19話 妖怪が出る世界
石造りの病院に着いたことで負傷した者を治療することとなった。そして牛鬼を倒したことで奏楽は黒い蝙蝠のような風貌の装備をしていた男たちに信頼を持たれたのだった。
武装を解くと蝙蝠のような仮面を外し、黒い髪の日本人らしき顔が露わになる。忍のリーダー恵比寿義経である。
「やあ、君は転生者なんだよね? さっきは仲間を助けてくれてありがとう」
「転生はしましたが、どっちかというと転移ですね」
「転移? どっちにしても助かったよ。妖魔は見た通り人間に擬態するから戦えない転生者がいたことがあったから。君は戦えるタイプみたいだね」
奏楽は腕を組んで戦えるタイプと言われたことについて考え込んでしまう。
「いや、俺は人間を襲う者から人間を守りたかっただけですよ」
そこへフリイグがやってきて「お疲れ様です」と労いの言葉をかける。
「置き去りのようで言いずらいのですが、私は先に帰らせていただきます。終わり次第またお迎えに参ります」
奏楽は戸惑ってしまう。終わりとはいつになるのか。一人置いていかれるようで不安で仕方がない。
「終わりとはいつ頃になるのでしょうか?」
するとどこかで聞いたような声が病院内に響き渡った。
――いつ頃も何も貴様次第である。
突如現れた金の甲冑を身に着けた茶髪の男。自称神の中の神オーディオデである。突如急に登場フリイグの腕を掴む。
「さあ、帰るぞ。長いしすぎだ。貴様は転生者を甘やかしすぎなのだ」
奏楽は黙ったまま二人が消えていくのを見送った。
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奏楽は考え事に浸る。終わったら帰れるというのはおそらく妖怪退治のことだろう。だとしたらまず蝙蝠のような風貌のハンターたちから話を聞くのが一番だろう。
蝙蝠のような風貌の忍者たちのリーダーである義経から話を聞くことに。
義経は病院の椅子に座り同じように座るように奏楽に促した。
「聞きたい話があるんじゃないかな?」
――まずやってくる転生者は皆、神の啓示によって現れるとこちらは聞いている。君の場合、転生じゃなく転移だったかな。まあ、どちらにせよ。君たちは神様によって送られてくる。今我々は妖魔と戦っている。君にはその戦力になってほしいということだと思うんだ。
妖魔だか妖怪だか分からないけど。そんな存在を根絶すること。それが奏楽がやるべきことなのだと。
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この世界に来てから世話になっている近藤沙織というこの世界で世話になっている女性の石造りの家に戻り、出された布団で奏楽は寝りについた。明日も妖怪退治となることだろう。
そして大事なことがある。それは妖怪の正体だ。どうも妖怪は口減らしの犠牲者が変異した姿らしいのだから。
明日はその件について忍に問いたださなくてはならない。何と戦わなきゃいけないのかそれを知る権利が奏楽にはあるからだ。
奏楽は布団の中で寝返りをうち思考を止めた。
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神の世界でオーディオデはフリイグに問うていた。
「どうだあの豊餅奏楽というのは。使えるのか? ヘイラーの呪いで穢れていた世界を浄化したくらいの実力なのだろ?」
「はい。豊餅奏楽には実力があります。ずっと見ていましたが、彼には物事の質を見る力が備わっています。きっとあの世界の穢れも何とかすることでしょう」
オーディオデは玉座の様な椅子に座って、グラスで酒を酒を飲み美味いと唸る。
「まあ、とりあえずだな。様子見は任せた。お前はよい雑兵を見つけたぞ」
フリイグは頭を下げ、その場から去った。
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次の日の朝、目を覚ました奏楽は沙織から朝食をいただいた。メニューはご飯とみそ汁、そして卵焼きと漬物だった。何の変哲もない普通の朝食だ。元の世界と同じ食文化がこの世界にもあった。
朝食を摂り終わると、蝙蝠の装束を着た忍・恵比寿義経に会いに行ったのだが、彼はまだ就寝中だった。彼の妻が代わりに玄関から現れ彼がまだ寝ている理由と妖怪退治について教えてくれた。
妖怪は夕方から夜にかけて現れることが多い。つまり朝はやることがない。妖怪退治をする忍は主に夜に活動するため朝は寝ている時間にしている者が多いらしいのだ。
義経には沙織から聞いた「妖怪は口減らしのために犠牲になった者が変異した姿」の意味を問いただしたかったところだが、寝ているのであれば仕方がない。
