の特徴をもっていた。
〇
奏楽と吉塚そしてノワールとナナは異世界のとある王国の城下町にある王都大学という学者や学生が集まる場所へとやってきた。研究室へと通されるとまず出迎えたのが棚の上に立たせてあるデフォルメされた恐竜の骨であった。
奏楽は思った。異世界にも恐竜がいたのか。
奥のデスクから手が伸びて軽く振る。
「やあ、待ってたよ」
奏楽は驚いて思わず声を上げる。
「日本人?!」
吉塚も同じようで驚いた表情をしている。
「そうだよ、君たちと同じ世界の人間だよ。木村大土というこの大学で講師をさせてもらっている者だ。そして……」
助手の女性に手を向ける。
「僕の助手のナニカ・ナンデモだ」
アラモード博士の正体は日本人で名を木村大土であった。アラモード博士は愛称のうようなもので、スイーツを食べてばかりな生態のためニックネームとして付けられた別称だった。
〇
デスクの前のテーブル席に四人が座り、アラモード博士が作っておいたパンフレットを助手のナニカがそれぞれに手渡す。
パンフレットには女神ヘイラーのピラミッドと書かれていた。
「そのパンフレットを見ながら話を聞いてほしい」
――まずヘイラーとはこの異世界に存在している女神なんだ。その彼女、女神に転生するために作られたピラミッドだとされている。元は人間ということだね。彼女は亡くなる前に女神に転生するとシャーマンから予言されていたんだ。それで町の皆と王都の国民で作ったんだね。
奏楽は「女神も転生をして女神なのか」と呟く。女神ヘイラーも初耳だ。女神は一人じゃないことを証明している。
「あの、女神って何人いるんですか?」
奏楽の問いにアラモード博士が答える。
「四人だね。フリイグ、ヘイラー、ノールン、イズルン。いずれも皆この異世界を統べる女神さ」
「魔女をつくっている女神は誰なんですか?」
アラモード博士は奏楽の質問に対し困ったような表情で答える。
「困ったなあ。この話題は女神様の陰口に他ならないよ?」
「知りたいんです。なぜ魔女なんかをつくるのかを」
困りながらも答える。
――女神様はね。さっきも言った通り転生して女神になっているんだ。全てを捧げて女神になっている。恋愛などもしたことがない聖女という扱いの神様なのさ。それ故に嫉妬もある。どこか自分と同じように生きてほしい願望があるのかもしれないね。
〇
だが奏楽はその女神による悪行から人々を救い始めてしまった。転生者を作り出すのも女神、また転生者が必要な理由の一部も女神によるもの。
奏楽は余計なことをしてしまったのではないかと不安になる。それこそ女神に目を付けられたのではないかと。
「俺のやってきたことは正しいと思う。だけど、女神にとって俺はやってはいけないことをしたのではないかと思うことがある。それこそ人知を超えた彼女らと敵対することとなったらと考えると恐ろしい」
まさか自分も老婆のように呪われてしまうかもしれないのではないかと怯える。
笑みを浮かべてアラモード博士は「大丈夫だ」と言う。
「君がやったことは女神の失敗を尻拭いしたことかもしれない。呪いを人間に与えて解除できなくあちらも困っていたとしたら君は文字通り英雄だ」
言われた言葉「英雄」がちょっと大げさすぎに聞こえた。




