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第一部 月明かりと鏡
それは、人間たちの暮らす現世の、とある大陸に広がる果てしない大草原で起きたことだった。
何の前触れもなく、虚空に銀色の四角が現れた。
光を冷たく弾きながら、それは周りの空間をゆらりと波打たせ、大気を軋ませる。やがて、耐えかねた空間がガラスのように音もなくひび割れた。
——そして、砕けた。
星屑のような光の尾を曳いて、無数の銀の破片が四方へ散っていく。あるものは現世の街へ。あるものは見知らぬ次元へ。あるものは、生と死の境のあわいへ。そしてあるものは、忘れられた夢ばかりが降り積もった、遥かな積層の世界へと。
破片が落ちた先には、小さな「歪み」が生まれた。鏡の奥が揺れ、井戸の底が光り、夜の窓がほのかに波打つ。それは、現世の子供たちを別の世界へと吸い込むいくつもの入口だった。
そしてもう一つ。
破片が散ったその日から、忘れられた世界を塗りつぶしていく黒い染みが、どこかで静かに、けれど確かに滲みはじめていた。
草原に風が渡る。
割れた銀の四角のことなど、もう誰も覚えてはいなかった。