義経が起きるまでの間、奏楽はこの世界の観光をすることにした。観光といっても草原と人型の石像が立っているだけなのだが。
だが気になるのがなぜ人型の石像なのかが気になるところだ。まるでメドゥーサに石にされたかのようだ。
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夕方になり義経がそろそろ起床すると感じ、奏楽は彼の自宅へと向かった。
義経には聞きたいことがたくさんある。口減らしの結果が妖怪の発生とはどういうことなのか、そして人型の石像は何なのかということだ。
また彼の自宅にやってきた奏楽は玄関まで出てきた眠そうな義経を前に一礼した。
「やあおはよう。悪いね。昼夜逆転してて」
「おはようございます。今日は聞きたいことがあってやってきました」
起きたばかりの義経は食事を摂るらしく、席を一緒にしないかと提案される。
奏楽はその提案に答え共に食事をすることにした。
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ご飯と焼き魚とみそ汁と漬物。やはりどこか奏楽の世界の食事文化を感じさせるメニューだ。テーブルの座布団に座らせてもらい料理を前にお礼を言う奏楽。
「ありがとうございます。いただきます」
用意してくれた義経の妻は「ごゆっくりどうぞ」と返す。
義経は「いただきまーす」と言って箸を手に取り食事をはじめる。奏楽も箸を手に取りみそ汁からいただく。
「……美味しい」
味は沙織の家のものと似ている。当たり前だが、使う味噌もだしも同じならば似た味になるのも当然のところだ。
それよりも聞かなくてはならないことがある。
「義経さん。今日はあなたに聞きたいことがあって来ました」
「そうだと思っていたよ。で、用件は?」
「この町の、いや国なのかもしれない。口減らしで犠牲者が妖怪化するとはどういうことなのでしょうか?」
義経は食事を摂りながら答える。
「この国か……。この国なのかはどうかは分からないな、だけど、口減らしの犠牲者が妖怪化というのは本当だ。人間に化けることがあるが、それは人間だった頃の姿とされる。襲うために化ける。身を守ろうとして化ける。いずれも卑怯な技さ」
奏楽は箸を動かしながら次の問いをする。
「もう一つ聞きたいことがあります。草原の人型の石像はなんなんですか? あれはどうしてあんなに草原に置いてあるのですか?」
義経はみそ汁をすすりご飯を食らい咀嚼する。奏楽も焼き魚を食らい答えを待つ。
「そうだな。人型の石像は女神に変えられた姿とされている。女神メドゥル。彼女が罰として人を石に変えたのさ」
「罰ってなんですか?」
その質問に食を終え答える。
「不純な異性への思いを感知された場合だ。俺のように妻以外の者に異性としての魅力を感じた場合、石にされる」
「そんな、感じただけで?」
「感じただけでさ」
奏楽の眉間に皺が寄せられる。
「そんな。無謀な」
「無謀か。そうかもな。男も女も無理な話さ。だから殆どの人たちが顔を合わせないようにしている。だから君みたいな客人は珍しいんだ」
さらに感が働き次の質問に移る。
「ちょっと聞きたいんですが、もしかして妖怪化した犠牲者というのは、人が魅力を感じやすい人ではありませんか?」
義経は腕を組んで「そうだ。勘が鋭いな」と返す。
「では妖怪化させているのは?」
「そうだ……それはだな」
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この世界を統べる一人の女神の名はメドゥル。メドゥルはとある神に恋し、その恋は叶わなかったとされている。叶わなかったその身は呪いによって無数の蛇が生える体へと変貌させられた。
そんなメドゥルは叶わない恋をした者を裁くことにした。叶わない恋は罪としたのだ。それは単純に魅力を感じただけでも罪とされた。
罪人とされた者は石に変えられた。
罪人を出さないようにする術として、多数から魅力を感じやすい者を口減らしという強引な方法で町から追い出した。だが、ここで犠牲となった彼ら彼女らを可哀そうだとして妖怪に転生させた神がまたもや女神メドゥルであった。
魅力ある者が人間の群れから捨てられることを人間の勝手だとして復讐する術として妖怪化させたのだった。
メドゥルも妖怪のような蛇が無数に生えるモンスターのような姿となっている。救う者が同じような化け物の姿にさせるのも捻じ曲がった善意であった。
人間に捨てられし可哀そうな魅力ある者たち。その者たちは女神メドゥルの意により人間やめるという救いが与えられたのであった。




