03話 異世界転生
気が付けば辺りは闇に包まれており何もない場所に立っていた。思わず奏楽は独り言をつぶやいた。
「ここはどこだ? 俺は死んだのか?」
その質問に答える者はいないかと思われたが、いきなり目の前に美しい女性が現れその答えが返ってきた。
「そうです。あなたは死にました。モンスターに足を掴まれそのまま人間が耐えられないダメージを負ったのです。勇敢な死でした」
「あなたは誰ですか?」
女性はゆっくり頷いた。
「私はフリイグ。あなたの異世界転生を与える役割を持った女神です」
その言葉に戸惑いを感じる。死んだのだ。一人で戦いにわくわくして警察の目をかいくぐって一人で異世界に来て実力もなく死んだ。かっこ悪すぎる。
元気のない態度にフリイグは声をかけて励ます。
「お疲れ様でした。皆さんほとんどの方が自分にできることを成してここにやってきています。あなたも異世界でできることをやってここに来ました」
「いいや、俺は武器も持たずに突っ込んだだけの。馬鹿死にだった。情けないよ」
自分を情けないと言っている彼にフリイグは転生者としての素質があることを告げる。
「あなたはできることがまだあったと言いました。私は今からあなたにそのお手伝いをしようと思います」
そして「相応しい贈り物をします」と言った。
奏楽の背中が突如光に包まれ白い翼が生えたのだった。
「これはペガサスの翼。あなたに相応しい私からの贈り物です」
「あっ、ありがとうございます」
次はペガサスの翼について語る。
「ペガサスの翼は攻撃にも防御にも使えます。あなたの翼は勇者が持つにふさわしいのです」
「勇者か……。俺にそんな素質ってあるのかな」
フリイグは頷く。
「あるからこそあなたはここに来た。そして異世界に惹かれ自らここへやってきた。これがあなたの運命だったのです」
〇
――それでは行ってらっしゃい。本当の異世界ライフへ。
目が覚めて立ち上がるとそこには大木吉塚と牛頭の巨人とが戦っている最中であった。吉塚が牛頭の巨人の斧を剣で受け止める。剣で弾いて攻撃に回るとさらに斧で弾かれる。勝負は互角に見える。さらに少女のエクスマキナが攻撃に回りナイフを牛頭の巨人の背中に突き立てようとするも足で蹴られ吹っ飛ばされる。
倒れていた奏楽が立ち上がったことに誰も気づかない。
奏楽は「ペガサスの翼か」と呟き、両手を合わせてさらに詠唱する。
「ペガサスの翼!」
背後が光り輝き白い翼が生え空高くへと昇天した。
その瞬間吉塚と牛頭の巨人が彼の存在に気づく。
エクスマキナの少女は吹っ飛ばされた上体を立て直し拳銃を取り出して牛頭の背中に撃ち込んだ。背中を撃たれ悶絶する牛頭の巨人。
飛翔した奏楽はそのまま牛頭の巨人めがけて降下して突撃していく。牛頭の巨人にペガサスの翼が命中し胴体が切り刻まれる。そして後方へと吹き飛ばされごろごろと地面を転がった。
地に足を付けて一呼吸をする奏楽は己の背中から生えている白い翼を撫でた。
「これが、俺の転生者としての力……」
〇
牛頭の巨人は動かなくなり地面の上に転がっている。奏楽は初勝利を喜び余韻に浸りながらも警察のエクスマキナの少女がいることを忘れていた。
「異世界遭難者発見。任務了解。これより保護対象を保護し帰還する」
少女は右手を外しそれを右脇に抱え、右腕を前に構え光の輪を出現させる。その後、奏楽の手を左手で掴んで光の輪の中へと引っ張っていった。奏楽は冒険者吉塚に向かって叫んだ。
「ありがとう! 一度元の世界に戻る! 本当にありがとう!」
吉塚は光の輪の中に入っていく奏楽に手を振った。
転生を異世界で成し遂げたのにも関わらず、一旦元の世界へと戻ることとなった奏楽。これから警察署にお世話になることになるのが、その理由は前とは違う内容となる。
〇
警察署で事情聴取を受ける奏楽であったが、その際に警察からの協力を申し込まれることとなった。異世界転生し異世界のモンスター耐性が出来上がっているためである。転生する際に女神フリイグからいただいたペガサスの翼。空も飛べれば攻撃や防御としても立ち回れる。転生する者は冒険者として異世界に旅立ってしまう。異世界耐性のある戦力は非常に貴重なのだ。
「明日からうちのエクスマキナとともに君には戦ってほしい。力のない一般市民を守れる力は一人でも多くほしい」
異世界失踪に巻き込まれた人々のため明日からエクスマキナの少女とともに異世界へと行き戦うこととなる。
〇
明日の朝、警察署へと向かうと異世界研究捜査部というところに案内された。そこには段ボールに入ったエクスマキナの少女と黒ずくめの恰好をした男の警察官2人が待っていた。
