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王族の朝

悪女だと思われています。





 優しい手に頬を撫でられるのを感じた。

 目を開けると、隣に寝ているラインハルトと目が合う。


「おはよう、マリアンヌ」


 頬を撫でていた手がそのまま顎を掴み、キスされた。

 ラインハルトは覆い被さってくる。

 寝間着の上から胸を弄られた。

 柔らかく揉まれる。

 その手を掴んで、止めた。


「今日は国王様と一緒に昼食を食べる約束をしていますよね?」


 問いかける。

 昨日のように起き上がれなくなったら大変だ。

 それはもちろん、ラインハルトもわかっている。

 大人しく手を離した。

 だが、わたしの上から退くことはない。

 抱きしめられ、何度もキスされた。


 昨日の諸々を反省したらしいラインハルトと、わたしはいくつかの約束をした。

 回数を制限し、終わった後は風呂に入って着替えることにする。

 裸でだらだらするのがよくないのだと思った。

 ラインハルトはちゃんと約束を守ってくれる。

 一緒に風呂に入りたがるのは予定外だが、そこはわたしが折れた。

 わたしもいちゃいちゃするのが嫌なわけではない。

 ちゃんとTPOさえ弁えてくれるなら、やぶさかではなかった。

 ラインハルトみたいな美青年が自分に夢中なんて、悪い気はしない。

 加減さえちゃんとしてくれるなら文句はなかった。

 19歳の体力についていくのはさすがに無理がある。


「今日は起きられそうですか?」


 ラインハルトはキスをしながら聞いた。

 頬や耳元などのあちこちにキスされる。

 それがくすぐったかった。


「大丈夫です。今日はちゃんと挨拶に伺えます」


 わたしは答えた。


 昨日の朝、わたしは起きられなかった。

 そのことをみんなが知っていることをわたしは不思議に思う。

 だが、理由を聞いて納得した。

 わたしは知らなかったが、王族には朝の習慣がある。

 執務前に、国王のところに挨拶に伺わなければいけないそうだ。

 毎日一度、子供たちと顔を合わせることを国王は楽しみにしているらしい。

 昨日はそこにわたしがいなかったので、起きられなかったことが広まってしまった。

 そんな習慣があると知っていたら、無理しても起きたのにとも思ったが、身体がしんどかったのは事実だ。

 挨拶に行けたのかは微妙なところだろう。


 そのことも含めて、ラインハルトとは約束を取り決めた。

 二度と、起きられなかったなどという醜態をさらすつもりはない。


「それは良かった。父王もマリアンヌに会うのを楽しみにしていましたよ」


 ラインハルトは微笑む。


(ポンポコが? それは嫌な予感しかしないわ)


 わたしは心の中で苦笑した。

 だが、さすがに挨拶でまで何かあると考えるのは穿ちすぎだろう。

 あるとすれば、昼食だ。


「ところで、もうそろそろ時間ではないですか? 起きたいので、退いてください」


 覆い被さっているラインハルトを促す。


「もう少しだけ」


 ラインハルトは甘えた声を出した。

 ぎゅっと抱きついてくる。

 それが可愛くて拒否出来ないわたしもそうとう恋愛脳だ。


(新婚の時くらい、バカップルでも許されるよね)


 わたしは自分に言い訳した。






 朝食を食べ、わたしはラインハルトと共に王宮に向かった。

 腕を組み、並んで歩く。

 そんな風に歩くことはあまりないので、慣れなかった。

 なんだか歩き難い。


「もう少しゆっくり歩きましょうか?」


 ラインハルトは気遣ってくれた。


「すいません。なんだか、歩き難くて」


 わたしは謝る。


「もっとくっついた方が歩きやすいかもしれませんよ」


 言われて、ラインハルトに凭れてみた。

 さっきよりは少し楽かもしれない。

 だがそんな風にピタッとくっついて歩いていると、あちこちから視線を感じた。

 見られているのがわかる。


(今度はどんな噂になるのだろう?)


 少し気になったが、考えても仕方ない。

 たぶん、悪口だ。


「手練手管で誑し込んでいるとか言われているんでしょうね」


 わたしがぼそっと呟くと、ラインハルトが笑う。


「そんな手管、あるなら見せて欲しいですね」


 いやらしい笑い方をする。


「王子様がそんないやらしい顔をしては駄目ですよ」


 わたしは注意した。


「それに、そんなノリノリなわたし、ちょっと怖くないですか? わたしは引きます」


 眉をひそめる。


「それもそうですね。マリアンヌは案外初心で、何をしても恥ずかしそうに赤くなっているのが堪らなく可愛いのですから」


 耳元に囁かれた。

 わたしは固まる。

 恨めしげにラインハルトを睨んだ。


「そういう情報はいりません。心の中にしまっておいてください」


 怒る。

 自分の顔が赤いことは自覚していた。

 そんなわたしにラインハルトも微笑む。


「挨拶なんて止めて、このまま離宮に戻りたいですね」


 意味深な顔をした。


「馬鹿なことを言っていないで、さっさと行きましょう」


 わたしは急かす。

 王の執務室は角を曲がったところにあった。






 朝の挨拶は王の執務前の僅かな時間に行われる。

 何代か前の王の時に始まったそうだ。

 王子は結婚すると離宮を持って、独立する。

 親子でも顔を合わせる機会はぐっと経った。

 それを寂しがった王が執務前に挨拶に来るよう、王子たちに命じる。

 それが今も続いていた。

 最初は王子たちだけが挨拶にやってきたらしいが、いつからかそれは家族で来るように変わる。

 それによって、国王は息子家族の様々な変化に気づくことが出来るようになった。

 例えば、第二王子のマルクスの妃は実家に帰ったまま戻らないので、挨拶はマルクスと息子の二人で行う。

 第一王子のフェンディは第一王子妃と第二王子妃が犬猿の仲なので、二回に分けて別々に挨拶していた。

 そして第三王子の妃のわたしは悪女だと噂になっている。


(こうして考えると、どの息子も家庭に問題を抱えているってことになるわね)


 王族といえど、抱えている問題は庶民と何も変わらない。

 政務をこなしつつ、息子たちのことも心配している国王はわたしが思っているよりずっと大変なのかもしれない。

 食えない狸だなんて思って悪かったなと反省した。


 だが、ポンポコはやはり狸だった。

 挨拶に行って、それを実感する。

 ラインハルトと二人で並んで挨拶していると、国王はずっとにやにや笑っていた。

 前世なら、確実にセクハラだろう。


(にやけるな、ポンポコ!!)


 わたしは心の中で叫んだ。





国王とはお昼に話すので朝は挨拶だけです。

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