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17話 神の中の神

 ある日、豊餅奏楽は女神の夢を見た。女神フリイグ。彼女は奏楽が異世界転生を担った女神だ。

 彼女と会って話すという内容だった。長年魔女として生きてきた女性を助けたことでお礼を言われたのだ。魔女を発生させた元凶は女神ヘイラーという嫉妬が強い神様だった。

 異世界の問題が解決に向かっていく中で、また別の問題が起こるという予言もあった。

 ――魔王が再臨する。ですがあなたはその問題よりも別の問題と向き合うこととなるかもしれません。

 そこで奏楽は目を覚まし、再び眠りへついたのだった。


      〇


 魔王はとうに倒されている。その魔王が復活するというのだ。

 ギルド内のカフェの四人席でその話を大木吉塚とも夢の話を共有する。

「もう倒しているんだがなあ。だがこれも女神の予言なのだから信じるしかない」

 奏楽は「そうなんだよ」と相槌を打つ。

「にしても、別の問題ってなんだろうな」

 そこへショートヘアでカチューシャを付けた十代後半くらいの黒い服を着た女性ナナ・アルファスが相席してくる。ナナは吉塚の隣に座りカフェラテを注文する。

「何の話してたの?」

 奏楽が答える。

「魔王が再臨するらしい」

「嘘? 本当に?」

 そこにさらに長い髪に髪留めを付けて額を出し黒い服を着ている二十代くらいの女性ノワール・セブーンがやってくる。

「何の話してたの?」

 吉塚が答える。

「魔王が再臨するらしいのだ」

「嘘? マジ?」

 不思議に思う者ばかりなのも仕方がない。何故なら魔王を倒したのは他でもない彼らなのだから。


      〇


 魔王城の王座に座る者がいた。白髪だが見た目は十代半ばの少年といったところだ。そんな若い男がなぜ魔王城のそれも王座に座っているのか。答えは明白だ。彼こそが新しい魔王なのだ。

 王座で腕を組んで何か考え事に耽っている。

 少年は言った。

「魔王ってなんだろう」

 白髪の少年は「おい」と声をかけると、王座の後ろから「はい」と声が答えた。

「何用でございましょうか。魔王様」

「魔王って何? 俺は何をすればいい?」

 少年の背後から黒い煙が形を成していきタキシードを身にまとった金髪の男が現れた。タキシードの男は少年の手を握る。

「あなたはあなたのままでいい」

 だがそのままでいいというのもよく分からない。


      〇


 魔王城へとやってきた奏楽一行。吉塚やノワールやナナが同行した。辺りにモンスターはなく、遭遇もしなかった。

 魔王城は廃墟のように誰もいないように思える。謁見の間へやってくると王座に座る者がいた。白髪の少年だ。隣には金髪の執事のような男がいる。

 金髪の男は奏楽たちに「何用か?」と問う。

「魔王様の御前にまでやってくるとは」

 白髪の少年はじーっと来客を見つめている。

 吉塚は質問に答える。

「魔王は一般市民を苦しめる。モンスターに町を襲わせる」

 白髪の少年は金髪の男を見る。

「確かに歴代の魔王様の行いを見ると人を襲うこともありました。事実です」

 白髪の少年は「事実なんだ」と呟く。

 どうやら白髪の少年は巻き込まれただけのようだった。

「僕は半分人間で半分は獣の獣人さ」

白髪の少年は説得するように語り始める。

「この世界に魔王は必要なんだよ。魔王がいるから知恵のあるモンスターを管理できる。魔王がいるからダンジョンだってできる。管理した方が人間にとっても都合がいいはずなんだ」


      〇


 話合う奏楽たちと新しい魔王の少年。突如彼らの間に光が差し込み天井が崩れ落ちた。光と共に現れる金の甲冑を身に着けた茶髪の男がゆっくりと降りてくる。

 金発の男が少年を守るように立つ。

 金の甲冑を身に着けた茶髪の男が声を高々にして宣言する。

「我こそが神の中の神。オーディオデである」

 吉塚は驚愕して思わず声が漏れてしまう。

「馬鹿な。……神がこの世界に実体を持って現れるなど」

「我は神の中の神。ゆえに実体を持って現れることなど造作もないことよ」

 奏楽は声を上げて訴える。

「今まで何もしなかった神様が一体今になって何の用なんだよ!」

 少々感情的になってしまっている様子。だがそれもそのはず奏楽が転生してから色々なことがありその度に対処してきた。目に映る景色は苦しんでいる人ばかりだった。ノワールやナナだって魔女の時間に苦しんできたのだ。やっとの思いで改善されて、それが今になって神が何の用だというのか。

