21話 神の贈り物
目を覚ますと真っ白な空間にいた。奏楽は上体を上げて辺りを見回した。何もない。
だが突如として白いマントに身を包んだ白髪の男が現れた。
「目を覚ましたかね、異国の勇者よ」
年齢は四十代辺りだ。
「あなたは?」
「私か? 私の名はゼウシウ」
「……神様ですか?」
ゼウシウは「そうだ」と呟く。
「私は勇者を助けに来たのだ。世界を救うため別の世界から訪れたあなたを」
奏楽は不思議に思った。いつも神は見て見ぬふりだったからだ。何故今になって助けるのか。
「あなたが神様ならば、メドゥルの負の連鎖を止められるのではないですか?」
「それは難しいな」
奏楽は「何故?」と問う。
「私はメドゥルが惚れた神だからだ。彼女のやり方ならば私は迫害される側。私の声は届かぬだろう」
「でも、あなたにできないことを如何にして俺ができるというのですか」
ゼウシウは「君ならできる」と言い残しその姿を消した。
「君みたいな人が来るのをずっと待っていたのだから」
〇
石化が解け森の中で立ち尽くす奏楽。
「呪いが解けたのか。いや、解いてくれたのか」
首には赤い宝石が埋められた金のネックレスがかけられていた。
「これのおかげか」
この宝石を使い石化した人々を元に戻すことができる。だが妖怪化した者たちをどう救えばよいのか。どうすれば狩る狩られるという関係性を終わらせることができるのか。
〇
朝になり妖怪たちも忍たちも戦いを止め寝床へ戻り休息をとっている。奏楽は世話になっている沙織の家には戻らず森の中に身を隠していた。彼女の迷惑にならないようにだ。
湖の前で休憩していると、のっそのっそ近づいてくる影がある。その正体は牛鬼であった。
「無防備でそんなところにいるとは。食ってやろうか」
奏楽は「それはご勘弁を」と言い返した。
予想していた反応とは違い驚く牛鬼。
「お前、この俺が怖くないのか?」
「怖くないさ。人間だもの」
牛鬼は人間の姿に擬態すると奏楽の隣に座った。二十代の人間の男の姿だ。
「変な奴だな」
「そっちこそ好きでそんな姿になった訳じゃあるまいし、脅して町に帰そうとしただけだろ?」
不思議そうに男は尋ねる。
「お前、なんでそんなことまで分かる? 実際に復讐心で襲っている奴だっているだろ?」
「そうかもしれない。でもあなたは違う。なんとなくそう思う」
男は「そうか」と呟き、二人は湖で何を話すでもなく座り続けた。
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草原へ行き一体の石像にゼウシウからいただいた赤い宝石が付けられた金のネックレスをかけた。すると表面の石が砕け中から人が現れた。
ついてきた男は「まさか」と呟く。
「そうだ。もう君たちは狩られる必要もなければ狩る必要もない」
涙を流して喜ぶ男。そして石化が解けた女性を受け止める奏楽。女性は目を覚ますと何が起こったのか分からないで混乱していた。
奏楽はどこか悲し気に感傷に浸っていた。
「なんで俺がこの世界に来るまでこの役割を誰も担わなかったのだろう」
自らが妖怪となりその身を守ってきた男がその答えを言った。
「あんたみたいな受け入れない正しさを持つ勇敢な人がいなかったからじゃないかな。ほら、神の次元の話だし。これを受け入れない方が珍しいんだって」
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石化が解けた女性は奏楽にお礼を言って家に戻っていった。奏楽は石化を解くネックレスを手に次の人型の石像へ向かっていく。
するとメドゥルが現れ妨害するように人型の石像の前に立ち塞がった。
「何やら珍しいものを持っているようだな。どこで手に入れた?」
「神ゼウシウからいただきました」
「…………」
メドゥルは言葉を失っていた。
「なるほど、で、そのネックレスを使って石化を全て解こうというのか?」
「そうなりますね」
まっすぐな奏楽の態度にメドゥルは苛立ちを覚えていた。
「そんなことが許されると思っているのか!」
「許されるから、神よりいただいたのです。神はあなた一人じゃない」