警察官の2人は自己紹介をする。警察官の一人目の名前は大島輝幸。ちょっとだけ太っている。四十歳の警部である。もう一人の長い髪を縛っているのは佐々木和則。三十七歳の警部補である。ちなみに異世界研究捜査部はこの2人しかいない。
「よろしく頼みます。転生者として」
2人の警察官は奏楽に頭を下げるのであった。
ではさっそく異世界へ行く方法だが、一つ目はエクスマキナの少女によって右手を外し右腕の先から発生させる光の輪を潜って異世界へ行く方法である。もう一つが遭難といわれる異世界に巻き込まれる方法。奏楽が今まで経験した異世界行きの方法は2つ目の方となる。
これから遭難した者を保護したり、怪物いわゆるモンスターが発生した場合は倒して保護対象を守ることになる。
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さっそく町へ繰り出す警察官2人と奏楽。相変わらず怪しげな黒ずくめの恰好で一生懸命段ボールを運んでいる。異世界の問題は機密事項でエクスマキナの少女を他人に見せるわけにはいかないらしいのだ。
奏楽はアドバイスの言葉をかけた。
「台車使えば楽じゃないだろうか」
その通りらしく警察署でどこからか台車を借りてきてその上に段ボールを置いた。これで押すだけで運ぶことができる。
ふと急に町中でエクスマキナの少女が起動した。
「反応キャッチ。起動完了。これより任務を開始する」
段ボールの中から立ち上がり右手を外して右脇に挟んで右腕から光の輪を発生させる。警察官2人はタブレットを取り出してエクスマキナの少女の視界を共有する。
「じゃあ、よろしく頼むよ」
大島警部に頼まれ光の輪の中に入っていく奏楽、そして奏楽の後を追う形で異世界に入っていく右手を外したままの少女。
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異世界で出た場所は無人の霧の町だった。霧がモンスターがいることを教えているようなもので、この世界の住人はそれを理解しているため人がいないのは当たり前なのだ。霧が出る前に住民たちはどこかへ避難している。
霧の町を歩く少女と奏楽。
空を飛んでみてみようと背中に意識を集中させる。
「ペガサスの翼!」
白い翼が広がり、そのまま羽ばたいて飛翔する。だが結局霧のせいで上から地上を観察しようとも見えない。
「駄目だ。何も見えない」
そのまま地上へ着地しペガサスの翼をたたんだ。
このまま歩き続けるしかない。エクスマキナが起動したということは何か異世界の反応があったということだ。そしてこの霧が出ている状態を思えば確実にこの霧の中に何かがいるはず。
〇
大きな橋にたどり着いたところで少女の反応があった。
「反応キャッチ」
橋の向こうに何かがいる。また赤子のような泣き声が聞こえてくる。
「どっちだ? 遭難者か? モンスターか?」
赤子を抱く女。あれは前にも見たことがある。女の顔面にはミミズのようなものが這って赤子は巨大なミミズのような怪物であった。
少女はナイフを抜いて走って向かっていく。
「やはりそっちか!」
奏楽は翼を広げて低空飛行をし赤子を抱く女へと向かっていく。だがこの時はっきりと人間の赤子の顔が見えたのだった。
「何?!」
少女の方はナイフを持って駆けだしている。
「いけない! そいつは本物だ! 遭難者だ!」
少女は赤子を抱く女の首を切り落とす。するとはねた首から羽の生えた虫が飛び出しては歪な羽音を立てて赤子にストローのような口を突き刺そうとする。少女は羽虫のストローのような口の筒を掴みへし折った。
「保護対象確認。任務了解。これより保護対象を確保する」
少女は赤子を無理やり奪い取り、首から上が羽虫のモンスターを蹴り飛ばす。
すると羽虫は羽ばたいて今度は空から地上の少女と保護した赤子に向かって飛んでいく。奏楽は翼を羽ばたかせて羽虫のモンスターに向かって飛んでいった。
「させるかよ!」
対向して飛ぶ奏楽のペガサスの翼が羽虫の羽を切り刻み羽虫のモンスターは地上へ墜落していった。地上でもがく羽虫のモンスターに少女は背中のホルスターから拳銃を引き抜いて数発撃ち込む。
羽虫のモンスターは動かなくなり、無事赤子の遭難者を保護することに成功したのだった。
「任務完了。一名の乳児を異世界から救出するため脱出の許可を申請――了解。これより異世界から脱出する」
これから奏楽はこのエクスマキナの少女と共に戦っていくことになるのだろう。