「何の用だ? いい気になるな雑兵が。転生は神の世界からの賜物だということを忘れているらしいな。転生させてもらったならばその御恩を世界をよくする形で返すのは当然のことよ」

 オーディオデは腕を組んで地に立つ。

「そろそろ別の世界へ行くがいい。この世界はバランスが整いつつある。もっとひどい世界など数えるまでもないのだからな」

 手のひらを奏楽へと向けると奏楽の体が光の粒子に包まれる。

「俺が連れて行ってやる。この神の中の神がこの手で送ってやるのだ。感謝しろ」

 奏楽は仲間との別れの言葉も言えずに光の粒子に包まれて消えていった。


      〇


 光の粒子が視界から消えると奏楽は別の世界に立っていることに気付いた。辺りは草原で人型の石像がそこら中に建っている。

「ここは、どこなんだ?」

 近くの石像に手で触れてみる。

「石像、だよな」

 特に何の変哲もない石像。人型ということはここらの石像全てが誰かの手によって作られたということになる。まるでイースター島のように世界遺産に登録されていそうな場所だ。

 オーディオデはこの世界へ何のために奏楽を召喚したのだろうか。

 石像だらけの草原を一人歩いていく。


      〇


 草原を抜けると石造りの家が並ぶ町へとたどり着いた。石を積んでできた家がたくさん並んでいる。

 奏楽は水が入ったバケツを運んでいるポンチョを着た女性がいたので声をかけた。

「すいません。ここはどこですか?」

 女性は不思議そうな表情で答えた。

「ここは日本ですよ。日本の岩手県」

 奏楽は目を丸くした。ここが日本。面影がない。女性は怪訝そうな顔で質問する。

「あの、外国人の方ですか?」

 精神的に余裕がなく奏楽はどんな言葉を出していいのか分からない。

「日本育ちだけどこの日本じゃないというか」


      〇


 吉塚やノワールやナナは神の中の神オーディオデを警戒し距離を取っている。白髪の少年は王座から立ち上がり反発する発言をした。

「そちらが神の中の神ならば、僕は魔王だ」

 オーディオデは腕を組んで見下している。

「ほう、ならば魔王にはご退場願おうか」

 右手を上げて「グングニル」と叫ぶと一本の金色の槍が手に握られる。

 金髪の男は二本の短剣を構えて白髪の少年の盾になる様にして立つ。

「準備はできたか? 雑兵ごときが」

 グングニルを構え金髪の男へ投げ飛ばすと空中に閃光が走りターゲットを貫いた。

 白髪の少年は金髪の男の名を叫び倒れこんだ彼を腕で抱く。飛んでいったグングニルは自動でオーディオデの手へと戻っていき、さらに投擲しようとグングニルを構える。

「この世界は失敗だったのだ。呪いが充満しモンスターが蔓延るこの世界。我が手を下さなければならないほどにまでなっている。その証拠に新たな魔王まで発生している。一度は冒険者に倒され消えていったはず。なのになぜ再びこの世に魔王を生み出そうとする。再びこの世に混乱を与えるつもりか?」

 白髪の少年は首を横に振るう。

「……守りたいモンスターたちがいるから」

 その時オーディオデは気が付いた。この白髪の少年は人型のモンスターではない。人間だ。

「馬鹿な。モンスターの味方をする人よ。愚かな者よのう。倒されるべきは倒され、淘汰されるべきものは淘汰されるのだ」

 白髪の少年の前の盾になる位置まで吉塚が移動する。

「あんたが神だかなんだか分からんが、返してもらおうか。俺の友達を。奏楽はいったいどこに飛ばしたんだ!」

 めんどくさそうにオーディオデは首を曲げて答える。

「人間。我に逆らおうとするな。我は神の中の神。まあ、用事が終われば帰してやるさ。この世界に」


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