奏楽とメドゥルは見合ってどちらも引こうとしない。
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メドゥルは「やらせない」と言い第三の目を開ける。しかし奏楽はネックレスの力で石化はされない。彼女の髪の束が蛇となり、威嚇をはじめる。
「俺は石にはならないよ」
「そんなことは分かっておるわ戯け」
走り出し向かってくるメドゥル。
奏楽は詠唱し白い翼を展開する。
メドゥルの髪が伸び蛇となるそれが奏楽に襲い掛かる。奏楽は翼で弾き抵抗する。
あらゆる角度から蛇の牙が襲いかかり足や腕を狙ってくる。
「この翼は攻撃にも防御にも使えるペガサスの翼。フリイグ様からいただいた力だ」
メドゥルは攻撃を諦め蛇を一旦退かせる。
「それで、神から力を貰いすぎなお主はどうする。私が作り上げたこの世界を作り変えるとでもいうのか」
「いいえ、そんなことはしません。呪いがない元の世界へと戻っていくだけです」
下唇を噛みながらメドゥルは後ろへ下がっていく。
「己惚れるなよ。これで終わったと思うな。人間の争いはバランスを欠ければすぐだぞ」
そしてメドゥルの姿が消えていく。まるで最初からそこにいなかったかのように。
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奏楽によって石化された者たちが次々と解放されていった。その行いをいつの間にか忍の恵比寿義経も見守っていた。
石化を解きながら義経に話しかける。
「これでもう、妖怪狩りをする必要はありませんね」
「……それとこれとは話は違う。奴らが襲ってこなければよいのだから、身を守るために戦う必要があるのだ」
やれやれと思いながらも事は起こった。草原に牛鬼が突如発生したのだ。
義経は「見たことか」と言い、自宅へ真っ先に帰っていく。おそらく戦いの準備のためだろう。
奏楽は牛鬼の前に立ち慌てることなく語り掛けた。
「そこの妖怪よ。何を求める。何をどうしてほしい。伝えてくれ」
牛鬼は人間の女の姿へ擬態し歩み寄ってくる。
「私たちを捨てた者たちへの復讐心が我々にはあります」
「もう石化の呪いは解け、君たちのような者たちが作られることがないとしてもか?」
女の両手が握りこぶしとなり伝えきれていない感情があるように見えた。
「私たちは、ただ生まれてきただけ。それなのに人々の営みさえ許されなかった。この苦しみを、なかったことにはできないこの苦しみを如何にして浄化できるというのですか?!」
奏楽は言葉に詰まった。どんな言葉をかけてやればよいのか分からなかったからだ。
「でも、それでも、戦うのは不毛だ。君たちが苦しんできたことも分かる。俺も君たちの仲間を撃ち殺してしまった。君の言う通りなかったことにはならない。それは本当だ。だけど、これ以上争い続けて、どちらかが死に絶えるまで争い合ってどうなるっていうんだ!」
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神の世界からメドゥルは奏楽と妖怪の人間に擬態している者とのやり取りを眺めていた。
「これはこれは。思った通りのことになっておるぞ。人間はそう変わらない。不幸を不幸のままにしておきたくないのは当然のこと。神である我もそうなのだから」
世界の様子を覗くメドゥルを悲し気な表情で見つめるゼウシウ。
そうなかったことにはならない悲しみの行方が大事なのだ。これからどうなっていくのかを見定め対処していくのが奏楽の役割だった。
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夜になり、忍たちが行動を始める。妖怪退治の時間だ。
空を飛ぶ忍や草原を駆ける忍やらが森の中へと入っていく。森の中が妖怪たちの住処となっている。
奏楽は妖怪たちとともに行動していた。
人間の姿をした牛鬼たちの群れの中で奏楽は指示を出す。
「絶対に手を出してはいけない。こちらに戦意がないことを証明するんだ。報われる報われないはその後だ。戦い以外でその答えを探していくんだ!」
妖怪たちは皆彼の声を聞き人間の姿を解く者はいなかった。




